別視点3.報告(ジルベルト視点)
少し短め
まあ、別視点なので許して()
シャウラはとても有能だ。
それはもう、買うときに聞いた話以上の評価で私も驚いている。
欠陥持ち、そう聞いたのは、王都で一番と名高い奴隷商人からだったはずなのに。
自室で作業を止め、少し休息する。
引退した身ではあるが、貴族としては少し手狭な部屋。家具は、本棚と机、椅子だけでしか構成されていない。
金持ちであるとアピールするために、部屋の内装を豪華にする者もおるが眩しすぎて見ていられない。
「あれはワシも気に入ってる。だからこそか」
些か、その頭の良さが進行を阻んでるとは言いがたい。
なんでも出来てしまうというのは、大事な部分で失敗することがあるからな。
「なにかを習得させるのもいい。使い道は多い方がいいからな」
奴隷商人は、語っていた。彼女に教えれば何でも学ぶと、あの歳で理論を理解しそれをいかせると。
檻にいる間は、記憶の断片でも探すように本を漁っていたらしい。
欠陥持ち なんて呼ばれる奴隷には、何かしらの厄介事がついてくる。
四肢がないから使えない。
目が不自由なため、連れるのが難しい。
主人に暴力を加える。
手がつけられない。
そんなところがあげられる。
彼女の場合は心だ。
記憶を失い、不安に怯え、周りが信じられない状況。ましては、盗賊に襲われて連れてこられたらしい。
精神は朽ち果てていたのだろう。
ゆえに、彼女の瞳は濁っていた。
年頃の少女とは思えないほど、暗く深淵のように。
私はあのとき、彼女に質問した。
"何かしたいことはあるのか"と
返答は、特にないと淡白に答えられた。
あの歳の子どもがやりたいことがないなんて答えるのだろうか。
無邪気に笑う、あの年頃の子どもが。
ジルベルトは頭を掻いた。
彼女を見ていると数年前の孫の様子を思い出す。
家具や壁、火などを見ると目頭が熱くなる。
止めたくても止まらない涙に、あいつは怒りを覚えていた。
「全く、こんなことは初めてだからな。私でもさっぱりわからん」
私は医者ではない。心の病気の治療法を知っているはずがない。
そんなことを呟いていると、一人のメイドがこちらにやって来る。
「失礼します、ジルベルト様。飲み物をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。アレッタ」
優秀な我が家のメイドに、お礼を言う。
「いえいえ、メイドですから」
「私のメイドは優秀で助かるよ」
アレッタは軽くお辞儀をすると、持ってきたカップを配膳する。ほんと、私のメイドは良い仕事をする。
「何か悩みですか?」
「ああ、少しね」
「貴方でも悩むのですね」
「私だって万能ではないさ」
紅茶を淹れながら、アレッタは言った。
「愚痴なら付き合いますよ。勝手に奴隷を買ってきたと思ったらメイドにして楽しむ変態な主様」
「アレッタ? 口が悪いよ」
「メイドが好きなんですか? 」
「好きだけど、そのために買ってきたわけではないぞ」
「そうですか」
いささか反応は悪かったようだ。
彼女の顔が黒い笑みを浮かべる。
「まて、説明する。だから怒らないで! ね?」
「はい、どうぞ。お話しください」
相変わらず、笑顔は怖い。
「ア、アリスの友達作りを手伝ってあげようかな、と」
「そんな理由ですか? 」
淡々とアレッタは指摘する。
「あいつは外に出ない。普通の子は学院に通い、学友ができている時期だ。さすがに、育ての親としては心配なのでな」
「罪滅ぼしなのですか?」
「そんなことはない。ただ、今のままというのも良いわけではないからな」
「ならば、なぜメイドに? 」
「それは、私の趣味だ」
「気持ち悪いですね」
「そう言わないでくれ、一応主だぞ」
「気のせいでしょう。私は尊敬してますよ」
笑顔で頷きながら、
「奥様に逃げられながら、それでもメイドを愛する伯爵様にね」
「......それを言わんでくれ」
数秒の沈黙。
アレッタは呆れたように頭を垂れた。
「お嬢様は大丈夫ですよ。今、ジベルナとシャウラが挨拶に行ってます」
「そうか、アリスの反応は? 」
「普通では? というか、心配しすぎです」
アレッタはわかってないのだ。
私の孫、アリスベリカはまだ脆くて儚い存在なのだと。
あんなに可愛い娘が受けた傷がどれだけ深いものなのか。
「シャウラはそのために雇ったのでしょう。なら、少しは様子を見なければ分からないですよ」
「確かに、な」
「それに、私も彼女のことは気に入っています。これから色々指導しますので」
アレッタが指導するのであれば、彼女は成長するだろう。
とりあえず、何をやらせるべきか。
ジルベルトは無精髭を撫でながら思慮する。
「家事、掃除、護衛、気配り。掃除は出来ていましたが、他もチェックして学ばせますよ」
「案外出来ていたりしてな」
「そこまで来たら、私の立つ瀬がありません」
「そんなことはない。出来ていても、知識や技術は向上できるからな。そこを鍛えてやれ」
アレッタはこくり、と頷く。
「しかし、掃除が出来ておるのか。記憶を失う前もメイドだったのかもな」
「慣れているとは言っていました。どこか記憶は残っているものかと」
無くなった紅茶をまたアレッタが継ぎ足す。
それを一気に飲み干した。
「まあ、引き続き報告は頼んだぞ」
「了解いたしました」
彼らがシャウラの特異性に気づくのは、まだ先の話である。
次回は明日
そろそろなにか行動したい