×8 きっとこれは
ちょいと短めです。
「早瀬。」
先程の祈り虚しく指名される私。
聞き間違いであってほしい。
私が焦りすぎて綾瀬さんとかいう名前を聞き間違ったということであってほしい。が、残念なことに同じクラスに綾瀬さんとかいう名前の人はいない。ああもうだめだ。こんなことなら昨日の夜すーちゃんにメールでちゃんと確認するんだった。あー予習しっかりしとけばよかったな、そしたらノート開いて課題も思い出せただろうに。お腹が痛いのでって抜け出すか.......いやだめだ、ダサすぎる。祖父が危篤で昨夜は忙しかった......これはバレる確率が高い。じゃあ、祖母の姉の旦那さんの従兄弟の旦那さんの兄弟の娘さんが......誰だよ。
悶々と言い訳を考えていたら後ろからつつかれた。
「早瀬さん。当てられてるよ」
ありがとうございます本田くん。でも気づいてるんです、ええそれはもう。
ここまできたら仕方ない。覚悟して立ち上がった。
「はい」
「おお、いるじゃねーか。はい、ここ。マグネシウム1.2gだったら。いくつでしょーか。」
先生が黒板に書きながら問題を読みあげる。
まってください。今、脳内で絶賛計算中です。言い訳考える前に計算しとけばとかったなとか思っても遅いよね。
「早瀬ー?」先生が言ったとき、前の席の男子が後ろを振り向いた。と思ったら私のノートに“3.01kJ”と書いた。
こ、これは。
「3.01kJです」
「はいおっけー。みんなわかるかー?ここはだなー......」
先生の解説なんて聞こえない。心臓がバクバクしてて。
先生に当てられて緊張した。それだけじゃない。前の席のやつの優しさにどきっとした。やってないの気づいて教えてくれた。昔と変わってるようで変わってなくて、でも昔よりかっこよくなってるあいつにドキッとした。
前の席の優等生、青野瞬に。