×41 バレンタインの作戦1
「決めた!決行は2月14日だ!!」
あたしが叫んでから作戦は急に進み出した。
すぐに冷静になった本田君が言う。
「正確な場所、時間、方法がまだわからない。そもそも標的は誰だ」
「そりゃあもちろん、すーちゃんと青野」
「よく考えろ。同じ日に、人が2人消える。人2人が死ねば必ず捜査というものが入ってくる。そうなれば2人に接点のある君が疑われるのは分かっている」
「じゃあどうすればいいんだよ!殺すな、とか言うの?」
思わず立ち上がる。
本田君がどんなことを言おうとあたしはやると決めている。
「だったらどうする?」
本田君は動じずに、あたしを見上げて笑う。
もし、あたしのやることに本田君が反対するようだったら……?
「話しすぎた。あたしの足枷となる。消えてもらう」
机に飛び乗る。音が響かないようにすることはできるようになっていた。
本田くんの首筋に向けて手に持っていたシャープペンシルを繰り出す。
無防備な首筋にシャーペンの先が突き刺さり、ということはなく、あたしの攻撃は固い物がぶつかり合うような音に止められた。
防御のため攻撃を受ける本田君の腕。本来ならその腕さえ貫いて白のシャツを赤に染めることができるくらいの勢いがあったはず。不思議に思っていると本田君は椅子ごとあたしから離れて袖をまくった。
「あー、時計ー」
本田君がわざとらしく残念そうに声を上げる。
その腕には時計があった。どうやらあたしの攻撃を止めたものらしい。
白を基調とした、黒色のうさぎが書かれている時計。ポップでかわいい時計だが、裏本田君を知っているからかちらりと闇が見え隠れするようにかんじる、本田君らしいものだった。
その文字盤を被うガラスに一本のヒビが入っている。
「これ気に入ってたのにー。安物だからいいけどさ。それにしても強すぎじゃない?僕これで何度も転んでるけど今までずっと無傷だったのに」
本田君は大事そうに時計をさすりながら言う。
「それは上手く転んでたからでしょ」
「まったく。感情的になりすぎだよ。よく今までもめごと起こさなかったね。もしかして、バレてないだけ?青野と谷口さんがまだ生きてるのも奇跡と言えるね」
あたしの言葉も無視して時計を触りつづけている。どれだけ大切な時計だったんだよ、と、突っ込みたくなる気持ちを抑えた。
「イラっとしたんだからしょうがないじゃん」
「さっきまで喜んでたくせに。谷口さんのこと思い出してラッキー、問題解決ハッピー、みたいな顔してたじゃん。感情コロコロ変わりすぎ」
ラッキー、ハッピーって……。どんな顔してたんだろう。
本田君の言葉にムッとしたがそれ以上に裏本田君の口から出てくるハッピー、ラッキー、があまりにも似合わなくて笑いそうになる。
「問題解決とかしてない。あれは大きな問題の中の小さな問題なの。わかりやすく言えば、大問の中の小問なの。小問一個解けたって大問が解けたことにはならないでしょ。それと同じ」
本田君は手を止めて、少し眉をひそめると「わかりにくい」と呟いてから話し始めた。
「とりあえず平和的にいこうよ。僕に一方的に弱みと秘密握られて不安なのはわかるけどさ。……そんな睨まないでって。それで、計画立てるためにまずは、必要だと思うんだけど。一番憎いのは誰?」
「えっ……」
頭の中にすーちゃんと青野の顔が浮かぶ。
裏切った友達。今まで親友だと思っていたのはあたしの方だけで、それを見て笑っていた。
そして、全ての原因とも言える優等生。あいつさえいなければ、すーちゃんとこんな関係になることも、あいつを恨むこともなかったはずだ。
でも、一番許せないのは、
「すーちゃん」
かな。




