プロローグー断片の記憶ー
初めまして、つば木と申します。
作者のノリで書いた作品のため、くだぐだとしていたりしますがお暇な時にでも笑いながら見ていただけると幸いです。
※6/12 加筆修正を行いました。
6/24 誤字修正を行いました。
燃え盛る炎の熱が部屋中に充満し、辺りを明るく染める。色鮮やかに飾られていた装飾品も黒く焼け焦げ、煤けたゴミへと変貌していた。
「あれ、ここは……」
崩れた木片をかき分け、アリスべリカは目を覚ました。
華やかな装飾が飾られた大広間、それも父が腕利きの職人を集めて作らせた貴族の見栄のための部屋だったはずだ。
それがどういうことだろうか。燃え盛る業火がそれを一つずつ喰らっている。残るのは、燃えきらなかった燃えカスだけだ。
辺りを見渡す。
残念ながら、今の惨状に至るまでの記憶がない。なぜ、燃えているのだろうか? お父様は? お母様は? 妹は?
私は慌てて立ち上がり、部屋の中を散策し続ける。身体は火傷の跡がいくつも目立つが、気にしていられない。それでも、同じように巻き込まれてしまったはずの肉親を探すしか脳は判断してくれなかった。
「お父様、お母様、何処にいますの? 」
焼けた皮膚がじんじんと痛みだす。
この惨状の中では軽傷の部類だが、隔てる熱気が彼女を苦しめ続けている。
「リアナ? 何処にいますの? 返事をしてちょうだい」
「お、お姉ちゃん」
声が聞こえた。
誰よりも知っている優しい妹の声。
「リアナ! 何処にいるの!?」
私は、痛みも忘れて駆け出した。
何処にいると言うのだろうか?
無事ならそれでいい。
そんな願いを祈りながら、焼け焦げた燃えカスを踏みつけ、声の主を探す。
着ていたドレスは所々が破れ、真っ白な肌が露になっている。
「ここだよ、お姉ちゃん」
その声の女は、簡単に見つけることが出来た。
先程の私の同じように木片に埋もれている。
いや、少し違うか。
妹は、"一部の木片が身体を貫通している"。
「なんで……」
「えへへ、避けるの失敗しちゃった……」
握りこぶしに力を込めて身体の震えを押さえる。
なんで? 私は無事だったのに。
涙を貯める私に対して、リアナは笑っていた。
「私は、まだ平気。お腹が痛くて、ジンジンするけど」
「あ、当たり前ですわ。リアナ、木が……」
「え、木? あ、ほんとだね」
妹はあはは、と乾いた笑みを浮かべる。
私はもう、限界だった。
「泣かないで、お姉ちゃん」
「リアナ、なんで貴方は笑っていられますの? 」
姉の疑問に妹は答える。
「お姉ちゃん、泣き虫なんだもん。だから、私が笑っていないとダメでしょ? 」
「い、今はそんな状況じゃないですわ! 」
「ううん、今だから。言わなくちゃダメなの」
リアナは少し強めな口調で、
「お父様もお母様も死んじゃったよ」
一言、事実を述べた。
聞きたくないと、アリスは耳を塞いた。
「大丈夫、お姉ちゃんは無事だから」
「でも、リアナが逃げられないじゃない! 」
誰も入れるはずがない炎の檻に囲まれた密室空間。煙が空気中を漂い、あと数分で窒息死してもおかしくないこの場所。
それでも、二人の言い合いは止まらない。
「私たちが遊んでいた秘密の通路から逃げられるでしょ? 」
「そんな道、知らない! リアナが知らないなら私も知らないわ! 」
「……」
「リアナが逃げないなら私も絶対残るから! 」
「私はもう……ダメだから。この身体じゃもうダメだってわかってるし」
リアナは笑う。
ただ、その状況、そして私を見て笑みを浮かべているのだ。
それでも、諦めきれない。
「きっと魔法使い様が助けてくれるから。諦めちゃダメよ! 」
「魔法使いは、万能じゃない、よ」
「私が助けを呼びますわ。それまで、リアナはここで……」
「うん。でも、それも無理かも。だって、もう限界なの。目を離したら消えちゃいそうで、お姉ちゃんがいなきゃ目も開けられないくらいで……」
「そんな……なら、私も! 」
私も一緒に死ぬ!
そう、言いたかったのに。
私の声を覆うように妹は叫んだ。
「なんでなの……はやくいってよ! 」
押さえていた感情を漏らす。
「お姉ちゃんが行かないなら嫌いになる! もう口も聞かない。話したくも……ないから」
痛みを堪えるように、妹は表情が歪む。
その様子に、私は言葉を失った。
「……ごめんなさい」
謝る。ただ一言、私はかける言葉を見失った。
いつも優しかった妹に怒鳴られたアリスは、驚きのあまり顔が自然と下がる。
燃える家具の崩れる音が部屋中をこだましている。この部屋はもう長くは持たないのだろう。
「だからさ、行って?」
妹は、涙を浮かべながら静かに、もう一度微笑んだ。
ドザッと、鈍い音が鳴りながら、天井が崩れ落ちる。火事の影響で家が崩れかかっているのだろう。
妹の言葉を思い出す。相変わらず涙は止まらないが、考える余裕はない。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい! 」
その笑顔で、アリスベリカの精神は限界に達した。
大好きな妹を見殺しにして逃げなくてはいけない自分が許せない。
私一人だけ、生き残る。
そんな思いが重くのし掛かり、胸の辺りにずしりと痛みがはしる。
崩れた天井からは、月の光が差し込んでいる。
ああ、とても綺麗ね。でも、眩しすぎるわね。
目の前の受け入れ難い現実を直視し、アリスベリカは絶叫した。
その絶叫に反応するように、近くにあった魔書も灰も残らず鎮火する。魔法の発現、と言えばいいのだろうか。
手にした力の代償としてなんて考えたら、それこ笑えない。
アリスベルカは、燃え尽きた跡を踏みつけ、歩き出す。
先程まで燃えていたため、熱をもっているがそんなことは気にしない。
何をしても彼女が戻ってくることはない。
何もかも、もうどうでもいい。
「神様はいるって、信じてたのに」
そんな言葉を呟きながら、少女は燃え尽きた部屋を出ていく。
こんな夜は夢であったと、そう言い聞かせて。
主人公は、次回から登場。