11.彼女の意思
今までの話を加筆修正しております。
物語に支障はありませんが、気になる方は申し訳ありませんが、一読をお願いいたします。
「失踪、ですか? 」
冷たい視線を向ける彼女に、俺はおずおずと尋ねた。
「ええ、私はずっと、あの子を探してるの」
「妹さん、ですよね。火事で生き別れになったとか、ですか? 」
「……」
アリスは無言で頷く。
その様子は、先程まで誇らしげに喜んでいた少女と別物にように映っている。
妹さん--リアナの失踪。
それがどれ程辛いものだったのかは、冷たい表情から伝わる。
肉親を失う、それも、まだ幼い少女だというのに。
「お祖父様は、リアナは死んだと言いましたわ」
胸を押さえながら、儚げな表情でこちらに語りかける。
「でも! お父様とお母様の遺体しか見当たらない。リアナのだけが消えていたのよ! 」
「でも、それは……」
俺はぎょっとして、
「お祖父様には止められたんじゃ……」
声を紡いだ。
「それでも、諦められないですわ! あの子を救うのが、私の、姉としての役割ですもの」
小さな叫びだった。
脆く、崩れてしまいそうなそんな声色。
こんな感情的なことを話されたのは何年ぶりだろうか。
会社員になってからはたぶん、一度もない。
「役割……ですか」
そんな言葉に縛られた記憶がある。
この仕事はお前の担当だ。会社に貢献するのが、お前の役割だと。
役割を演じるのは簡単だ。
台本通りに、その人物を写しとればいい。
感情や表情は、なったことがある人にしかわからない。
通りすがる程度の人物に、その程度の違いはわからない。
アリスベリカと対面しながら、佇む。
熱が覚めたように、お嬢様は恥ずかしそうに視線を下に向けている。
「ご、ごめんなさい。こんな話、シャウラにはまだ、はやかったですわよね」
「……お嬢様」
理解している、と言ってもいいのだろうか。
さっきまで、魔術のことを明るく語っていたのに、こんな暗い顔をされたら助けなくてはいけないじゃないか。
そんなことを言って仕事を押し付けられた記憶もあるが、そんなこと知ったこっちゃない。
「……だったらやればいいだろ」
「えっ? 」
「えっと、ごほん。そこまで言い切るならやりましょうよ。私だって、手伝いますから」
俺は力強く、断言する。
少し、素で話してしまったが、咳払いして誤魔化す。
子どもは大人に頼っていればいいんだよ。無理に行動して、空回りしたり失敗するほうが面倒だし、大変だ。
まあ、今は少女の俺だけど。
「でも、私は……」
アリスが声をつまらせる。
瞼には溢れそうなほど涙の粒が貯まっていた。
思い詰めた顔が、俺の心を締め付ける。
自分より年下の子に頼んでいいのか迷っているのだろう。
もどかしい気持ちに耐えきれなくなった俺は、行動に出る。
「ああ、もう。お嬢様! うじうじしない! 」
俺は床に落ちている宝石を広い、勢いよく砕いた。
欠片は光だし、変化する内容の回答を待つ。
「放ちなさい、flower gift」
ーーflower gift。
花の祝福と訳せる簡単な単語の羅列。
俺は、その魔術をアリスベリカに向けて放つ。
「受け取ってください。私はたぶん、魔術が使えます。この力を利用してください」
宙を舞う花びらが空間を彩る。
「私は奴隷で、貴方のメイドです。無理な願いでもなんでも言ってください。必ず、こなして見せます」
こんなことできなくて書類仕事の束を一人でやれるかよ。
子どもに悲しい表情なんてさせたくない。
たとえ、無理でもやってやる。
「そう、何でも言っていいのね……」
お嬢様は、女の子らしくはにかんで答える。
あれ、以外と元気?
「あ、あの、お嬢様? 」
「なんでも、いいのよね? 私が言ったことをなんでもきいてくれるのよね? 」
「うっ……」
かける言葉を失敗した気がする。
今さら、嘘ですなんて言えるわけがないので、適当にはぐらかす。
「いや、何でもというのは比喩的な表情でして」
「私のメイドだもの、ね」
先程の泣き顔が嘘のように、晴れやかな笑顔でこちらを見ている。
どうしよう、実は一般人のモブなんです、なんて説明したら理解してくれるだろうか。けど、頼ってくれているのだから守ってあげたい。
たしか、ライトノベルの登場人物にも戦うメイドさんもいたことだし、そういう宿命なのかもしれない。
「は、はい。任せてください」
その笑みに負けて、俺は宣言した。
ああ、言ってしまった。
明日から勉強することがどんどん増えている気がする。
魔術、魔法にメイドとしてのお仕事。
どこか忙しくても、それが楽しい。
「ふふ、でもありがたいですわ。ジベルナもアレッタも魔術適性は皆無でしたもの」
「そうなんですね」
「まず、魔法を否定する時点で怒られましたわ」
「でしょうね……」
ははは、と乾いた笑いを漏らす。
「とりあえず、最初の命令は何にしようか、考えておきますわ」
「お、お手柔らかに、お願いします」
「ふふ、大丈夫ですわ。誰でも簡単にできることですもの」
彼女には、明るく振る舞っていてほしい。
俺が初めて見かけた本物のお嬢様。
アリスベリカの願いを叶えてあげたい。
そんな気持ちが強くなって、自分に気合いを入れ直す。
目的は、自分の保身。
そのために、お嬢様を利用するんだと。
だから、命令くらい、必要、だよね?
自分にそうだと言い聞かせて、今日の魔法講義は終了した。
続きは来週の土曜日(。・ω・。)ゞ
ついに、シャウラは料理を学ぶとか?
※予定です。