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プロローグ

初投稿です。拙い部分がたくさんあると思いますが温かい目で読んで頂ければ幸いです。

 ソシャゲ。


 いわゆる“ソーシャルゲーム”の略称である。


 元来、パソコンを利用したネットゲームやブラウザゲームの方が中心であったが、携帯電話の発達、スマートフォンの登場によりその地位を大きく確立させていった。


 ゲーム好きだった俺もその流行にのりに乗って、もっぱらのソシャゲ廃人である。


 ガチャでお気に入りの女の子をゲットできたときのあの感覚がたまらず、完全に中毒者になってしまった。


 人の射幸心を煽るいやらしい商売であるが、その術中に完全にはまってしまっているのだから何も言えないのが実情だ。


 しかし、そんな楽しいひとときも終わりを迎えてしまった。


 自宅警備員の仕事に精一杯、勤しんでいた俺はつい先ほど解雇されたのだ。


 両親から勘当をくらったともいう。


 そんな自宅警備員の俺だが、これでも高学歴とまではいわないが、これでもそこそこの高校に入学し、そこそこの大学は出ていた。しかし、この就職難の時代に逆らえず見事就職活動に失敗。

 そこから泥沼にはまり込むようにずるずると引きこもりの生活に陥ってしまった。


 もちろん、すぐさま堕落した生活を始めたわけじゃない。

 俺なりに、何度も何度も就職活動はした。その度に送られてくる非通知採用に心が削られていった。


 このとき心を支えてくれる彼女のような存在がいれば、それを支えに俺は頑張れたのかもしれない。

 高校、大学とゲームにばかりかまけていて、人との交流を絶っていた俺にそんな大層なものがいる訳がなかった。


 いま思えば後悔はしている。けれどそれは過ぎた話でもう取り返しなんて効かない。


 そんな状況で俺の心を癒してくれたのが二次元の世界にいる“嫁”だった。

 俺は“嫁”であるキャロルちゃんに陶酔し、次第に引きこもり、ソシャゲ廃人となっていったのだ。


 年齢を重ねるごとに両親の風当たりは強くなり、とうとうアラサーという年齢に達すると、それは突如爆発した。

 というより、俺がソシャゲでお目当ての女の子が引けず、欲望に駆られて親のクレジットカードを勝手に使い、ウン百万単位のお金を使ってしまったことが今まで溜まりに溜まった両親の怒りを爆発させてしまったのだ。


「……これからどうしようかな」


 俺は公園のベンチに座って、壊れてヒビが入ったスマートフォンを覗き込みながら苦笑いを浮かべた。

 

 愛用のスマートフォンは先ほど父親に力の限り壁に投げつけられて、その機能は完全に停止してした。


 電源ボタンを押してもウンともスンとも言わないスマートフォンをぼんやりと眺めていると、目尻に涙が溜まってきた。


 もう、キャロルちゃんに会うことはできないのだと。


 こんな状況に至ってもそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。


 ……死ぬか?


 だって、どうしようもないじゃないか。


 大学卒業後、ろくに就職活動もせず、バイトもせず、のうのうと生きた人間を雇ってくれるようなところなんてどこにもない。そんな甘い世界なんかじゃないことはよくわかっている。

 日雇いのバイトだって見つけるのは難しい。


 もし仮に見つけられたとしてもニート期間でぶよぶよに太った身体で肉体労働をこなせるか非常に怪しい。


 万が一、奇跡が起きて仕事が出来たとしても住所不定、ネカフェ難民の生活の厳しさはネット調べたことがある。

 自転車操業となり、非常に苦しい生活を強いられると聞いている。


 俺にはそんな生活耐えられる自信がないし、何よりソシャゲをやる余裕なんて一切ないだろう。


 それはつまりキャロルちゃんに会うことができないことを意味している。


 ああ、だからそんなこと考えてる場合じゃないんだってば。


「はぁ……」


 情けなくて惨めで、吐き気がするぐらい本当に駄目な奴だ。


 これからどうしよう。


 答えなんか見つかる気がしない。


「……やっぱり死ぬしかないかな」


 でも死ぬのならあまり人に迷惑がかからない方法がいいよな。

 飛び降りとか電車に飛び込みとか大迷惑だろうし。それに……最後くらい親にも迷惑はかけたくないしな、うん。


 道具を買うお金もないし、そうなると入水自殺あたりが妥当かな?


 あつらえ向きに俺の住んでる地域は海沿いにあってすぐ近くだ。

 子供のころに近辺を遊びまわった経験もあり、入水に適した場所も知っている。


 うん、そうしよう。


 俺は決意すると、スマートフォンを片手にその場所を目指した。





 二十分ほど歩くと目的地へと辿り着いた。


 長らく外出していなかったせいか、たったこれだけの運動量で身体中が悲鳴をあげているのがわかった。


 子供の頃は日課のようにここに来てたっていうのに。こんなんじゃ到底、バイトなんて絶対無理だな。


 眼前には崖越しに視界を埋め尽くすほどの青一色で染まっている。

 波がざわざわと流れ、その音だけが耳へと届く。


「久しぶり来たけど……やっぱここはいいな」


 この場所は俺にとってお気に入りの場所だった。


 他の誰にも教えていない秘密の場所。いや、キャロルちゃんだけには教えたか、妄想の中だけど。


 ある意味俺にとって一番ふさわしい死に場所なのかもしれない。


 俺は崖の前へと歩き、スマートフォンへと顔を向ける。


 真っ暗な画面があるあけで、そこには何も映し出されていなかったが、俺はそこにキャロルちゃんがいると信じて呼びかける。


「キャロルちゃん……本当に残念だけど、お別れだね。もし、死後の世界があるのだとしたら真っ先に会いにいくからね」


 もちろん、反応なんてあるはずがない。けど、俺はそれで満足だった。やるべきことはやった。


 スマートフォンをズボンのポケットにつっこむと息を整える。


「それじゃ、いきますか」


 俺は迷うことなく、目を瞑ったまま海へ向かって飛び込んだ。

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