第拾壱章 氷精と狼の新たな目覚め①
なんか作者的にも予想外な展開に。
ここまで壮大な展開じゃなかった筈なんだけどなぁ。
「ま、ままま待って霊夢! それは人に向かって撃ったらいけないやつだよね!!?」
「そそそそーよ! おおおけちつなさい!!」
ずぶ濡れのチルノとオミが、空中で抱き合いながら霊夢に向かって制止の声を放つ。
対する霊夢は、
「はぁ? ちょーっと何言ってるかわっかんないわねー。私達に解る言語で喋ってもらえるかしらー?」
ニコニコ笑顔で夢想封印5秒前☆
「………はぁ。全く、何がどうしてこうなったんだ…?」
「あわわわわ…!! ち、チルノちゃんとオミさんが……!!」
本当に、一体何があったのか。
原因はチルノとオミが戦い始めた直後に起こった。
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霊夢と魔理沙が切り株に座り、大妖精が二人と喋っていた頃。
二人の懸念通りに、戦う気満々なチルノに対してオミは時間稼ぎとでも言わんばかりに話し掛けていた。
「えっと、君はチルノちゃん……だったかな?」
「そうよ! アタイはチルノ、サイキョーの妖精! そしてここはアタイの縄張りっ! ここにアタイの許可無く立ち入る事は許されないわ!!」
胸を逸らしてそう主張する目の前の女の子に、オミは頬を綻ばせながらウンウンと頷いてあげる。
その笑みはさながら子を見守る親の笑み。菩薩の如き微笑みだった。
その菩薩の様な笑みに気を良くしたのか、チルノは先程霊夢達に睨まれたことなど等に忘れたのか同じ事を聞いてくる。
「アンタ気に入ったわ! アタイの弟子にしてあげる!」
(さっきは子分、って言ってた気が……。)
つい数分前と言っている事が違っているが、それすらも微笑ましく感じたオミは見た目相応に幼いチルノに対して優しく対応する。
「そうだねぇ。それはとても光栄な事だけれど、残念ながら私には既に師匠が居るんだ。今の師匠に愛想を尽かされちゃったらお願いするよ。」
「むぅ…。それなら仕方ないわね、アタイの所に来るまで待っててあげるわ。」
「ははは。」
「?」
全く笑顔を絶やさないオミに流石にチルノも違和感を覚えたらしく、チルノは不思議そうな顔をしてオミに聞く。
「アンタ、何でずっと笑ってるの? そんなに面白いことでもあったの?」
その質問に、オミは更に笑顔を浮かべて答える。
「いやぁ、子供は無邪気で純粋でいいなぁって、ね。」
「アタイは子供なんかじゃないわ、立派なレディーよ!」
『子供』という単語に反応して、チルノはムッとした表情で言ってくる。
しかし今のオミはやはりどこかオカシク、ニコニコ笑みを浮かべながらごめんねぇ~と言うばかり。
それもその筈。
今、オミの心の内は幸せに包まれていた。
(嗚呼、無邪気さが微笑ましい。嗚呼、ツッコミで拳や御札が飛んでこないのがこんなに嬉しいなんて……。)
そう。実はチルノは、オミにとって初めてまともに会話した他人なのだ。
思い返してみよう、今までのオミの生活を。
神社で起床し、居候主である霊夢とほぼ居候状態の魔理沙と朝食を取る。
そのまま三人でウダウダしている為、二人は身内と言っても過言ではない。
しかもちょっとした失言で、霊力こそ纏っていないが拳や御札が飛んでくる。時々虹色の閃光も。
少し前までは紫も来ていたが、最近は姿を現さないし。
そしてつい先程遭遇した妖怪、ルーミア。
あれは果たして会話と呼べるものだったのだろうか。いや、違う。(反語表現
と、まあ悲しいぐらいに知り合いが少なく、更には友達選べよ……という状況。
いずれも悪知恵が働いたり聡明だったり、と気付けば言い包められている場合が多い。
そんな佳境の中、無邪気で、純粋で、普通にお叱りを受けるチルノとの会話は、オミにとって至福の時間になってしまっていた。
怒気を孕んで鬼の形相になる霊夢に比べて、どこか拗ねたような表情で不機嫌そうに主張するチルノは、正に菩薩の様に感じられた事だろう。
歳相応に、なんて言っても常識が抜け落ちた自分の考えが合っているかはわからない。
もしや自分はロリコンだったのか。いやそもそも記憶を無くす前の自分は―――
色々な考えが頭をよぎるが、割りとどうでも良かった。
(会話が成立する。それだけの事が、こんなにも素晴らしい事だったなんて……。)
「ちょっと! 聞いてる!? おーいってばぁ!」
「はっ!? ご、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたよ。」
幸せの余韻に浸っていると、どうやらチルノが何か言っていたようで頬を膨らませながら両手を振り回しながら叫んでいた。
それにまたほわーっと幸せになりながら、改めて話を聞く。
「だから、あそこの紅白か黒白のどっちを凍らせたらアタイがサイキョーになれるか、って話よ!」
「どうしてそんな話になってるんだい!!?」
聞いたは良いが、全く展開が読めなかった。
そういえば何か適当に相槌を打った様な気がしなくもないが、幸せに浸っていたのでよく覚えていない。
というか流石にそれはマズイと思い、オミはチルノにお願いしてもう一度最初から話をして欲しいと頼む。
が、
「最初の話? んー……覚えてないわ!」
きっぱりと、満面の笑みで言い切られたので、まあいいかぁ~と和みつつそれとなく軌道修正。
「あ、そういえばさっき私を弟子にしてくれる、って言っていたけど、チルノちゃんに弟子とか子分はもう居るのかい? あそこの緑の――大ちゃんがそうなのかな?」
するとチルノは、プリプリと怒りながらオミに言う。
「酷いわ! 大ちゃんはアタイの大切な友達よ! 子分なんかじゃないわ!!」
ああ、この子は良い子だなぁ。と、また笑みを浮かべ始める自分の頬に気付いたオミは、首を振って自分を落ち着かせる。
怖い顔よりは良いに違いないが、流石に常時笑顔もそれはそれでどうかと思う。
気を取り直して。
オミはそろそろ潮時かな、と湖の畔で会話をしているであろう三人をチラ見する。
ここまで(半分ぐらいは幸せに浸りたかっただけだが)地道に時間を稼いできた。
どうにか戦わずして霊夢と魔理沙、二人の師匠が納得してくれる方法はないものか、と。
そして今、オミは一つの結論に辿り着いた。
それは――――
「よし、じゃあそろそろ弾幕勝負を始めようか。チルノちゃん。」
「む? そういえばそーゆー話だったわね。いいわ、アタイの実力を見せてあげるわ!」
――――弾幕勝負をしなければ絶対に納得してもらえないだろうなぁ。という事だ。
まぁようは諦めたのだが。
格好を付けたところで、二人の師匠には逆立ちしたって勝てやしないのだ。
それならば、潔く従ったほうが楽というものだ。
「それじゃあ始めようか、チルノちゃん。ルールはさっき言ったスペカ3枚の被弾3発でいいかな? あんまり凝ったルールだと私が辛いから、これで我慢してくれると嬉しいな。」
「いいわよ! アタイがサイキョーだって事を証明してあげる!」
小さな体を反らしながら堂々と宣言するチルノに、オミは一つだけ言い忘れた事を思い出し、それを伝える。
「あ、そうそう。私はスペルカードを持っていないから、チルノちゃんがスペルカードを3枚とも使いきっても私が3回被弾してなかったら私の勝ちでもいいかな? 確かそういうルールもあった筈だよね。」
この期に及んで保険をかける当たり、オミのヘタレっぷりが滲み出ている。
霊夢あたりが聞いたら鉄拳制裁を食らいそう……いや、まず間違いなく食らうだろう。霊力のおまけ付きで。
あの子は普段怠けてるくせに、意外と負けず嫌いだからなあ。などと考えるが、口にだすような事はしない。もとい出来ない。
どうも彼女は地獄耳で、自分が霊夢の事を喋ると大概筒抜けになっているのだ。
一回盗聴用の術式でもどこかに仕込まれたかと思って、本気で全身をくまなく探した事もあった。
まぁそれは兎も角。
ようやく弾幕勝負の準備が整ったところで、二人は妖力を高める。
「アタイは負けなーいっ!」
意気込む彼女を見ていると、オミはどうにも言いようのない不安を感じる。
確か妖精とは空気中の微弱な妖力を集めて生成される、小妖怪の類ではなかったか。
しかし。目の前の氷精は、妖霧で底上げされている事を差し引いても、明らかに異常な力を持っている。
しかも、現在進行形でどんどんと妖力が高くなっていく。
オミは無意識に、その溢れ出るチルノの妖力を自分の妖力で覆い隠した。まるで下にいる三人にバレないよう匿うかのように。
おかしい。これは明らかにおかしい。
彼女は妖精。これは間違いない。だが、今目の前で起こっているコレは何だ?
まるで周囲の紅い霧を吸収しているかのように、チルノの力が増大していく。
こころなしか見た目が成長しているようにも感じる。
どんどん膨らむチルノの力を眺めつつも、オミは思う。これ以上はいけない、と。
きっと、あと数秒もすれば今のオミでは隠し切れない程大きな力になるだろう。
オミは力が強い。その分制御が難しく、せいぜい自分の半分程の力のものしかまだ隠すことが出来ない。
もっと力を上手く扱えればな、と思う反面、オミは心のどこかでこの状況を喜んでいた。
なぜなら妖力が高まっていくチルノを見ていると、何故かわからないが懐かしい気持ちになっていくのだ。
そう、まるで―――――変わり果ててしまった旧友が、元の姿に戻ろうとしているような。そんな気持ちに。
見れば、澄んだ蒼い瞳をしていたチルノの眼は紅く紅く染まり、小さな可愛らしい六枚の氷の羽は荘厳な銀翼へと変化している。
幼児体型だった7~8歳前後のチルノの身体は、肉感的な17~18歳にまで急成長を遂げていた。
そこに先程までの愛らしいチルノの面影は無く、チルノを戦場にでも送り込んで成長させたらこんな感じかな、と言う風な凛々しい顔立ちでもって佇んでいた。
その様子を眺めながら、オミは少し下が騒がしい事に気付く。
どうやら霊夢達が異変に気付いたらしくなにやら叫んでいるが、生憎と目の前の相手と出会えた得体のしれない喜びに満たされ、オミの耳には留まらなかった。
やがて二人は、どちらからともなく口角を釣り上げ歪に笑い合い、無意識のうちに漏れ出る言葉を紡ぐ。
「どうしてかな…。君を見ていると、懐かしい気持ちになるんだ。君とは初めて会った筈なのにね。」
「おいおい、アタイをナンパしようっての? アンタみたいな貧弱そうな奴はお断りだ、って言いたい所だけど、なんでかアタイもアンタも見覚えがあるんだよね。まぁ―――」
しかし、言葉とは裏腹に二人の手には高濃度の妖力が集められていく。
声を揃えて、二人は叫ぶ。
「「―――そんな事はどうでもいい。」」
「悪いけど私は不安定な力しか使えない。だからあまり強い力はだせないよ。」
「ははっ、抑えてそれかい? まぁいいよ。アタイもまだ上手く使えないからね。」
脈絡のない会話。しかし、二人はこれから何が起こるかを―――いや、自分たちがこれから何をするかは明確にわかっていた。
だからこそ、チルノは嗤う。
「さぁ、存分に証明してあげる。アタイが最強だって事をね!」
そんなチルノを眺めながら、オミは痛いほどに感じていた。
嗚呼、自分はコレを求めていたのだ、と。
弾幕勝負なんてヌルい御遊戯じゃない。自分が真に楽しめるのは、真剣勝負という名の殺し合いだと。
かつてない高揚感に全身を包まれながら、不意にルーミアが言った言葉を思い出す。
『愉しみなさい、オミ。貴方が楽しめば、世界に存在する全ては貴方の味方になる。貴方の能力のヒントは唯一つ。周りをよく見て愉しんで戦いなさい。文字通り、世界が貴方の力になるわ。』
今までの比じゃないくらいに高まった妖力を全身に纏わり付かせながら、オミは居る筈のないルーミアに向かって心の中で言葉を漏らす。
ああ、ルーミアちゃん。
確かに私は今、最高に―――
「じゃあ証明返しだ。私は君よりも、遥かに強いって事を証明してみせよう。」
―――この状況を愉しんでいるよ。
長いとグダりそうだったので分割。
この程度で分割とかしてんじゃねーぞコノヤロウって人は遠慮無くどーぞ。