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×34 コンパスの針

本田君がドアノブに手をかけるのを見計らい、ポケットの中のデザインカッターをつかむ。


ダンッ


突然の音に本田君が動きを止める。

あたしは床を蹴って机を飛び越え、勢いそのまま本田君に向かってデザインカッターを突き出した。

本田君は振り向くと同時にそれをするりとよける。そして、バランスを崩したあたしを倒そうと足をはらう。


「っ……」


すんでのところでそれをかわし、体勢を戻し再び刃を振るう。

しかしそれもかわされ無音でカッターを払われる。大きさの割に派手な音をだし手の届かない場所に着地した。

武器を失った手を引かれドアに押し付けられる。


「背後からとは。無礼だねぇ」


目の前にはコンパスの針。

近くに本田君の筆箱が転がっていることから私物であろうと推測した。もしものためにと準備室内の凶器になり得る物を取っておいたのだが、無駄なことだったのかもしれない。

針と右目の間は数ミリ程度。


「不意打ちしてきた奴が何を」


本田君を睨み付ける。もう、膝が震えることはなかった。

「あれは隙を見せた君が悪い。で、反論でもしに来たの?」


コンパスが少しだけ離される。目の前にあるのはかわりない。まばたきをする許可がおりたのか。


「昨日、小学校まで行った」


「は?」


本田君が意味がわからないと言わんばかりに怪訝な目をする。


「本田君は知らないと思うけど」そう呟いたとき一瞬だけ寂しそうな顔をした気がした。すぐに元の表情に戻り無言であたしの続きを待つ。


「昔話をしようか」






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