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旅立ち

 考えてみれば、ソシャゲというのは仲間キャラクターに行動の自由というものが存在しない。

 何をするにしても主人公であるプレイヤーが決定し、仲間はそれにただ従うだけだ。

 それならば、多くのソシャゲにあるような仲間キャラクターを売ったり、捨てたりすればいいのだが、残念なことに<サモンナイツ>にはその機能がない。


 そういった一連のシステムが働いているせいなのかはわからないが、俺は主人公的な存在であるシャーリーのそばを離れることができなかった。


 どれだけの距離までなら離れることができるのか試してみたが、おおよそ二十メートルほどが限界でそれ以上離れようとしても、目に見えない壁のようなものに阻まれて進むことができなかった。

 それだけに限らず、ケイオスが言った通り、俺はシャーリーが本気“命令”した場合、それに逆らうことができなかった。


 つまり、平たく言えば俺はシャーリーの奴隷であった。


 …………どうしてこうなった。


 異世界に転生したらさ、大金手に入れて、俺つえー的な力手に入れてさ、可愛い女の子とよろしくするってのが基本じゃない?

 それが奴隷ですよ、奴隷!


 念願が叶うと喜んだ矢先にこの仕打ち、あんまりだよ。


 俺とシャーリーの関係性を一通り試し終えると、俺たちは召喚の間と呼ばれる(俺が召喚されたところ)場所を後にして、俺とケイオスは協会の客室で机を囲っていた。

 シャーリーは客室の隅で腕を組んで何やら難しい顔をしていた。


 正直、これからのことを考えると悲しくなってきて俺は机に肘をついて頭を抱える。


「これが今まで“召喚”が禁忌とされてきた理由ですからね。色々と不便だとは思いますが、どうかよろしくお願いします」


 本当に申し訳なさそうにケイオスはそう言った。

 ケイオスが悪いわけじゃないからな。彼を責めたところで状況が変わるわけではないが、納得は中々できなかった。


「よろしくと言われても困りますけど……拒否権がないならどうしようもないですね」

「代わりと言ってはなんですが、召喚された英雄には生活が不便にならないように様々な支援をしてもらえます。

 どの村や町でも宿や食事は無料で利用できます。武器、防具、などのアイテムもある程度融通が利きます。全てがタダとまではいきませんが、生活に困ることはまずないと思います」


 勝手にこの世界に呼び出されてるわけだし、それぐらいの待遇はなきゃ困るわな。

 とりあえず、のたれ死ぬ心配だけはなくなったか。


「後のことは彼女に聞いてみるといいでしょう。最後にこれを渡しておきましょう」


 ケイオスは部屋の引き出しからものを取り出すと、それを机の上に置く。


「当面の武器に路銀です。カミナさんはこの世界を救ってくれると信じています。」

「はいはいっと」


 その台詞、召喚したやつ全員に言ってるんだろうなぁと聞き流しながら俺は完全に初期武器っぽそうな短剣と路銀を手にした。


「えっと……カミナさん」


 ケイオスは俺を手招きして呼ぶとそっと耳打ちする。


「シャーリーは根は本当にいい子なんです。だから優しくしてあげてくださいね」

「……実害をこうむらないなら俺はもともと何もする気はありませんよ」


 俺の答えにケイオスはニコリと笑うと一礼する。


「それでは、あなたたち二人の旅に幸あらんことを。何かあれば遠慮なく訪ねてきてください」


 幸があればいいよな、本当。

 そんなことを考えながら俺とシャーリーは協会を後にした。



 外に出ると、暖かな日差しが降り注ぎ、俺は思わず目を細める。

 日差しになれてゆっくりと目を開けると、まわりの光景に思わず感嘆の息をもらす。


 そうなんだよな。ここ地球じゃなくて異世界なんだもんな。

 ネトゲなんかで見るような、現実ではありえないような町並みが広がっていた。


 日本みたく詰め詰めでなく、家と家の間隔が広く、広大な牧草地にたくさんの家畜と思われる動物が飼育されていた。


 たしかここはサリスン村だっけ。


 <サモンナイツ>のスタート地点。主人公の生まれ故郷であるのどかな村だったはずだ。


 ゲームの出発地点なんてあんまり記憶に残らないから意識してなかったけど、初っ端から感動させられるとは思わなかったな。


「どお、いいところでしょ? なんせ私の住んでる村なんだから」


 俺の考えていることを見透かしたのか、シャーリーはふふんと鼻をならすと自慢気に言った。


「……まあ、確かにいいところだ」


 村の雰囲気が悪くないのは事実だったので、俺は普通に肯定してやった。


「あれ、絶対につっかかってくると思ったのに」


 シャーリーはそう言うと少し面白くなさそうな顔をする。


「俺だって別に好き好んで反抗してるんじゃないんだっての……それで、これからどうするんだ?」

「そうね、まずはランディスに向かうわ。そこで召喚士ギルドへいって登録しないと」

「召喚士ギルド? そんなところ行って何をするんだ?」


 ランディスに向かう理由は知っているが、あえて知らないふりをして聞いてみる。


「……まあいいわ、特別に答えてあげる。あたしは召喚士っていってもまだ見習いなのよ。

 英雄を召喚して、それをギルドに証明して初めて正式な召喚士になれるってわけ。ギルドはランディスぐらい人が住んでる規模の町じゃないとないからね」


 ふむ、やはり<サモンナイツ>のストーリーをなぞってくみたいだな。

 この世界の人間には召喚士なれるかどうかの素質を持つものと持たないものがいる。


 ケイオスが言っていたように、ナラクに襲われ世界そのものが危機に瀕しているため、召喚士の素質があるものは必ず召喚士にならなくてはならない。

 そこに拒否権はなく、逆らえば待っているのは反逆罪で投獄だ。


 俺の世界でいうと兵役のようなものか。


 しかし、そうなるとキャロルちゃんに会えるのはまだまだ先になりそうだ。


 無慈悲な現実に俺ははぁ、と大きなため息をつく。


「なにやってんのよ。さっさといくわよ」


 シャーリーはそんな俺を軽くいちべつすると、さっさと一人で歩き出す。


「おい、待てって」


 急ぎ足で追いつき、シャーリーの横に並ぶ。


 金色に輝く髪がさらさらと風に流され、女性特有のやわらかな香りが漂ってきて、俺の鼻腔をくすぐる。

 改めて、ちらりと横目で盗み見てみるがこいつ、性格は悪いけど、やっぱり可愛いのは間違いないんだよなぁ。

 出るとこはきっちり出ててモデル体型だし、なによりスカートからのぞく太ももが実に艶かしくてけしからん。


 というか、あれだよね。敵と戦闘する上で軽装な装備で戦うってのはわかるし、理解できるけどスカートはほんとあかんよね。

 俺なら絶対集中して戦えないわ。むしろそれが狙いでこういう装備って考えられてるんかな。


 うおっと、あぶね。


 そんなくだらないことを考えていたら、転びそうになった。

 どうもさっきから歩きにくいんだよな。なんか身体を動かすこと自体に違和感があるし、目線の高さもいつもと違う。

 

 ってそうりゃそうか、そういえば俺は転生してるんだもんな。

 身体もスリムになってるし、身長も変わってるから感覚がおかしくなってるんだ。

 こりゃしばらく慣れるまでに時間かかりそうだ。


 ああ、そういえば忘れてたけど顔の確認もしてなかった。

 イケメンだといいなぁ。地球での俺はどちらかといえばブサメンの方に該当していたからな。


「おお、シャーリー。もう出発するのかね」


 変化した身体の動作を一つ一つ確認するように歩いていると、家畜と思わしき動物と一緒に歩くあご髭をたっぷり蓄えたおじさんが声をかけてきた。


「はい、これからランディスに向かいます」


 シャーリーはにっこりと、俺には見せたことない笑みをおじさんに向ける。

 そんな顔もできるんじゃん。口調も全然違うし。


 俺に対してもそんなふうにしてくれるんなら、素直に旅に協力してやってもいいんだけどな。


「気をつけていくんだよ。オレたちにできることがあったら何でも言ってくれよ。

 ゲーリーたちにはもう挨拶はすませたのかい?」

「え、ええ……父様と母様には、もう話してきましたわ」


 シャーリーはそう答えながらもおじさんから目を逸らす。


 ゲームだとグラフィックで登場していないから忘れてたけど、こいつにも両親がいるんだよな……にしても今ひとつはぎれの悪い返事だな。


「そうかい。あいつら娘の旅立ちだってのに見送らねえで何やってんだか……」


 ああ、思い出した。<サモンナイツ>では、主人公は旅立つ前に両親に会ってしまうと別れるのが辛くなるから何も言わずに村を出る、なんて描写があったような。


 こいつはこいつで我慢してるんだな。可愛いとこあんじゃん。


 意図せず、他人の心情がわかってしまうのはちょっと失礼だなと思いつつも、俺は暖かい目でシャーリーを見つめた。


「何よあんた、そんな目でこっちを見ないでくれる。キモイわよ」


 …………前言撤回。やっぱこいつ可愛くねぇわ。


「それで、そこのあんちゃんはシャーリーの英雄様か?」


 あご髭おじさんは俺の方を向くと満面の笑みを浮かべる。


「まあ、一応そういうことになりますね」

「やっぱりそうかー、見慣れない顔だしなー。英雄様。シャーリーはしっかりしてそうに見えて、抜けてるところがあるんでしっかり守ってやってくだせえ」

「ちょっとおじさん! 何言ってるんですか!?」

「はっはっは! じゃあなシャーリー立派な召喚士になってオレたちを守ってくれよ」


 おじさんは大きな笑い声を高らかに響かせながらその場を去っていった。


「もう、おじさんったら余計なことばかり言って」

「……おまえ、猫かぶりすぎだろ。口調も態度も違いすぎ」


 あご髭おじさんにぷりぷりするシャーリーに対して俺はぼそりと呟く。


「なんか言った?」

「いえ、別に」


 それからは互いに言葉を交わすことなくしばらく歩いていくと、村の入り口にたどり着いた。


「ここを出ればもう村の外よ。この辺りのナラクは弱いから大丈夫だと思うけど、あんた戦闘の方は大丈夫なんでしょうね?」

「問題ないとは思うが、やってみなきゃわからんな」


 俺は多分この世界のもとになっている<サモンナイツ>の廃人だ。

 知識的なところでは負ける気はしないが、戦闘に関しては正直にいってあまり自信はない。


 特に運動もしてこなかったアラサーデブニートですよ? 自信がある方がおかしいって。

 それでもなんとかなりそうだと思ったのは、肉体が前世のものに比べて随分とマッチョになったことがでかい。

 あと、いくら化物が相手とはいえ、ゲーム開始直後に出てくる敵に苦戦するようなイメージがこれまでのゲーム経験からいって浮かばなかったからだ。


 一応、仮にも英雄として俺はガチャで引かれてこの世界にやってきたんだ。

 何らかの戦闘能力が付与されててもおかしくはないのではないか? とまあ確実な根拠はないのだが、おそらく問題ないだろうと判断していた。


「そう、わかったわ。それじゃあいきましょ」

「……待った、シャーリー」


 さっさと村の外に出ていこうとするシャーリーを俺は引き止めた。


「……何よ」

「いやさ、お前、この村から出発すること、まだ両親に伝えてないんだろ? 今からでも遅くない、会いに行ってきたらどうだ?」


 俺の言葉を聞いたシャーリーは目を見開いて驚いていたが、すぐに真っ直ぐに済んだ目で俺を見つめ返してきた。


「あんたがそのことに気づいてるとは思わなかったわ。でもいいの、もう決めたことだから」

「そうか……それならいいが」

「それに、あたしはこの召喚士の旅で世界を救う、だなんて大それたことは考えてないのよ。両親に迷惑かけない程度に上手くやっていければいいと思ってる」


 一応英雄である俺にさらりと爆弾発言するが、実際のところ大多数の召喚士が同じことを思っているだろう。


 確かに、世界が危機にさらされているのは間違いない。けれど、その危機は本当にすぐ目の前に迫っているわけじゃない。

 前世でも、このままじゃ地球はもたない。なんて言われているが、じゃあそれに対して全ての人がなんとかしようとしているかといえばしていない。

 結局、人間は目に見えて危険な状況に陥らなければ行動できない生き物だってことを俺はよく知っている。


 そもそも、俺もそういった類の人間の一人だ。

 だからシャーリーを責める気はさらさらない。加えて言うなら両親に頼りっぱなしで自分の力何も解決しようとせず、最後は逃げて自殺した俺にそんな資格はない。

 

 だが、俺は知っている。

 この旅で、シャーリーがどんな運命をたどっていくのか。だから、おこがましいかもしれないが両親に会うように勧めたのだ。事実を知っているものの責任として。


「気楽にいきましょ! それと、少しだけあんたのこと見直したわよカミナ!」


 パシンと音がなるほど、強く背中を叩かれた。

 だから痛いんだっての、加減のしらんやっちゃな。


 まあ、必ずしも<サモンナイツ>と同じストーリーをたどるとはまだ決まったわけじゃないしな。俺が心配しすぎなだけかもな。

 そうだといいな。その方が俺も目的を果たしやすいし。


「いくか」


 俺はそう言って力強く頷くと、ランディスの町を目指して二人は肩を並べて歩き出した。



 

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