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◆第十六話『もう限界みたいです』

「おぉおおおッ! ミズハ様っ!」

「ミズハ様っ、ミズハ様ァァアッ!」


 反対側に回った二人の騎士さんたちは大声を出すことで前庭のゾンビたちを見事に引きつけてくれた。ゾンビたちは揃って私のほうに背中を向けているし、これは作戦成功と言えるだろう。けど……。


「ちょ、ちょっとなに!? 人の名前叫ぶのやめてよっ」

「お姉様は罪深いお方です、本当に」

「えぇ……シアまで。私がいったいなにしたっていうの」


 シアの後ろに控える騎士さんたちまで頷いている。納得いかないけど私が悪いらしい。


「と、とにかく! あの人たちが気を引いてくれてるうちに浄化してくよっ。援護、お願いします!」


 私は残った騎士さんたちとともに飛び出した。ゾンビたちは私の接近に見向きもしない。きっとそれ以上に「ミズハ様」コール音が大きいのだろう。恥ずかしいことこのうえないけど、いまだけは我慢だ。


 ペチンペチンとゾンビたちをタッチしていく。時折、私に反応したゾンビはいたけど、少数なうえに騎士さんたちの援護もあって反撃を食らわずに済んだ。以降もどんどん浄化していき、ついには前庭からゾンビの姿がなくなった。


 浄化された人たちがあちこちで自身の体を馴染ませている中、私は囮役の騎士さんたちのもとへと向かった。二人とも疲れ果てた様子で尻餅をついて肩で息をしている。


「お二人のおかげで安全に浄化できました。ありがとうございます」

「いえ、我々はただ叫びながら後退していただけですから」

「あっ、それですそれ! どうして私の名前を叫ぶんですかっ」

「それはその……なんと言いますか……内緒です」

「はぁ……まぁうまくいったのでもういいですけど。すごく恥ずかしかったんですからね」


 危険な囮役を買って出てくれたことには感謝しているけど、文句を言わないと気が済まなかった。ただ、騎士さんたちは私の予想に反して「でへへ」なんて言葉が似合いそうなほど顔を綻ばせている。助けてもらった手前、申し訳ないけど少し気持ち悪い。そんな彼らからそそくさと離れると、一人の騎士とぶつかった。


「ご、ごめんなさい」

「この私がまさか二度も助けられるとはな」


 この渋い声、もしかして――。見上げると、思った通りの顔が映った。


「オデンさんっ」

「うむ、良い発音だ」


 満足そうに頷くオデンさん。食べ物のほうを想像しながら言った甲斐があった。おかげでちょっとお腹が空いてしまったけども。


「お姉様っ、城内からゾンビが!」


 シアの叫び声だ。見れば、ゾンビたちが内城門を抜けてぞろぞろと出てくる。


「うわぁ、この光景すっごい既視感あるなぁ……」

「ならば結果も同じということだ」


 オデンさんが近くに落ちていた盾を拾うと、体を覆うようにして構えた。


「夜は不覚を取ったが、このようなノロマが相手なら負けることはない。安心なされよ。このオデンがすべてのゾンビを蹂躙してみせよう」

「いやあの、浄化したら人間に戻りますからね? ちゃんと手加減を――」

「突撃ぃいいい!」


 ダメだ。聞いていない。

 私は嘆息したのち、城内へと突撃を仕掛けるオデンさんに続いた。


     ◆◆◆◆◆


「まぁ、こうなるよね……」


 案の定、城内の廊下は怪我人で埋め尽くされた。一応、みんな人化済みだけど、痛がるところをみると浄化してよかったのかと思ってしまう。


「もうおらんのか!? このオデンが相手になるぞ!」


 怪我人を量産した犯人――オデンさんが叫びながら先行していた。元気だなぁ、と苦笑しながら私はあとを追って走り出そうとする。と、フラついてしまった。寝不足なうえに今日はかなり走っている。きっと体も限界に近いのだろう。


 でも休んでる暇なんてない。また夜にゾンビが活性化する可能性を考えれば、城内だけでなく城下町のゾンビたちも浄化すべきだからだ。とはいえ城内に関しては本当にあと少しだ。残す三階も大半が浄化済みだし、あとは掃討戦といっても過言ではない。


 ただ、気がかりなことがあった。かなりの数を浄化したにも関わらずいまだにレックスが見つかっていないのだ。どこにいるの、レックス……!


 そうしてレックスを探し歩いているうちにドアのない部屋を見つけた。場所からしてもシアの寝室で間違いない。私は躊躇つつも部屋の中を覗いてみる。と、思わず目を見張ってしまった。


「う……ぁ……」


 隠し通路のある場所を塞ぐように一体のゾンビが盾を構えていた。ほかのゾンビみたいに徘徊することなく、ただじっとしている。不審に思ったけど、そのゾンビの正体がレックスであることに気づいた瞬間、私は不思議と納得した。


「ずっと守ってくれてたんだ」


 ゾンビに意思があるとはとても思えない。けど、目の前のゾンビ――レックスだけは違ったのだ。これは奇跡なのか、あるいはレックスだからこそできたのかはわからない。ただ、私が思ったことは一つだけだ。


「……ちょっとカッコイイじゃん」


 私はレックスの額を右手人差し指でツンと突いた。それを機にレックスの体にかかった呪いが解かれ、人の姿へと戻っていく。やがてレックスは意識を取り戻したけど、状況を理解できていないのか、目を瞬かせてばかりいた。


「ミズハ様……私はいったい」

「ありがと。あと……おかえり」


 私は笑顔でお礼を口にした。なによりも先に伝えるべきことだと思ったのだ。レックスは面食らったような顔をしていたけど、状況を察したらしい。すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「ただいまです、ミズハ様」


 不思議だ。レックスといると安心する。やっぱりこの世界で最初に出逢ったからかな。と、そんなことを考えていたら、ふいに視界が揺れた。私はバタンとその場に倒れてしまう。レックスがなにか叫んでいるけど、遠くてよく聞こえない。


 あれ……私、どうしちゃったんだろう。なんて疑問を抱いたとき、初めて私は自分が意識を失ったのだと気づいた。




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