「なんなの…?」
7/5編集致しました。
「あ!調味料切らしてたんでした。買いに行かないと」
森の中、大自然に囲まれての生活は全然大変では無かった。ただ少し街からは遠いけど。
籠の中に銀貨を入れて街へと足を運ぶ。街は活気だっていて人々が西へ東へ、北へ南へ行き来していて人の波に乗らないと押しつぶされてしまいそうになる。
人混みを抜けてお目当ての店に足を運ぼうとすると、前から来た男の人の肩にぶつかり銀貨が道端に転がる。
「あっ、すみません」
男の人は私を少しみて直ぐに前へと進んで行った。
謝るぐらいしろよ!
私は肩がぶつかった男の人に心の中で舌打ちをする。
「これ、落としましたよ。」
声の主の方へ顔を向けると、そこには亜麻色の髪をした燃え上がる炎のような瞳を持つ、私より背の高い男の人が居た。全体的に甘めなオーラを醸し出している。が、どうも嘘っぽい笑顔…
「ありがとうございます。」
私は亜麻色の髪をした男の人から落とした銀貨を受け取り、男の人の横をすり抜けようとした時、男の人が私に声をかけた。
「腕…切れてますよ。」
男の人が私の腕を指し言った。自分の腕に目を向けてみると、本当だ…ザックリと切れていた。
男の人に今度こそサヨナラしようとしたらビリーッと服を千切る音が聞こえ、手首を掴まれた。
「やっ」
私は反射的に男の人の手から逃れる。体を掴まれたりすると、恐怖を感じてしまうのだ。増してや男の人に掴まれたりすると…だけど、今のは確実に失礼に値する。
「っ、ごめんなさい!」
男の人ははにかんだような笑顔を見せ、別にいーよと今度は、さっきよりも優しく手首を掴み、先程千切ったであろう破れ布を私の腕になるべく痛くしないように巻いて行ってくれた。
「ありがとうございます」
私は相手にお辞儀をし、その場を去ろうとした。
「待って、」
急に呼び止められ振り向く。振り向く際に無造作に広がる白髪が揺れる。私の目の前にぶわっと白髪が現れはっきり言って鬱陶しい。切ろうかな…そんなことを考えていたが、男の人の存在を忘れていた。
「なんでしょうか?」
「っ、また、会えないかな?」
男の人の思っても見なかった発言に少々驚いた。
「また機会があれば会えるんじゃないのでしょうか。」
「来週、ここで待ってる!」
それだけを言い残し男の人はやっとこの場を去って行った。
「なんなの…?」
私は暫くの間あの男の人の背中を眺めて居た。
夕刻を示す銀の鐘がなり、我に帰ると頭をブンブンと振り、籠をギュッと持ち、店へと足を運ぶ。
暫し歩いて行くと、古臭い私のお目当ての店に着く。店の中には40代半ばのおじさんが居て、いつも通りに言葉を交わす。
「何用で?」
「調味料下さい」
「なんだ、今日はそっちの用か」
「えぇ。それと、入りました?」
「やっぱりな。」
おじさんは喉をクッと鳴らし目つきを変える。
「これ、銀貨じゃなく金貨だからな」
そう、私は金貨の表面に銀貨に見せた細工をし、この店に訪れた。
私が欲しい物は二つ。
一つは調味料…
二つ目は…私の両親を殺した、あいつらの情報…
おじさんが真っ直ぐに私を見る。
「あれには関わらない方が良い。あれは危険な組織だ。」
「組織…とは?」
おじさんは苦虫を噛み潰したような顔をし目を逸らす。
「…暗殺組織だよ。それも、凄く名の知れた…ね。組織の名前は『黒死』その中で当時、トップに立っていたのは、名剣…闇を所持している男だ。
名剣…『闇』は闇と言う名の通り真っ黒だ。しかも魔力を纏っていて人体の細胞を再生不可能にする力を秘めている。」
「そ、の剣です。両親を殺した…」
私は手に力を入れる。忘れもしないあの剣…ギリッと歯が擦り合う音が聞こえ、そこで気を静める。
「おじさん調味料を有難う。また来るね。また、宜しく…」
そう言い残し、カランカランと扉を開けて森へ帰る。
私の頭の中には暗殺組織…『黒死』の事でいっぱいだった。先程会った男の人の事など忘れてしまうほどに…
さっきの古臭い店は信用出来る唯一の情報屋…一見は適当に売ってる店だが言葉を交わせば、主人から貨幣の代償に見合った情報をくれる。
今日はおじさんもやっと、この情報に辿り着いたみたいだ。やっと、両親の仇が取れる。
あの忌々しい名剣…闇の持ち主。残酷な死に方をさせてやる…
私はこの時、自分に眠るもう一つの悪魔に気付かなかった。