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第五話

「おいおいおいおい、急にどうしたんだよ。俺は男だぜ?顔だって体だってごつごつの」

「いや、でも、え、えぇ?」


 アレシアがありえないほどに混乱している。かくいう俺だって、アレシアが急に変なことを言い出したせいで少し驚いている。

 アレシアはことあるごとに俺のことをおちょくってくるしぼっちだし、人と話すと怖くなる(らしい)けど、妄想と現実の区別くらいはつく人間のはずだ。


 付き合いは短いが、それくらいは分かる。


「いくら中二みたいな見た目だからって、中二病じゃないしな~」

「今私を侮辱した?ねえ侮辱した?」

「そ、そんなことないゼ....?」


 いくら混乱していてもそれには反応するんだ。


「.....まあいい。よくないけど、とりあえずそれは保留ね」

「ありがとう、そしてできることならそのまま忘れてくれ」

「でさ、ラノは女なの?男なの?どっち?」


 真剣な顔をして聞いてくる。


「だから、さっきも言ったけど俺は男だってば」

「じゃあ、さっきの姿はなに?男には見えなかったけど」

「えぇ.....?」


 確かにさっき見た自分の体は細かった気もするが,,,,,、胸はなかったぞ?


 その瞬間、不意に俺の頭に恐ろしい(?)推理が閃いた。

 一番イラつく結末だが、考えるほどに筋が通っている。その推理とは――


「またあの駄女神か!!」


 そう、あいつの仕業という説だ。


「そういえば注意書きにせいぜいその能力で苦労してがんばれや(笑)とか書いてあったな!絶対そうだ!あいつだ!」


 あいつめ、苦労するってこういうことかよ....!

 人間になるのは3分しかできないし、なったとしても女だし、あいつなんでそんなに俺に執着するんだよ!そんなにからかわれたのがムカついたのかよ!


 ぴぴ、という音に視線を下げると、そこには注意書きのときと同じような文字が浮かんでいた。そこには、


『ふう、スッキリした。もう飽きたから、これ以上は嫌がらせないよ。おめでとー』


 という文字が。


 ムッカァ.......


 あいつ......!

 散々俺に障害残るタイプの嫌がらせをしておいて、飽きたらポイ、かよ!こんにゃろー、ヤリ捨てか、ヤリ捨てなのか!


「だ、大丈夫?」

「.....あぁ」


 心配そうに俺の顔(本です)を覗き込んでくるアレシア。

 根は優しい奴なのだ。


「俺、女神の嫌がらせで女になっちゃったっぽい」

「え~と......おめでとう?」

「何故に祝うし!?しかも悪意がなさそうなのが逆に怒りづらい!」

「ご、ごめん」


 俺が一度人間になったことで俺を多少人間だと認識したのか、少しドモり気味だ。なんか天然入ってるな。


「あ~、別に謝ることはないって。謝るのはあの駄女神」


 さっき飽きたとか言ってたし、たぶん俺のことは監視していないだろう。よし、ここでボロクソ言ってやる。


「駄女神さ、急に切れたと思ったら俺に呪いをかけてきてな?俺のことを本にした上に性別を変えてきたんだよ。酷くない?マジドン引きだよな?」

「......あっるぅぇえ~?なんだか私のことを悪く言っている気配がするなぁ~?」


 突然どこからか聞こえてきたその声は、アレシアのものではなかった。

 反射的に、肩が跳ね上がる。

 この声は、もしかして、もしかして。


 急に雲が割れ、そこから何かがものすごいスピードで落ちてきた。その正体は、もちろん我らが駄女神さん。

 アレシアは、突然降ってきた人型生命体にビビッて気絶しそうになってる。どれだけコミュ障なんだよ。もはや表彰していいレベルだよ。コミュ賞だよ。


 なんて、おちおち現実逃避もしていられなさそうだ。

 激オコモードの駄女神が頭の上で火山を噴火させながら降りたった。いや、比喩表現じゃなくて。本当に頭の上でちっさい火山が噴火している。


「黙って聞いてりゃあ駄女神駄女神ってうっせぇなあァアン!?」

「サーセンww」


 やべぇ!

 いつもの癖で煽ってしまった!煽ってどうするんだ俺よ!いや、確かに始めに俺を煽ってきたのはあっちだし、どちらかというとあちらが悪い気もするけど完全にあちらのほうが立場が上の状況である今、このときまで煽る必要はないだろうこの馬鹿俺!


「マジで死にてぇのかコラァ!!」

「あうあうあ!違うんです!えっと、麗しいあなた様の御顔が拝見したくてあえて心にもないことを言ったのです!ああ、できることならばお名前を教えて欲しい!」

「え?あ、そう~?それなら仕方ないな~!」


 えええええ!?

 今のを信じるの、今ので許すの!?


「私の名前は~、ユーフェミアっていう――」


 いや~、まさかあんな口から出任せでどうにかなるとは思わなかったぜ。

 なにが「心にもないこと」だよ俺。その発言が心にもないだろ(笑)


「.......ふふふふふ」


 しまっっっったああああああああ!

 そういえば心読まれてるんだった完全に忘れてたああああああああああ!


「いや~、まさかそんなにすらすらと嘘が口から出るなんて思っても見なかったわ人間って恐ろしいのねいや今はそんなことじゃなくてコイツをどう処理するかよいやこの際諸兄といったほうがいいわね本当神である綿新が人間ごときに子こまdえコケされるなんて不愉快極まりないわよって拷問は確定死因はやっぱり肺の中を血でいっぱいにしての酸欠がいいかしらそれならできる限り苦しんで死ねるだろうしうふふそれでいいわそれにしましょ」


 怖い!やめて、そんなハイライトが消えた目でぶつぶつと俺の処遇について独り言を言い続けるのは怖いからやめて!


「ごめ、ちょ、ちょっとまって、おちつこ?な?」

「覚悟は、できた?」


 ごめんなさいごめんなさい!

 

 駄.....じゃなくて、ユーフェミア女神様がシュッという風きり音とともに消える。

 風きり音の質というか、なんというか。なんにせよ、アレシアが消えたときとは比べ物にならないスピードで動いたのが分かった。


「さようなら」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ガチで殺そうと俺に迫る駄m――ユーフェミア様を止めたのは、つい今の今まで呆然としていたアレシアだった。


「もしかして、あなたはあの伝説の女神、ユーフェミア様ですか!?」


 ピタリ、とユーフェミアの動きが止まった。

 ロボットのような動きでギギギとアレシアのほうを振り向く。


「あ」

「え?」


 ぽかんと口を開けるユーフェミア。


「あああああああ!ヤバイ!人間の前に姿を現したらいけないのに!!」


 頭に両手を当てて、大きくのけぞる。


 ユーフェミアの発言から察するに、どうやら人間の前に姿を現してはいけないのに、アレシアの存在を忘れて怒りのままに突撃してきてしまったようだ。

 ざまぁ、なんて考えない。

 人間は、同じ過ちを繰り返す。そのことに気がつかないと、永遠に同じことを繰り返すのだ.......。


 一方、アレシアは――


「なあ~んだ~、人間じゃないのか~。よかったぁ~」


 ――大きく息をついていた。

 ......え?

 ええ?

 ええええええええええええええ!?


「私、人と話すの苦手で......神様ならまともに話せるよ!」

「いや、なんで人間がダメで神ならオッケーなの?おかしいよね、絶対おかしいよね!主に基準が!」

「え?これくらい普通――」

「ンなわけあるかぁ!!」


 普通は神様と打ち解けて話すなんて無理だろ?

 俺はアレシアの感性と常識を疑うよ!


「......(スッ」


 え、なに?その鏡。ねえユーフェミアさん。


「鏡見てから物言え」

「あ!鏡の向こうに神にタメ口きいてる奴が!」


 俺もジャン!俺も神にタメ口聞いてるジャン!

 感性疑うとか言ってごめんよアレシア!


「これからユーさんって呼んでいい?」

「いいよ☆」


 急に打ち解けた!?

 







 その後、俺をそっちのけでユーフェミアとアレシアだけで語り合っていた。アレシアは今まで友達がいなかった分まで、ダムが決壊したかのように話し込んでいた。

 何時間も、何時間も。


 はっきり言って、置いてけぼりにされているこちらからするといい迷惑だ。

 寒かったし、どこか暖かい場所を探そうと思いうろちょろし始めたが、すぐに見えない壁に阻まれてそれ以上進めなくなる距離を見つけた。

 どうやら、アレシアから一定距離以上はなれることができないらしい。


 で、何時間も話し込んだ結果、二人は最終的に「一生の親友」レベルまで仲を深めたようだ。ユーフェミアは、「このことはほかの神に言わないように」とアレシアと約束すると空に飛んでいった。



 結局、俺は何もされなかったしアレシアは(人間じゃないけど)友達もできたようだし、気がついたら朝になっていて床の心配もなくなったし一件落着なのではないだろうか。


 最後の一件は別として。


「う~....ん!気がついたら朝になっちゃったね」

「俺はその間このクソ寒い中ずっと待たされてたんだけどな」

「なんか、人じゃなかったらちゃんと話せるみたい」

「普通は人と話すのが第一だろ」

「いっそ、人間を滅ぼして神と私だけの世界にしちゃおうかな!」

「その危険な発想だけはやめれ。あと、俺は本だから殺さないよな?」

「.......うん」

「その間は何!?」


 俺ともちゃんと話せるみたいだし。


「さっきは急に俺に敬語を使い出したからな、もしかしたらずっとあのままかとヒヤヒヤしたよ」


 やっぱり、なんだかんだでワイワイ騒げる相手が一人くらいは欲しいしな。

 一件落着だよ、そう、一件落着。


「そういえば、女の子になっちゃったんでしょ?女の子をレクチャーしてあげようか?」

「人が必死に一件落着で片付けようとしてるんだ!忘れさせてくれよ!」


 実は明らかに見過ごせない問題が転がってました。


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