×23 黒板が描く絶望
あけましておめでとうございます。長く開いてしまってすいません。
黒板にはおおきく文字が書かれていた。
“早瀬あみは成績底辺の馬鹿です”
そして、単調な文字の周りを飾るように張られた赤く染まったテスト、偏差値の低い成績表、クラス対抗の漢字テストはいつも私のせいで最下位だったっけ。
過去の話だとか、よくここまでできたなとか笑ってくれる人もいなくて、女子たちがひそひそと話をする中ただ黒板を呆然と眺めることしかできなかった。
何度も言うけどここは田舎の私立中学。
成績が中心の弱肉強食。成績が悪ければそうでない人に食べられる。ここまでの秀才があつまってもプライドの高さのためかできていくその制度は見るに耐えないものだった。無論、私は強者の中にいたし、割と小さいグループでいたためそれにかかわることはなかった。
弱い者は強い者に潰される。
いわば学校内という極めて小さな社会のルール。
でも、この際そんなことはどうでもいい。
これはすーちゃんを助けようとした女子の仕業に違いない。もしくは、私を潰すためのすーちゃんの策略か。
まさかすーちゃんが敵になるとは思わなかった。わかっていれば......いや、わかっていても同じことになってたかも。
自分が本当に甘かったとおもい悔しかった。
突き刺さる視線に耐えられずに教室を出ようとドアに向かい歩きだした。とりあえず逃げて、それからかんがえよう。
と、そこには如月さんが出口をふさぐように立っていた。
「如月さ」
「どこいくの?」
私の言葉を遮って笑顔でそう言った。
「黒板、汚いままじゃん。それくらいきれいにしてくれないのかな」
如月さんは私の肩をつかみ向きを
変えて強く背中を押した。その衝撃に耐えられなくて前のめりになった所で誰かが足をかけた。よけることなんてできずに盛大に転ぶ。
「ぃ......った」
「早瀬さんってすごくドジなんだね。運動はできる方だと思ったけど頭悪いと頭の回転も遅くなるんだ」
立ったまま私を見下ろして笑う人が如月さんだとは信じ難かった。
如月さんの方を見ないように立ち上がり黒板の前に行き、張られた成績を破り捨てるように剥がしていった。
破る。
破る。
破る。
左手は私の過去でいっぱいになりチョークの粉で右手は白っぽくなっていた。
振り返ると一番前のすーちゃんの席にあつまっている女子と目が合ったけど気にせずに教室を逃げるように出た。
廊下を走り、階段を登り、一番人通りの少ない私のお気に入りの踊り場に着いた。紙の束を床に置き右手の粉を払っていると声をかけられた。
「あみちゃん」
それは紛れもなくかつての親友の声で。はじかれたように顔を上げた。
「やっぱりここにいたんだ」
影から出てきた女子たちが楽しそうに笑った。
「すみれちゃんが教えてくれたんだ。ここお気に入りの場所なんでしょ?」
そう言った女子は踊り場を見渡した。
「誰もこないし都合のいい場所。頭悪いくせによく考えついたね」
別の女子が笑った。
すーちゃんが教えるなんて信じられない。ここはすーちゃんと見つけた場所。みんな知ってるけど知らない場所、そう言ってくれたのはすーちゃんだから。きっと如月さんたちに強く言われて仕方なく言ったんだろう。今更ながらすーちゃんに申し訳なく思った。
そこに如月さんが現れて私の前に立った。リーダーは如月さんか。
「頭悪いからわかってないだろうから教えてあげるけどさ。この学校って成績優秀者がいるべきだと思うんだよね」
あまりの威圧感に、今はあなたより成績がいいです、なんて言えなかった。言えばどう返されるかわかっている。
「だから、ここにあなたはふさわしくないの」
私はすがるようにすーちゃんを見た。すーちゃんは私と目を合わせないようにうつむいた。
「それにあの成績。教えてくれたのすみれちゃんじゃないよ」
その言葉に私は驚いた。同時にほっとした。すーちゃんじゃないんだ。
でもその後の言葉は私に衝撃を与えた。
「教えてくれたのは青野」




