幕間
まるで巨大な星が空を流れるような剣だった。
スイの放った刀術――空凪古流箒ノ型、箒星。彼はあの技をそう呼んでいた。ホウキが編み出した剣だ……と。
脳裏に焼き付いた先の光景を、シャーロットは未だに忘れていなかった。自室に戻ってからすでに時計の針が半周している。しかし、とてもじゃないが眠れるような精神状態ではない。
凄まじく速く、そして驚くほど眩い剣だった。
一度見たら決して忘れられないような、そんな剣閃。
「あれが……ホウキの剣技か」
見せられた、というより、最早あの瞬間の興奮は魅せられたという表現の方がしっくりくるだろう。
それをよりによって、あのホウキを殺したという憎い男に見せられたというのは暫し釈然としない。
そう考えた次の瞬間、シャーロットは不快感に襲われた。ただし、それはこれまでのような彼に対するものではない。彼に不快感を抱いていた、自分に対しての不快……そう思える感覚に、シャーロットは嘆息した。
これまで一度として彼の素性を知ろうとすることはなかった。彼は自分の憧れの存在を殺した憎い敵。それだけがシャーロットの彗に対しての認識だった。
だが、彼がホウキの息子だと知ったあの瞬間から、何故だろうか。それは間違っていたのだと思った。
彼から溢れていたあの諦観の眼差し。まるで自分の命に執着しない虚無感。それらの根源が自分の母を殺したという罪悪感からきているのだとすれば、納得がいく理由だった。
そして、同時に理解した。自分が何故、最初に彼を見た時にあれほど嫌悪感を抱いたのか。
――彼は同じなのだ。昔の、幼い頃の自分と。
だからあそこまで嫌悪した。だからあれほど敵視した。
どうしてお前はいつまでもそうしているのか。
いつまで過去のことを悔いて、そのことばかり考え停滞しているのか。
私は今、こうして生きているというのに!
気づいてしまえばなんと簡単なことだろうと、シャーロットは自分を叱責する。自分に彼を責める権利など、微塵もないのではないか。
「……同じ。そう、同じなのだな。私たちは」
最早最初の頃にあった激情はシャーロットの中にはなかった。
この一週間、剣を教わりながら何度となく彼を観察していた。憎き仇を討つ機会をうかがっていた。しかし、それはどれほど無意味なことだったのだろうか。無為で無価値な行動だったのだろうか。
ホウキの話をする時の悲嘆にくれる様子に、どうしてこれまで気づかなかったのだろう。
この刀を見ている時、懐かしむように目を細めていた彼の姿に、何故昔の自分を重ねられなかったのか。
自分が酷く情けなく思えた。彼を責めることなど自分にはできない。できてはならない。
ならば、彼の背負う罪を知った今、自分にできることはなんなのだろうか。
寝台に腰かけながら、シャーロットは考える。
母を殺したというその罪を負った咎人に必要なもの。
咎人に必要なもの。それは贖罪ではなく――
考えに考えた果て――ようやく一つの答えにたどり着いたシャーロット。気づけばすでに空は白み始めていた。




