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◆第一話『ほっとしたと思ったら』

「いいですか、ミズハ様は唯一この世界を救える存在であり希望なのです。誰より安全を優先されるべきなのです。今後は朝の散歩でも私を伴ってください」

「はい……」

「以前より落ちついたとはいえ、いまだ完全に脅威が去ったわけではないため、多くの兵が王都中の警備に当たっています。人手不足が原因で王城の警備も平時に比べれば万全とはいえない状況ですから、どうか」

「はい、反省してます……」


 クラドルカから王都に帰還後、シアに泣きつかれたりお風呂に入ったりと色々あったけど、一晩寝てようやく一息つけた。……かと思えば、朝からレックスのお説教が待っていた。日課となった前庭の散歩に向かう途中で捕まえられたのだ。


 いまは前庭の隅っこで延々とお叱りを受けている。私自身の警戒心が足りてなかったから招いてしまった事態でもある。お小言はすべて受け入れるつもりで頷き続けていたところ、ぴたりとお説教が止んだ。どうしたのかと思って顔を上げると、レックスのひどくほっとした顔に迎えられた。


「なにはともあれ、本当に無事でよかったです」


 レックスが小うるさく言ってくるのも、すべて私を心配してくれているから。私がお説教を素直に聞き入れられるのも、それがわかっているからだ。


「……うん。ありがとね。レックスが来てくれたとき、嬉しかったよ」

「もっと早く駆けつけられればよかったのですが」

「1人だけ先行するぐらいには急いでくれたんでしょ。充分だよ」


 なんてことないように言っているけど、きっと無茶したに違いない。私の騎士であるレックスはそんな人だ。


「ね、コドベンさんってどうなったの?」

「帰還後、すぐに牢へ入れられました」

「ま、仕方ないよね。どれだけ理由があっても拉致はさすがにねー」

「……その、拉致された当人とは思えないほど冷めていますね。彼に憤りなどは感じないのですか?」

「そりゃー、ちょっとはね。でもさ、コドベンさんの願いを聞いたらどうしても憎みきれないっていうか。家族を救いたいって誰でも思うことじゃん。私だって自分の家族が同じようにゾンビ化したら誰よりも先に浄化したいって思うもん」


 たとえ人前で恥ずかしいぐらいイチャイチャする親でも、大学デビューを狙ってこっそり雑誌を買ってお洒落の勉強をしている兄貴でも、やっぱり私の家族で大切な人たちだ。いなくなったらと思うだけでも純粋に悲しいし、寂しい。


「ま~、いずれにしろ迂闊にはクラドルカを浄化しにいくなんて言えなくなったよね。あんなのがいるせいで」

「ドラゴンのことですか。とてつもない脅威です。まさかあのようなものが存在するとは思いもしませんでした」

「ね。空想上の生き物だと思ってた」

「といっても、あのドラゴンもミズハ様が命名した〝ボンレスハム〟のように動物が寄り集まったものである可能性は高そうですが」

「うわ、それありそー……。っていうか、それこそこの前襲ってきたゾンビ鳥だったりして」

「翼もありますし、可能性としては充分に考えられますね」


 だとしたらドラゴンの大きさからして物凄い数で構成されていそうだ。いくら浄化されたあとでも視界が大量の鳥で満たされるのはちょっとご遠慮願いたい光景だ。なんて考えていると、なにやらレックスが私の目をじっと見てきた。


「ミズハ様、お伝えしておきたいことがあります」

「え、急に改まってなに……? もしかして休暇が欲しいとか? だったら遠慮なく言ってくれていいからね。あ、護衛もちゃんと誰かに依頼してもらって万全に──」

「いえ、そのような話ではなくっ。そもそも私はミズハ様のお傍から離れるつもりはありません」


 傍を離れるつもりがないなんてことをさらりと言ってくるから始末に困る。レックスは騎士として他意のない言葉を口にしただけなんだろうけども。


「え、あ、そ、そうなんだ。じゃ、じゃあ、いったいどうしたの?」


 私が改めてそう問いかけると、レックスが居住まいを正して真剣な顔を向けてきた。


「王国は協力的ではないかもしれません。ですが私はできるかぎりミズハ様のしたいことをお手伝いしたいと思っています。ですから、どうか私の力が必要なときはなんなりと言ってください」


 私は思わずぽかんと口を開けてしまった。レックスはグランツ王国の近衛騎士だ。王国のことを第一に考えなければならないし、実際に彼自身もそう考えていると思っていた。だから、〝王国よりも私のほうが大事〟といったその発言に面食らってしまったのだ。


「レックス、変わったよね」

「そうでしょうか」

「ん~、やっぱり勘違いかな。変わってないかも。なんか出会ったときからずっとそんな感じだった気がするし」

「それはそれで喜んでいいのかどうか」

「喜んじゃっていいよ。一応褒めてるから」

「では、遠慮なく」


 こういうとき顔が綺麗な人は本当にずるい。さらっと笑みを作っただけなのに、とてつもない破壊力を持っている。というか、さっきの〝私のほうが大事〟発言からずっと顔が熱くて仕方ない。


 最近、こんなことばっかりだ。このままだとまともにレックスの顔を見られそうにない。私は動揺を悟られないようにと自然を装って顔をそらした。


「でも、仮にクラドルカを浄化するとしてもどうすればいいのかな。ドラゴンもそうだし、大量のゾンビも」

「ゾンビについては私も対処が思いつきませんが、ドラゴンについては少し考えがあります。ただ、少し心配と言いますか……」

「え、ちょっとでも希望があるなら試してみようよ」


 レックスはずっと難しい顔をしていたけど、ついに決意したようだ。そうですね、と呟きながら頷いていた。


「で、その希望ってなんなの?」

「邪神を呼び出した彼女……ジェラ殿に問いただすのです」


 さらりと告げられた衝撃の一言に私は胃が痛くなった。

 脳裏に蘇るジェラさんの粗暴な振る舞い。


 希望? 絶望の間違いなんじゃないの。



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