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東方尾狼伝  作者: シカバネコ
東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil ~
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第拾弐章 氷精と狼の新たな目覚め②

身体の内側から力が溢れてくるのが解る。

この状況を愉しいと思えば思うほど、湧き上がる力も強くなっていく。


(今なら―――そう、何でもできそうな、そんな気がしてくるよ。)


引き攣りそうな程吊り上がった頬で笑いながら、チルノとオミは同時に右腕をお互いの首元に向けて翳す。


「いけっ氷柱っ!! 串刺しだー!!」


その可愛らしい掛け声とは裏腹に、大気中の水分が一瞬で凍りつき氷柱となってオミへと飛んで行く。

対するオミは、その攻撃を物ともせずに反撃する。


「無駄だよ、今私は愉しい。それだけで私が負けない理由は十分だ。解けろ!」


飛来する氷柱を触れただけで水へと戻し、今度は解かした水を刃へと変え(・・・・・・・)チルノへと肉迫する。

原因はオミにもわかっていない。だが、今のオミには『水を自在に操る力』が有った。

それは氷も例外ではなく、たった今そうしたように氷を水に変え、その水に刃の形を与えて武器としたのだ。


キィィン、と水や氷にあるまじき甲高い音が響き、二人は睨み合いながら鍔迫り合いをする。


「アタイの氷柱は効かない、ってか? じゃあ……これならどーよっ!!」


「うわっ!? これ…っわっ! ちょっと……くっ! キツ…イね……え!!」


鍔迫り合いをしながら、チルノは周囲に幾つもの氷刃を生成し合図とともにオミへと躍らせる。


流石に分が悪いと感じたオミは、一端チルノと距離を取り迫り来る氷の刃を弾き、砕き、水へと変える。

そしてある程度氷刃の攻撃が緩まったところで、オミは再び攻撃に移る。


「せいっ!」


チルノから離れた位置で思いっきり振り抜いた水の刃から、凄まじい勢いで水滴が飛んで行く。

しかも氷刃を貫きながら、だ。

そのまま水滴――いや、水弾はチルノへと迫り後少しでチルノへと届く瞬間。


「逆のことが出来ないとでも思った? だとしたら大馬鹿ね。」


「まさか。君が自分を過大評価しているようだから、ちょっと遊んでいるだけさ。これからが本番だよ。」


水弾は凍りつき、チルノの持つ氷刃へと吸収されていく。

そう、オミがチルノの氷を水へと変えたように、チルノもまたオミの放った水を氷へと変えたのだ。


そのオミの返答に、チルノは八重歯を覗かせながら満面の笑みで更に氷刃を生成する。


「そうこなくっちゃね! まだまだ行くわよっ!!」


やがて正面に居るオミの視界が白銀の刃で埋め尽くされ、元気な号令とともにその全てが一斉にオミへと襲い掛かる。


「今さっき無駄だって分かったところだよね? まだ続けるのかな!!」


今の短時間で力をだいぶ使いこなせたらしく、オミは何か仕草をするでもなく襲い来る全ての氷刃を水へと変える。

そして再び水の弾丸へと構成しチルノへ向けて連発する。


「そっちこそ! 効かないって言ってるでしょ!!」


当然のように、放たれた水は一つ残らず凍結しチルノの氷刃へと吸収される。


お互いに無意味であることを再確認し、チルノは両手に豪奢な装飾の施された氷刃を、オミは一本の大きな薙刀を模した水刃を、二人は無言で構えて相対する。


その時、パキィンと何かが砕けたような音が鳴り響き、二人は訝しげに音のした方向を――湖の岸辺へと視線を向けた。

そして二人の目に映ったものは―――


「マスタァァァスパァアアアアアアアクッッッ!!!!!!!」


―――大声と共に迫り来る、虹色の極光。


「「ッ!」」


チルノは氷を、オミは水を、咄嗟に障壁として張り巡らせ極光を防ぐ。

がしかし、その場凌ぎの壁で防ぎきれる程、彼女の力は甘くない。


そしてまた、その一発で攻撃が終わる程、彼女達は甘くない。


「二重結界っ! 八方鬼縛陣ッ!! 夢想封印!!!」


背後から聞こえるその声に、二人は己の選択の過ちに気付く。

先程オミがチルノに言ったように、二人は自分の力を過大評価していた。

どんなに強力な攻撃も、自分ならば防ぐことが出来る、と。


一度目の結界で、二人は逃げ場を失い。

二度目の結界で、二人は身動きが取れなくなった。

そして、完全に拘束された二人へと鮮やかな虹玉が襲う。


過大評価していたのは自分も同じか。オミは自嘲気味に呟き、チルノへと視線を送る。

事態は最悪。二重に拘束され身動きが取れず、眼前に極光、背後から虹玉。

圧倒的に絶望的なこの状況を打破するには、残された方法は一つしかなかった。


オミのその視線で、チルノもオミが何をしたいのかを理解したらしく、小さな溜息と共に一つ頷く。

口にこそしていないが、なんで今の今まで戦っていた奴と共闘なんか……という雰囲気がひしひしと伝わってくる。

そんなチルノにオミは苦笑いをしながら、残された最後の手段を実行する。






☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯ ☯






何がなんだかわらない。

だが、この状況を放っていおいてはいけない。そんな気がする。

いやそもそもの問題で、オミがあんなに高度な結界を使えるとは思っていなかった。

博麗の巫女たる霊夢でさえも、解呪に時間を要する程の高度な結界。


どこからおかしくなったのか。

目の前で捕縛した、変わり果てた氷精と歪んだ笑みを貼り付ける同居人に、自分の全力をぶつけながら霊夢は考える。




勝負の相手が決まったので、オミとチルノを残して霊夢達は降下し、勝負が始まるまで会話をしていた。

しかし、いつまで経っても戦いが始まらないので「なにしてやがるあの尻尾!」と乗り込もうとした霊夢を魔理沙が宥め、もう少し様子を見ることに。

ようやっと二人が戦闘態勢に入ったところで、霊夢の――博麗の勘が何かを訴えた。なにかがオカシイと。

博麗の勘は、比較的簡潔に――例えば飛行中に『このまま直進はヤバイ気がする』と感じる、など――何かを訴える。だが今回は、今まで霊夢が受けたどの勘よりもあやふやに訴えた。


かつてない違和感に霊夢が顔を顰めたその僅か数秒後、視覚的にその以上は判明した。

最初に気付いたのは大妖精で、チルノの様子がおかしい、と騒ぎ出したのだ。

見れば、小柄だった氷精の姿が自分たちよりも成熟した女性らしい体付きへと変化を遂げていた。

霊夢と魔理沙は変化後のスタイルの良さに舌打ちしながら、「そもそも妖精として規格外な力を持っているぐらいだしそんなものだろう」と思っていたのだが、大妖精曰くチルノにそんな能力はないとのこと。


余りにも大妖精が騒ぐので、上空の二人をキチンと見てみる。すると、注視しなければわからない程希薄で、それでいて強固な結界が湖全体に張り巡らされている事に気が付いた。

結界のプロフェッショナルである霊夢に知覚されずにこんな事が出来るのは、相当な手練れの仕業。

しかしオミはアホだしチルノはこれまた大妖精が否定。すると出る結論は唯一つ。

最初に出会った時のように、オミが無意識のうちに結界を張った。これしか考えられない。

相変わらずの理不尽な高性能さに嫌気がさすが、何もわからぬ現状では考えるだけ無駄なこと。


結界と対峙し、最初こそ力尽くで解除しようと試みたが、直ぐ無駄なことを悟り霊夢は解呪作業へと移る。

魔理沙に急かされながらなんとか結界を解いてみれば、弾幕勝負のルールを無視して思いっきり刃を交えているオミとチルノの姿が。

それが見えた瞬間、二人が睨み合っている今がチャンス! とばかりに魔理沙が得意のマスタースパークを全力で叩き込んだ。親友の相変わらずの考えなしに呆れつつ、霊夢も結界の準備をした。

そして高度を上げようと霊力を高めた瞬間、一瞬の浮遊感と共に霊夢は二人の背後へと移動していた。

何が起こったのか理解できなかったが、自分の背を掴む大妖精の姿を見て霊夢は悟った。大妖精が瞬間移動の力を使い、霊夢を運んだのだ。この妖精も大概常識外れよね、などと考えながらも霊夢は思わぬ誤算に感謝する。

涙で顔を濡らしながら「チルノちゃんをお願いします」と呟く大妖精に、霊夢は溜息を吐きながら返事をし、捕縛に捕縛を重ねて全力で最大の技を放った。




そして今、霊夢の頭にはとても決着とは言い難い結末が思い描かれていた。

何故なら、勘が囁くのだ。終わりだけれど終わりではない、と。


多少はいつもの調子に戻った勘を不思議に思いながら、霊夢は首を傾げる。

終わりだけれど終わりではない、という事は、だ。何かが終わり、それに関連した何かが始まるという事だろう。

一体何だというのか。


そして十数秒後、霊夢は……いや、霊夢と魔理沙、それに大妖精も。更にはオミとチルノを含めた全員が、その意味を理解する事となる。


べ、べべべ別に今更重大な変更点に気が付いた訳じゃないんだからねっ


…………はい、ごめんなさい。またしても分割。

投稿時間に間に合いそうにないレベルのミスを犯しましたです。

ぜ、前回のが長かっただけで、これぐらいが普段の量だから!(震え声

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