第肆章 蝶と流星の受難
「はっ! お前はオミのお袋さんかってんだ! 今日こそ決着を付けてやる!! 上がって来い、霊夢!!」
「上等じゃない……!! そのいい加減な考え方を改めさせてあげるわ!!!」
時は少し遡り、オミが空気と化して霊夢と魔理沙が上空に上がった頃。
空中で対峙する二人は、真剣な目で語り合う。
「大体霊夢、お前はいつもいつも適当過ぎるんだよ!! もうちょっと考えて行動したらどうだ!?」
「はっ! 私には絶対の勘があるの。一々考えないと動けない魔法使いさんとは一緒にしないでくれるかしら?」
………お互いの雰囲気は真剣なのだが、
「用は何も考えてない行き当たりばったりだ、って事だろうが! 偶々悪い方向に転がってないだけで!!」
「うるっさいわねぇ!! 考えてばっかで何も出来なくなるよりマシでしょうが!!」
「なにおう!!」
「なにさ!!」
どうにも言葉のせいで、幼子の言い争いに聞こえてしまう。
歳相応と言ったらそれまでなのだが、誰がこの二人にそこまで直球を投げかけられるというのか。
そしてしばらく無言の睨み合いが続き、まるで示し合わせたように、霊夢はお祓い棒を、魔理沙は八卦炉を、お互いに構える。
沈黙、そして―――
「―――ッ【夢符:封魔陣】!!!」
「―――ッ【魔符:スターダストレヴァリエ】!!!」
互いに向けて、色とりどりの弾幕が放たれる。
御札やレーザーが飛び交う中、二人は弾幕を潜り抜けて接近しながらも弾幕を撃ち続ける。
「中々腕を上げたじゃないの、魔理沙!」
「霊夢こそ、怠けてる割には衰えてないなぁ!!」
「私は強いから、ねっ! 【夢符:夢想亜空穴】」
霊夢がスペルを発動した瞬間、霊夢の姿が掻き消える。
姿が消えたことを確認した途端、魔理沙が身構え何かを諦めたような顔をする。
「ッ! こりゃしくったな……。こうなりゃ私も――」
何故霊夢の姿が消えただけで魔理沙は身構えるのか。
それは―――
「――瞬間移動させてもらうぜ!!」
―――一瞬、四方に霊夢の姿が現れ、円形のとてつもない量の弾幕が吹き出したからである。
度重なる戦いの結果、霊夢と魔理沙はお互いのスペルをある程度把握してる。
霊夢が消えたことにより、こうなることを魔理沙は予測できたのだ。
故に、彼女は避けることを諦め―――
「【彗星:ブレイジングスター】」
―――おびただしい弾幕を全てグレイズし、霊夢の近くまで突貫した。
―――――グレイズ 弾幕をただ避けるのではなく、敢えて掠らせて最小限の動きで弾幕を躱す高等技術。普通は窮地に陥った際に、生き残るために行われる技だが、魔理沙は敢えてグレイズを行った。これが意味するのは、「お前の弾幕なんか簡単に抜けられるぜ」という挑発行為に他ならない。
魔理沙の口癖でもある「弾幕はパワーだぜ!」に恥じない、まさに力技。
大胆克つ飛び抜けた、魔理沙ならではの挑発方法。
だが、幾度と無く戦い合った二人には、この程度の事は日常茶飯事。
弾幕を潜り抜けた魔理沙を待ち構えるのは、
「はぁい魔理沙。落ちなさい!! 【夢符:退魔符乱舞】!!!」
「げぇっ!!? 何だその適当な技は!!」
「うっさいわね、スペルよスペル!! 大人しく食らっときなさい!!」
「そんなんがスペルぅ!? 私は絶対認めないぞそれは!!!」
スペルと言いながら踊るように御札を連射してくる霊夢の姿だった。
適当に投げているようで、その実不愉快なまでにこちらの退路を塞いでくる。
霊夢自身にそんなつもりが一切ないのがまた腹立たしい。
これに対抗すべく、魔理沙も物量勝負に出る。
「いい加減にしろっ。【恋符:ノンディレクショナルレーザー】!!」
幾重もの光線が、御札を貫きながら霊夢へと向かっていく。
だが、霊夢はそれを難なく躱していく。
魔理沙の目には、それが「アンタなんか挑発するまでもないわ」と言っているように映る。
何故なら、霊夢は意地の悪い笑みを浮かべながら、ずっと魔理沙を見ているのだ。
これが挑発でなくてなんというのか。だが、二人は細かいことは気にしない。
霊夢と魔理沙の基本ルールは、スペル三枚+1。
つまり、次に来るのは最後の一枚。
二人は、どちらからともなく最後のスペルカードを取り出し叫ぶ。
「これで終わりよっ!」
「こっちの台詞だぜっ!」
やがて霊夢には霊力が、魔理沙には魔力が集中していき、やがて極限まで高まり―――
「【霊符:夢想封―――」
「【恋符:マスタース―――」
「「ッ!!?」」
―――技が放たれようとしたその瞬間、突如下に現れた濃密な妖気に邪魔をされる。
魔理沙は初めてだが、霊夢はつい最近味わった濃密な妖気。
そう、この妖気の正体は―――
「ま、まさかオミか!?」
「そのまさかよ!! 一体何をやって………っ!?」
―――妖力だけなら大妖怪クラスの、無知な妖怪オミだった。
相当集中しているらしく、霊夢と魔理沙が叫びかけても返事をしない。
力は制御が難しい。大きくなれば更に。
オミはその力の制御の仕方を知らないのだ。そんな彼が、集中して妖力を集めたら?
どうなるかは想像に難くないだろう。
そして眼下で手に龍を創りだしたオミは、そのまま爆弾とも呼べるその弾幕を境内の横にある雑木林へ―――――
「「ッッッ!!!!」」
―――――閃光。一瞬だが、まるで天に居るかのような錯覚に囚われる。
周囲に立ち籠める濃密な妖気を術で振り払いながら、二人が目にした光景は、
「…………うっそ……だろ………?。」
「わ、私の神社の敷地が…………。」
跡形もなく消し飛んだ、元雑木林、現焦土だった。
そう、焦土。先程まで鬱蒼と草木が茂っていた雑木林は、今の一瞬で荒れ地へと変わっていたのだ。
まるで何処からか、とてつもない爆撃を受けたかのように放射状に広がる大地の傷。
二人の視線が向かう先には、
「…………いやぁ。これは驚いた。」
頬をポリポリ掻きながら苦笑を浮かべるオミが居た。
「少し威力が高かったかな?」
「「少し!!?」」
戦闘描写は苦手でござる~
でも戦闘は大好きでござる~