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04 P01-P05

――17:50 駅前


 タクミは、駅の時刻表と、電子生徒手帳に表示された時刻とを照らし合わせながら思慮を巡らせていた。

「(周辺一帯は、一箇所を除き完全封鎖――。駅もその例に漏れず、って事か)」

「あぁ、暑い、暑い」

「(いやしかし、いきなり小型の襲撃に遭って、ナナセとはぐれちまったのは想定外だった)」

「ああぁ、とても暑い、暑い」

「……」

「ああ暑い、この暑さではみんなが死んでしまいそうよ」

 その言葉を遮るかのように、大砲を撃ったかのような轟音が響き渡った。タクミの右手の大口径の銃が、時刻表の何も書かれていない場所に黒い大穴を開けていた。

「個人的には寒いぐらいなんだけど」

 足をほとんど隠した黒い制服、そして両手には手袋、右目には眼帯。さらにはタクミと同じぐらいの背丈の女生徒――通称、ブラインドだった。

「あら、そうなの? 下々の人々の感覚はよく分からなくて」

「無理強いしちゃってすいませんね。ところで、こんな所まで来て僕に何か御用で?」

「ええ。ちょっとその武器についてお聞きしたくて」

 ブラインドは、タクミの腰にささっている二丁の自動拳銃を指さした。

「これが何か? 言っておきますけど実弾じゃないですからね」

「いえいえ、そんな事ではありませんの。出来ればその武器――、永遠にお仕舞いになってくださらないかしら?」

 その言葉と共に、星が落ちてきたかのような風圧が巻き起こった。

「うわっ――」

 それは駅舎周辺の窓ガラスを吹き飛ばし、動かない建物をその熱で文字通りねじ曲げていた。

「(炎!?)」

 ブラインドは汗一つかかずに、笑みを携えたままタクミを見つめていた。

「試験阻害か!」

「それはそれはお互い様でしょう、と言っておきますわ」

 先ほどの爆音に引き寄せられた数多の影――偶神が、駅前を取り囲むように集まってくる。

 偶神には階級があり、一定以下の偶神は人のシルエットを保つ程度の事しかできない。

「私、とってもとっても寒いのが嫌なの。だから、ちょっと世界をお冷やしになられるような方々と出会ってしまうと、ついこのように――」

 駅の周りに、突然火柱が立ち上った。目も眩むようなオレンジ色の光に、タクミは目を閉じる。その身体に、強い熱風が吹き抜ける。

「ついついこのように、燃やし尽くしてしまいたくなるのです」

 灰の匂いがタクミの鼻をつく。ゆっくりと目を開けると、辺りは戦場のように黒く焼け焦げ、草木も偶神達もまとめて、微塵も残っていなかった。

「……僕には関係のない話だ」

「関係大ありなのです」

 瞬間、ブラインドは背中から何かを取りだし、両手で構えた。タクミは"それ"を見るが早いか、今居た場所から大きく横に飛び退く。

 ブラインドが握っていたのは、銀色のフレームの、女性が扱うにしては余りにも大きな拳銃だった。それのマズルフラッシュが起きた瞬間、予測される着弾点をタクミが振り返る。

 瞬間、タクミの視線の先にあった電柱に、火炎放射器を浴びせたかのような爆炎が襲いかかった。咄嗟にタクミは腕で視界を遮り、視界が焼けるのを抑える。

「冗談だろ!?」

 ブラインドが"ただ引き金を引いただけ"で、その場を更地にしてしまった。

「よく避けられましたわね。頭の回転が速い偶神でも、弾を避けた程度ではこの炎から逃れられないというのに」

「あぁ、とっても恐ろしいよ。そして、あなたの強さの原因も今、理解出来た」

 タクミは懐から何かを取りだし、それを手に取ったまま後ろへ構え――放った。

「(手裏剣?)」

 しかし狙いが甘いのか、それは彼女の足下や、側に生えた大木に突き刺さるだけに終わる。するとタクミは追撃を諦め、即座に銃を構え直した。それを見逃さず、ブラインドは一歩飛び退いて様子を伺おうとした。が、彼は躊躇せず引き金を引いた。

「キャッ――」

 ブラインドは殊更に暑さに耐性を持っていた。防火服代わりにもなるその特別な衣装、さらにそのスカートの中に隠された特殊発火機構により、彼女は常に燃えている火だるまのような存在だった。

 それを、タクミは銃の一発で穿って見せた。

「(弾道が、予測出来ない……?)」

 銃弾は、彼女の服の中で一番生地が薄い、背中を掠めていた。

「あなたが僕に最初に掛けた言葉の意味、分かってるから。だけど、僕はこんな所でやられるわけにはいかないんだ」

 タクミは、ポケットから取り出したマガジンを片方の銃にだけ装填し、それを両手で構える。

 慌ててブラインドも銃を構え、引き金を引く。そして同時に、足下の発火装置のスイッチを入れる。特殊発火装置は、彼女の周辺の"金属熱源"から炎を巻き起こす――。

「そっちじゃないよ」

 夕暮れの紫色の空に、オレンジ色の火花が描く筋が四つ、迸った。

 炎は二人の間からではなく――、ブラインドの真上、真横、そして真下からも起こった。先ほど駅舎を消し炭にしたのと同じ火が四つ重なり、彼女を焼き尽くした。

「(な、何故……)」

 彼女は倒れながら、その銃弾の軌跡の理由を探し――そしてやがて悟り、目を閉じた。

「……さて、と」

 タクミはその仕掛けを手に取った。先ほど投げた金属の何かは、片刃のクナイのような形をしており、刃が無い部分には特殊な反りが入れられていた。彼の撃った銃弾はこの反りに従って特殊な軌道を描き、彼女を倒したのであった。

「(あまりあれこれと手の内を晒すのは、やっぱりよくないな)」

 既に日が沈みかけている中、タクミは目標の地へと走り出す。

P05 ブラインド - Blind

<特殊技>

インシネレイト 足下に仕掛けをし、寄ってきた敵を焼き尽くす。

フラワーズダンス 火柱を起こして敵の視界を奪う。

ギビングヴェント 熱源を指定し、そこから猛烈な炎を巻き起こす。ほとんどはブラインドの撃った銃弾が起点になる。

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