第拾章 巫女と流星と妖精と
「と、言うわけだから少しでいいから弾幕勝負に付き合ってもらえるかな。別に本気でやろう、って訳じゃな「何か言ったかしら、オミ?」楽しい楽しい弾幕勝負を始めようか!」
「…………オミさん……。」
取り敢えず、と話しかけたオミの言葉が一瞬で撤回されたのを見て、大妖精がどこか同情的な視線を送ってくる。
泣きたい。
兎に角、後ろの二人がこれ以上騒ぎ出す前にさっさと弾幕勝負を始めなければいけない。
オミは、悲しみを振り払うようにカラ元気で叫ぶ。
「じゃあルールを決めよう! スペルカードは3枚まで、撃墜制は辛いから被弾制の3発でどうかな?」
そんな提案をするオミに、霊夢がにべもなく言い放つ。
「甘いわね。撃墜した方の勝ちよ。」
魔理沙は霊夢に何か言いたげだったが、手を伸ばしかけたところで諦めたように首を振る。
容赦の無いその言葉に首を竦める大妖精を見て、チルノはトモダチの危機だと言わんばかりに勇んで宣言する。
「いいわ! アタイが相手になったげる!」
「撃墜制じゃなくて、被弾制でね。あ、それと私は弾幕勝負をするのが実質初めてのようなものだから、手加減してくれると嬉しいな。」
「安心しなさい、きょーしゃはじゃくしゃを助けるのよ!」
さらりと加えられるオミの初実戦宣言に、大妖精は目を丸くする。
どこか的はずれなチルノの言葉には慣れているようで、呆れているのは霊夢と魔理沙だけのようだ。
戦う相手が決まったところで、オミとチルノを残して三人は地上へと降りる。
そこで、適当な切り株に腰掛けた魔理沙が自慢気に呟いた。
「ま、そこらの妖精には負けないだろ。なんてったって私らが育てたんだからな。」
それに呼応するように、霊夢も自慢気に言う。
「当たり前よ。ちょっと強い妖精程度に遅れを取るようじゃお留守番決定よ。」
一応私はそのちょっと強い妖精側なんだけどなぁ……、と目の前で繰り広げられる会話に苦笑いしながら、大妖精はチルノを応援する。
相手は初心者だし、チルノちゃんでもなんとかなる。………筈。
きっと次に自分も戦わされるのだろうと予想して、この戦いを見て相手の戦法を学ぼうと空中の二人をじっと目詰める大妖精。
しかし大妖精は、切り株に座る二人が信じられない事を言ったのを聞いた。
「唯一つ問題があるとすれば………」
「そうね、オミは………」
「「スペカを持ってない。」」
「えっ!?」
普通に考えれば絶望的な言葉と、言ったその表情や口調があまりにも違いすぎて大妖精は思わず声を漏らしてしまう。
声を出してしまったことに気付いてから、睨まれる!?と思ったが、二人は寧ろ当然といった様子で説明を始める。
「おいおい、弾幕始めて半月程度の奴にスペカなんて作れると思うか?」
「そもそも能力すら不明なのにイメージも何もないでしょうに。」
いや、初めてとは言っていたがまだ半月しか経ってないのは初耳ですが。
それに能力持ってるのかあの人。私も持ってないのに。
色々考えていたのが顔に出ていたのか、追加の説明&自慢が入る。
「まぁこの勝負でパッと能力が開花すればいいんだがな。そしたら私でも楽しめるぐらいにはなるのかな?」
「能力にもよるでしょうね。それに、相手がちょっと強かろうがオミなら大丈夫でしょう。開幕一番にアレをぶっ放せばどっち道撃墜よ、撃墜。被弾なんてしてる暇ないわ。」
ますます混乱を極める二人の言葉に、大妖精は意を決して話し掛ける。
「あ、あの……。オミさんは、一体何者なんですか…?」
きょとんとする二人に、大妖精は続けて質問をする。
「私でも解るくらいに大きな妖力を持っていたり、持っている能力が解らなかったり。絶対普通じゃないと思うんですけど………。」
もっともな疑問に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせ声を揃えて答える。
「「私が聞きたい。」」
「……えっ?」
そんな事は解ってる、とでも言いたげに二人は愚痴をこぼし始める。
「そもそも最初に会った時に、もっと膨大な妖力を垂れ流してたのよ? 今でこそあそこまで抑えてるけど、今の貴女みたいに近づかれるとバレるのよねぇ。力を抑える、って相当難しい筈なんだけど、意識せずに普通にやってるし。」
「しかもなんだあの力? まるで私の努力が馬鹿にされてるみたいだぜ。特に必要としてなにのにあんな凄い力を持っててさ。いつか絶対オミと正面から戦ってギャフンと言わせてやるぜ。」
何故か愚痴こぼし大会になり始めたので、大妖精は話題を切り替える。
「そ、そういえばお二人はどんな能力を持ってるんですか?」
が、
「はぁ? 敵に教えるわけないでしょう?」
「流石にこれから戦う相手に教える訳にはいかないな。」
「あぅ……。」
話題の選択を失敗したらしかった。
まぁ当然の反応といえば当然の反応なのだが。
(っていうかやっぱり私も戦うんだ……。)
意図せず答えを聞てしまい、若干気落ちする大妖精。
どうしようもなく、上空で戦って居るはずの二人を見上げる。
そして、見上げる最中に重大な違和感に気付く。
そしてその大妖精の怪訝そうな顔で、霊夢と魔理沙も違和感に気付いた。
((( 何 故 会 話 に 集 中 出 来 る 程 静 か な ん だ ? )))
オミの性格と、相手であるチルノの言動から推測した性格を把握し、いち早く原因に思い当たったのは、やはりというか当然霊夢だった。
「……………………………………………。」
「ちょちょちょちょっと待とうぜ霊夢! オミなんだから最初から可能性の一つにあっただろ!?」
だからその物騒な物を仕舞え、全力でそう訴える魔理沙の目の前で、霊夢は陰陽玉と御札を周囲に浮遊させ、針と御札を両手に持って完全な臨戦態勢を取る。
完全に怯えて声も出ない大妖精を尻目に、魔理沙は必死に霊夢を宥める。
「それに考えても見ろ、オミのことだから意外な情報を拾ってくるかもしれないだろ? あいつは変な運に恵まれてるんだからさ。」
「…………楽しくお喋りしながら?」
「お、おう……。」
修羅の如き形相でこっちを向く霊夢に若干引きつつ、魔理沙は返事を返す。
そう、霊夢がいち早く気付いた真相。
それは―――
「いや、私は最初からこうなると思ってたんだぜ? あのオミが普通に弾幕勝負を始める訳がない、ってさ。絶対長時間のお喋りを挟んでから始まるだろうなぁ、って。」
―――三人が地上に降りてからずっと、オミとチルノは戦わずに会話をしていたのだ。
上空で弾幕勝負が始まっていたのなら、三人は呑気に会話などしてられなかっただろう。
主に霊夢と魔理沙がオミの戦い方にいちゃもんを付ける関係で。
流れ弾の一つも飛んでこないのは、弾幕勝負を観戦している状況としてはオカシイ。
大妖精はそう考えるが、霊夢と魔理沙の考えは違った。
「まぁ私もちょっとオカシイな、とは思ってたんだ。爆発音がしないんだもんな。」
「ば、爆発…?」
大凡弾幕勝負に似つかわしくない単語が魔理沙の口から飛び出した事により、大妖精はまた言葉を漏らす。
「そ、爆発。オミの弾幕は凄いわよ? ってまあアレを弾幕と呼んでいいかは別としてね。」
微妙そうな表情をする霊夢に、魔理沙が苦笑いしながら言う。
「アレは最早弾幕じゃなくて爆弾だな。しかも導火線が安定してないときたもんだ。」
ますます意味が解らない。
困惑が増すばかりの大妖精は真相を知るため、取り敢えず未だにお喋りを続けるオミとチルノをジッと眺めるのであった。