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×32 ちょっとしたアレ

今回短いです。

翌日は朝から本田君を観察した。

本田君に言われたことが悔しくて悔しくて、昨日は身を焦がす思いだった。

……実際問題、そんなに甘い話ではないのだが。

恒例になりつつある朝の“ご挨拶”も、破り捨ててあったノートも気にならない程、本田君を見続けた。

気づかれないようにするのは既にあたしの得意分野になっている。


「……にしても、」


思わず口に出してから、急いで口を閉じた。

いけないいけない、また独り言が増えてる。

それにしても、本田君は一体何なのか。

朝から見るかぎり、いつもと何ら変わりはない。普段気にすることなかったからしっかり見ていれば何か秘密でも見つけられると思ったが……本当に、普通だ。

本を広げ読書に耽る、ふりをする。


本田君は今日だけで2回転んだ。3回、手に持っていたものをぶちまけた。何かにつまずいた数は13を超えたところで数えるのをやめた。つまずけば、だいたい周りにいる誰かが支えてくれる。その度に、ありがとうと少し恥ずかしそうに笑った。

そのくせ、授業では質問されたことには必ず完璧な答えを返す。クラス中がわからないと言う問題でも本田君に回ってくれば解決する。

青野より上だったテストの結果も、本田君を越えたことは一度も、ない。たぶん、青野も。

そのギャップが凄いというのに、昨日のアレを見せられた今では意味がわからない。どれが本当なのか。はたまた、どれかが偽物なのか……。

昨日あたしが見たことは夢だったんじゃないかとさえ思ってしまう。


本田君があたしの横を通り過ぎるのを見計らって足を出す。


「ぅわっ!」


ぺしょ。と、音がしそうなくらいきれいに倒れる。その上に桜の花びらのごとく集められたプリントが舞い落ちる。


「おい、大丈夫かー?」


近くで喋っていた男子たちが本田君を覗き込む。


「ったー……。だ、大丈夫」


そして、照れながら笑う本田君の手を取り、プリントをまとめ、手渡す。

この一連の動きは珍しいことではない。


「ありがとう。助かったよ」


にこやかに去っていく直前、あたしは見たんだ。

ヤツは窓際のあたしにしか見えない角度で昨日の狐の笑みを繰り出した。


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