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ゾンビだらけの腐った世界を聖女の力で浄化しますっ!  作者: 夜々里 春
【続編】第二章

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◆第六話『妹と王女』

「──ね──ま。お──え──さま……」


 誰かに呼ばれている。そう頭の中ではわかっているのに、どこか遠いように感じる。ただ、最後に聞こえてきた「お姉様」という声ではっとなった。


「え、あ、うん? ごめん。ちょっとぼーっとしてた」


 私は鏡の前に立って、シアの髪を梳いていた。さっきお風呂から上がってあとはもう寝るだけといったところだ。ちなみに鏡に映る私たちは揃って薄手の寝衣を着ている。私がピンク色でシアが水色だ。


「えと、なんの話だっけ」

「明日のご予定を伺っていました」

「あ~、そっか。そうだったね。えっと明日はまた今度行く遠征についてのお話と、あと貴族さんの何人かとお話しもして。それから午後は──」

「大丈夫ですか? 最近、考え事をなさっていることが多いみたいですけど」


 鏡を介してシアから心配そうな顔を向けられる。


「やはりクラドルカのことでしょうか」

「……やっぱりわかっちゃうか」

「はい。あのときからずっと悩んでいるようだったので」

「うん。でも、いまはそれだけじゃなくてほかにも色々と上手くいかなくてね。というより私が上手くやれてないっていうのが正しいかもだけど。歳を重ねてもう大人になったって思ってたけど、まだまだ自分は子供なんだなって思い知らされてる感じだよ」


 子供の頃よりできることが確実に増えているのは間違いない。でも、その力をどう使えばいいのか。またどんなことが出来るのか。色々具体的にわかっていない気がする。


「そんなことはないです!」


 突然、シアが力のこもった声をあげた。おかげで私の盛大なため息が遮られた。


「お姉様は聖女としての務めを立派に果たしてくださっています。いいえ、聖女だけでなく1人の女性としてもです」

「……シア」

「大きくなったらお姉様のような女性になりたい、と。わたくしはそう思っています」


 歳も結構離れているし、シアから見て私がずっと大人に見えるのは当然のことだ。でも、そういうことを抜きにして、シアは私のことを〝尊敬できる人〟として見てくれた。それは〝ただ歳を重ねただけの大人〟よりもずっと魅力的で素敵な響きだ。


「もうシア、大好き!」

「お、お姉様っ」


 気づけば私はシアに後ろからぎゅっと抱きついていた。鏡越しに驚いたシアの顔が映る。


「やっぱり私にとってシアは癒し枠だわ~っ」

「よ、よくわかりませんが……お姉様のお役に立てているなら、なによりです」


 シアが私の腕にそっと添えるように手を当ててきた。いま、私はシアの肩に頭を乗せた状態だ。鏡に映った並んだ笑顔を見て、より口元を綻ばせる。


「あ、でもね。さっきの大きくなったら私みたいになりたいっての、嬉しかったけどあれだけはやめたほうがいいと思うんだよね」

「ど、どうしてですか?」

「いや、私ってがさつだし。望んでないとはいえ叫びながらあちこち駆け回ってるし。こんなのにシアがなっちゃったら皆が困ると思うんだよね……おてんば姫なんて呼ばれちゃうかも」

「いいえ。わたくしの目に映るお姉様は素敵な女性で間違いありません。もしお姉様を目指しておてんば姫と呼ばれるようなら、それはそれで構いません。むしろ、どんとこいですっ」


 そう言い切るシアの目には迷いがなかった。基本的におしとやかなシアに限ってないとは思うけど、本当に私みたいな感じに成長してしまったら大変だ。


 私も一般的な礼儀はわきまえているつもりだけど、やっぱり庶民の中の庶民って感じでいまの環境に完全には溶け込めていない。そんな私の庶民の部分がシアに移ってしまわないか心配で仕方なかった。


 ああ、王様。娘さんを変な風に染めてしまったらごめんなさい。……私を目指そうとする時点でもう染まりはじめているかもだけど。


 私はシアから離れて一回だけ深呼吸をする。最近のぼけーっとしたしまりのない自分を追い出すためだったけど、思いのほか気が引き締まった。


「よし!」

「ど、どうされたのですか」

「シアのおかげで色々吹っ切れた。ありがと」


 いきなりだったせいで驚かせてしまったみたいだ。でも、私のすっきりした顔を見てか、シアが「そうですか」と嬉しそうな笑みで応じてくれた。


「まずは王様からかな。もともと私にはまともな説得なんて出来ないんだし、このまま気持ちをぶつけるしかないって思ってさ。当たって砕けろの精神でね」

「砕けてはダメなのでは……」

「た、たしかに。とにかく、前に進んでみるよっ」

「では、わたくしも出来ることを致します」


 シアが立ち上がって私のほうに向き直りながら言った。協力してくれるのは嬉しいけど、シアがついてくると言い出さないか心配だった。なんてことを思っていたのが顔に出ていたのか、シアが苦笑していた。


「安心してください。足手まといになることは理解していますから我儘を言うつもりはありません。本当はついていきたいですけど……」


 言って、ほんの少しだけ唇を尖らせるシア。すでに私のおてんばな部分が移りはじめている気がする。……ごめんね、王様。やっぱりもう手遅れかも。


「わたくしがご協力するのは王女としての力を活かしたものです」


 言うやいなや、顔をきりりと引き締めるシア。どうやらいま私の目の前にいるのは〝妹〟ではなく〝王女〟のようだ。


「商業都市クラドルカの浄化について。話し合いの場を設けて頂くよう、わたくしからお父様にお願いしてきます」



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