8. 祝福
説明会なので短め
時間は多少進み、夕暮れが辺りを染め上げていた。この時間の庭園は花の色と合わさってより鮮やかになる。
シャウラとアレッタは用意された紅茶を片手に、庭園のテラスで向かい合っていた。
相変わらず、本職のメイドさんが淹れたものは旨い。
「それで、祝福ってどんな力なんですか? 」
「祝福とは、神様から与えられる加護。以上よ」
「……」
「……」
「えっ、終わりですか? 」
「ええ、分かりやすくまとめたつもりだけど」
アレッタは何事もないように自分で淹れた紅茶を飲んでいる。 つい流れで納得してしまいそうになったが、肝心な説明が無い。シンプルにまとめたつもりみたいだけど、全然説明されていないからね!
「えっと、もう少し詳しくお願いします」
再度を祝福についての詳細を問う。
流石に、冗談ですよね?
「神様からくれる贈り物とも言うわね」
「もう少し、深く掘り下げて話してもらえれば」
「安心して、シャウラには無かったから」
「安心できそうにないんですけど......」
「だから、説明はこれで十分よ」
「えっと、無いとは言っても、概要は知っておきたいです」
「そこはジベルナに任せましょう。面倒だわ」
「そうですか……」
うなだれる俺の姿を見て、彼女はニヤニヤと笑みを浮かべている。
というか、無いんだ! その祝福とかいうやつ!
神様は俺に無一文で異世界生活を強要しているのかよ。
アレッタは楽しそうに、
「落ち込まなくていいわ。無い人もたまにいるもの」
「ちなみに、どんな人ですか?」
「神に祈りを捧げて無い人とか、罪人かしら」
「それ、悪い人ですよね? 」
俺を弄り倒している。
まって、俺は説明が聞きたいだけだから!
無視して他の人に聞くと言う選択肢もあるが、ここで諦めてどうする。精神的には俺のほうが年上なんだぞ。
心の中で嘆いている間にドSなメイドさんは言葉を紡ぐ。
「ついでに言うけど、魔法適正もないわ」
「なにもありませんね......私 」
まって、俺って案外ポンコツじゃね。
少女、奴隷、無知の三拍子に無能までつけられたら異世界で生きていける気がしないんだが。
「大丈夫よ、奴隷ならいろんな道があるわ。食料とか御奉仕とか、ね」
「それはダメだからな! 」
もはや演技を忘れているシャウラだが、そんなことに気づかずにツッコミを続ける。俺を弄って楽しんでいるアレッタさんは相変わらずの黒い笑みである。
「ふふ、冗談よ。」
紅茶を一口飲み、喉を潤す。
いっそ、俺がドMで筋肉もりもりマッチョの変態にでもなれば話が変わっていたのかもしれない。
プライドなんて入社3年目あたりには捨てていたので土下座でも靴を舐めることでもしてあげるのだが、現在は少女の姿である。
少し、考えてみよう。銀髪の少女が土下座のポーズで靴を抱えて、「教えてください、アレッタ様」なんて媚びてる姿を。
想像してみよう。女の子が悲しそうな瞳で地に両手両足をつけている姿を。
うん、ビジュアル的にまずいよね。たとえ、世間が許しても俺が許さん。あ、姫騎士はオークにやられるのは定番だから仕方ないとは思うけどね。
こんな時、女の人ならどう対応しているのか……。
可憐な女子トークが出来ずに振り回されるのは御免被るんだけどなぁ。
空になったカップにアレッタが紅茶を注ぐ。
「さて、そろそろ話すわ。弄るのも飽きてきたし」
悪びれず、彼女は話を戻す。
あまりにあっさりと戻されたので、ぽかんとしている俺。
ふう、とため息をついて、
「はやくしてください。お願いします」
仕方ないと言わんばかりにふんぞり返るのだ。
こんな上司、うちの会社にいないから対応できねぇーよ!
そんなことを思いながら。
□
祝福とは、アレッタさんが言ったとおり神様から受けとるものだ。10歳の誕生日に協会に行き、神様から授かる加護。
ゲームに例えると、スキルのようなものだ。
例をあげると、軍神の加護を得たものは剣技や武術、狩りに近しい物に才を得るし今後の進路を意識することもできる。
ちなみに、アレッタさんは知識の神からの加護を。ジベルナさんは、乱神の加護。主であるジルベルトさんは、軍神から加護を得ているらしい。
この加護は単体ではうまく機能することはない。付与される特性は本人限定。いくら力を得ても、個人が努力や組み合わせで反映させるしか使い道はない。
アレッタさんが使った魔法--情報摂取。
あれは、元々解析魔法に分類されるものであり相手の加護やどんな魔法が使えるのかなど、相手の情報を読み取ることができるらしい。
詠唱無しで行えるのは、知識の神の加護で詠唱を短縮しているみたいだ。
なんて、説明口調で解説したけど使えないんだよね。
異世界チートも加護もない俺。
ほんとにここで生きていけるのだろうか?
不安に刈られながらもアレッタの説明を聞き続ける。
「魔法が使えなくても生きていけるわ。それに、落ち込むことではないしね」
「そうなんですか?」
俺は苦笑いしながら問う。というか、落ち込んではないんだけどね。残念ではあるけど。
「貴方はもうここのメイドなのよ。出来なければ補えばいいの」
「魔法以外にも力があるのですか? 」
俺は感心の声をあげる。
それが使えれば生存確率をあげられるのではないか?
「それを知るためにも、まずはお嬢様から魔法について聞くといいわね。明日の仕事は無しにしておくから、いろいろ勉強しなさい」
彼女の気遣いに感謝しながら、説明をまとめていった。
弄られたことは忘れないけどな!
次回は異世界知識使うだろう?(たぶん)