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Stay alert Melos!!(作:平倉胡坐)

 Melos―SRK―2は激怒した。あの邪知暴虐の徒を必ず除かねばと決意した。メロスにはコンピューター様の完璧な統治が分からぬ。メロスはコンピューター様によって統治される地下都市、「アルファ・コンプレックス」の市民である。メロスはこの都市の最底辺、インフラレッドの市民である。上位の階級クリアランスを持つ市民から隠れるように生きてきた。メロスには竹馬の友がいた。同じインフラレッドの市民、セリヌンティウスである。セクターSRKで技術奉仕をしていた。メロスは物資の配給を運よく受け取った帰りにセリヌンティウスを訪ねた。久しく逢っていなかったので大変楽しみに思い歩調も軽やかだ。しかしセリヌンティウスは不在であった。普段ならとうに勤務を終えて家にいる時間帯である。不信に思ったメロスは若い市民を捕まえてセリヌンティウスの行方を訊いた。市民は首を振って答えなかった。しばらく歩いてまた別の市民に会い、今度はもっと語気を強めて尋ねた。市民はまたも答えなかったが、メロスが腰のレーザー銃に手を伸ばそうとするとあたりをはばかるように答えた。

「市民セリヌンティウスは殺されました」

「何故殺されたのだ」

「反逆的兆候があった、とのことですが誰も反逆的などではありません、市民は皆幸福です」

「誰が殺したのか」

「トラブルシューターの指揮官で、市民ディオニス様という方です。クリアランスはグリーン緑でした。悪いことは言いません、忘れた方がよいでしょう、トラブルシューターの頂点に立つようなお方の判断なのですから」

「呆れた男だ、生かしておけぬ」

 言うが早いか、メロスは駆け出した。いくつもの通りを過ぎて、気づいた。

「南無三、もう就寝時間ではないか」

 アルファコンプレックスでは就寝時間が定められている。これを破ることは甚だしく反逆的である。通りの反対側で警備ボットが反逆者に狙いを定めていた。


 ZAP!! ZAP!! ZAP!! 次のクローンは上手くやってくれるでしょう。


 Melos―SRK―3は激怒した。あの邪知暴虐の徒を必ず除かねばと決意した。メロスにはコンピューター様の完璧な統治が分からぬ。メロスはコンピューター様によって統治される地下都市、「アルファ・コンプレックス」の市民である。メロスはこの都市の最底辺、インフラレッドの市民である。上位の階級クリアランスを持つ市民から隠れるように生きてきた。

 メロスはコンピューター様が定めている起床時間丁度に起きだした。すぐさま洗面所に向かい、ひげを剃り、髪を整える。身だしなみが乱れているのは怠惰の証左、つまり反逆的兆候だ。メロスがいつものように歯磨き粉をチューブから捻り出すと、白いはずのそれが青白く光輝いていた。チェレンコフ光の輝きである。メロスがそれを認めた時には爆発が起きていた。


CABOOOOOM!! 次のクローンは上手くやってくれるでしょう。


 Melos―SRK―4は激怒した。あの邪知暴虐の徒を必ず除かねばと決意した。メロスにはコンピューター様の完璧な統治が分からぬ。メロスはコンピューター様によって統治される地下都市、「アルファ・コンプレックス」の市民である。メロスはこの都市の最底辺、インフラレッドの市民である。上位の階級クリアランスを持つ市民から隠れるように生きてきた。

 BEEP音が鳴らされた。メロスの家に誰かが訪ねてきたのだ。扉を開けると見知らぬ市民が立っていた。身につけている服は黒、インフラレッドである。

「何の用だ、私は急ぎの用事があるのだ」

「その急ぎの用事についてだ、市民メロス、君は昨日上位の市民に対してあろうことか生かしておけぬなどと発言した、間違いないな?」

「その通りだ、奴は無実の友セリヌンティウスを殺した。」

 メロスは単純な男であった。

「完璧な市民が冤罪を引き起こすことなど有り得ない、それに上位のクリアランスに逆らうことは明確な反逆だ! お前は反逆者だ、この場で処刑するぞ、これで俺はレッドの市民になれる!」


 ZAP!! ZAP!! ZAP!! 次のクローンは上手くやってくれるでしょう。


 Melos―SRK―5は激怒した。あの邪知暴虐の徒を必ず除かねばと決意した。メロスにはコンピューター様の完璧な統治が分からぬ。メロスはコンピューター様によって統治される地下都市、「アルファ・コンプレックス」の市民である。メロスはこの都市の最底辺、インフラレッドの市民である。上位の階級クリアランスを持つ市民から隠れるように生きてきた。

 メロスは勇躍、家を飛び出し、そのまま通りを駆け抜ける。周囲には人口の八割を占めるアルファ・コンプレックスの最下層、インフラレッドの市民が僅かな生活物資を受け取るため、あるいは危険で無意味な奉仕に向かうために歩いていた。メロスは市民達を追い抜き、躱し、疾駆した。

 目の前に普段はあまり見かけないレッドのジャンプスーツを着た男が歩いていた。メロスはこれも走ったまま避けようとしたが男は威圧的な態度でメロスを誰何した。

「そこのクズ、何故そのように急いでいるのか」

 メロスは苛立ったが上位のクリアランスを持つ者に対して反発することは反逆なので努めて冷静に返した。

「私には急ぎの用事がございます、一刻を争うことなので走っています」

「そうか、つまり市民、君はスケジュールを完璧に管理することができないということだね? なんて反逆的な兆候なのだろうか! 完璧な市民ならば、常に余裕を持った行動をしているはずだ。私はトラブルシューティングの途中だが反逆者を見逃すこともまた反逆だ」


 ZAP!! ZAP!! ZAP!! 次のクローンは上手くやってくれるでしょう。


 Melos―SRK―6は激怒した。あの邪知暴虐の徒を必ず除かねばと決意した。メロスにはコンピューター様の完璧な統治が分からぬ。メロスはコンピューター様によって統治される地下都市、「アルファ・コンプレックス」の市民である。メロスはこの都市の最底辺、インフラレッドの市民である。上位の階級クリアランスを持つ市民から隠れるように生きてきた。

 メロスは単純な男である。ディオニスを見つけるや否やのしのしと近づいていきそのまま殴りかかったのだ。

「気の毒だがこれも正義のためだ!」


 ZAP!! ZAP!! ZAP!! 


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