「まぁいいか。」
亜麻色の髪の男性視点です。
あの娘に会った後、俺は何時もの店で何時もの飲み物を注文する。
女はいくらでも寄ってくる。好みの女以外は無視だ。
だが、あの娘は別に好みでも何でも無かったのに目を引いた。
最初は銀貨にみせた金貨を持っていることに疑問を抱き、変な細工をしてやがる…と内心で思った。
普通に愛想笑いをして落としたであろう人物に手渡す。
娘は一瞬此方に目を向けたようだが、直ぐに俺の横をすり抜けて行こうとする。顔が無表情なので気持ちが読めない娘…
それが俺から見た娘の第一印象だった。
これでも顔には自信がある俺は娘の行動に驚く。俺が今まで会った娘は、俺を見た瞬間に頬を染め近づいて来る。そして、無下にすると赤子みたいに泣き喚いたり駄々をこねる。正直に言ってうざい娘ばかりだった。
俺の基本的な好みは娘を見てヤりたいか、ヤりたくないかで決める。
そんな俺が、まだ子供みたいな娘に目を引いてしまったのだ。
胸もさほど大きいと感じない胸で、腕もちゃんと食べているのか疑いたくなる程細い。
ふと、その腕に目がいく。ざっくりと切り傷があって、みるからに痛そうだったのだ。赤い血もダラダラと出ている。
それなのに、平然としていて、瞳に生が宿っているのか疑いたくなった。
何も映していないような深い深い海の色、少し青海がかっている瞳。
黒目がちで大きな瞳…吸い込まれそうだった。
気付いたら声を掛けていた。娘の反応は腕の切り傷に気付いてなかったみたいで、その腕に視線を向けている。
俺は咄嗟に何時もなら絶対にしない、自分の服の袖を破り、その娘の腕を掴んだ。
応急処置をするためだ。
だが、驚いたことに抵抗された。「やっ…」と言う一言だけど顔は恐怖に歪んでいた。
しかし、人の親切を嫌、だと?と俺は少し苛立つ。
その苛立ちも次の一言で綺麗に消えたが。「ごんなさい」の一言だったが
それだけでその娘の人格が分かった気がした。
まぁ、俺も急に掴んだのは悪いと思うが。
失礼なことをするときちんと謝れる人は好きだ。
何処かの令嬢…だった?
何となく俺の脳裏を過ったのはそんなこと。
ポツリと思ったのだ。
とても姿勢がよく、堂々としていて強い印象からだろう。過去形なのは服装からだ。
普通の質素な服装で薄い白のワンピースを着ているだけだったから、今も令嬢では無い気がした。
もっと、話してみたい。と思った。これはちょっとした気まぐれ。
その娘に声を掛けた。
振り返る娘の姿…何故か胸がトクンッ…と跳ねた。
そんな俺の鼓動は聞こえる筈も無く。「なんですか?」と首を傾げている。俺は身勝手に来週会う約束をしてスタスタと歩き去った。
来てくれたらいいな…と期待を込めて。
「あーーーーー、どうしたんだ?俺は。」
頭を抱え机に顎を付く。追憶に浸っていたがとうとう、声を出さずにはいられなかった。
勘は鋭い方なのだが、よく分からない娘…
どんどん混乱してくる。
主人に用意してもらったカクテルを一気に飲み、さっぱりした。
「まぁいいか。」
そう言い、席を立つ。
主人に銅貨を渡し、家へと歩みを進めた。
臭い死体が無ければ良いな…と無理な期待を胸に抱きながら。