第30話 私の魔法…-4
「あれ?」
不意に……
いえ、ここはやはりと言うべきでしょうか?
私を空へ空へと押し上げていた『力』が消えてしまいました。
風の魔法『突然のつむじ風』を形成していた魔雫が、全て大気へと散った事でその『力』は消えてしまったのです。
さて、ここで問題です。
押し上げていた『力』が消えたら私はどうなってしまうでしょうか?
答えは簡単、落ちる…ですよね。
瞬きする程の時間、宙で停止した後に私は落ちて行きました。
右から左へと流れていた景色が、今度は下から上へと流れて行く。
景色を眺める余裕なんて全く無い速度。
そう言えば以前にもこんな事がありました、あれは魔王との契約をしていた時の出来事。
あの時は液体の中へと落ちました。死すら覚悟したのも、もはや思い出。
でも、今回はそんな風にはならない。
「あうぅ!?」
どさりと言う落下音と同時に、白い物が高く舞い上がった。
雪です、地面に厚く積もっていた雪が高く舞い上がりました。
舞い上がった雪は再び積もり、私を白へと覆う。
なんだか詩的な気分。でも痛い。
腰からお尻付近を少し強く打ったのか痛みがある。多分、骨折や怪我は無い。
痛みを最小限に留める事が出来たのは、雪がクッション代わりとなったお陰
魔法を受けた時は寒かったけれど、これを考えれば『この魔法』が先で良かった。
でも、動けない。後で『また』クロワに治癒して貰わないと……
ぼんやり考える私の耳に、ザッザッと雪の日の足音が近付いてきました。
「シルファ大丈夫?…魔法を制御しきれなくてごめんね……」
コロネです。彼女の方へと首を回せば、葦の葉の耳は垂れ子犬の様にしょぼんとしていました。
「いいのいいの、お願いしたのは私だから、ね?」
遅れてやって来たルキアとクロワに身を起こして貰いながら、手を伸ばしコロネの頭を撫でてみる。
すると彼女の耳は直ぐに起き上がり元気に。
彼女のこう言う素直な反応は、愛らしい要素の一つだと思います。
「それにルキアの雪があったから」
「あ、お役に立てたのは良かったけれど…制服が濡れてしまったわ」
私が言うと、ルキアは私の背を支えながら困った表情を浮かべました。
確かに濡れてはしまったけれど、私の身を守ってくれたのだから
結果よしです。
それにこの雪は、水の魔法を試す過程で私が無理にお願いした物。
だから、その事を伝えて、今度はルキアの頭を撫でてみたら
彼女は頬を染め照れた表情を浮かべました。やはりルキアの照れた顔は可愛い。
「ね~身体は大丈夫~?また治癒する?しようよ~。で、私も撫でて~」
そこへクロワが横からすっと入って来ました。
撫でて…って、なんだか彼女が可愛い?なんだか今日は皆が可愛い気がします。
もしかしてだけど、私に気を使ってくれているのかな?なんだか嬉しい。
今は遠慮するよりも、好意は素直に受ける時。それで、いつか皆にはこの恩を返さないとだよね。
………
……
…
「ん、治癒完了~、シルファ他に痛い所はある~?」
「他には…あ、大丈夫みたい?ありがとう」
「んへへ~」
治癒のお礼に希望通り、クロワの頭をほわほわと撫でてみる。
するとクロワは葦の葉の耳を揺らしながら、目を細めて。なんだか大きな犬の様。
それと一つ発見。
コロネの髪はさらさらとしているけれど、クロワの髪はふわふわとしている。
同じ森妖精の髪でも違いがある知り、さりげなく感動と衝撃を受ける私でした。
そうそう、結果的に何度もクロワからの治癒魔法を受ける事になったけれど。
今の所、治癒魔法を習得する事は出来ないみたいです。残念。
「よし!じゃあ、試してみるね!」
クロワを撫で終えると、私は確かめる様にしながらゆっくりと立ち上がった。
うん、身体の調子は大丈夫。
クロワの治癒魔法のお陰で、身体の痛みはほぼ無くなった。
治癒魔法を受けても、疲労の根は残っているし。休むのが一番なのだけど。
今は休んでいる時ではありません。
「あ?もしかして何か掴めた?」コロネからの問い掛け。
「ん、わからないけど……」
彼女の言葉に曖昧な言葉しか返せないけれど、今度は確信がある。
胸の中に、ルキアからの魔法を受けた時とは違う何かがある。
特別な物に触れた様な、何かに届きそうな。
まだ形の定まらない曖昧な物だけど、確かにここにある。
試してみないと。やってみないと答えは出ない。
「えっと…さっきの魔法は竜巻だから」
「『突然の竜巻』は、こう…ぐるぐると風を混ぜるイメージかな?泡立て器で混ぜる様な……」
「ふんふん?えっと、泡立て器でぐるぐる?」
コロネの説明は大雑把ではあるけれど、その分イメージを作りやすい。
私の中に風をイメージし、ぐるぐると掻き混ぜる。泡立て器でぐるぐると。
行ける?今度こそ行けるかもしれない。
イメージが私の中で形になり、私の中の魔力が渦を作り始めた。
「今!」
声と共に手を突き出した。
「………」
佇む私の頬を風がすぅっと撫で、通り過ぎて行きました。
「……あれ?」
手からは何も出ません、駄目みたいです。
結局この日は成果無しのまま終わりました……
………
……
…
「みんな、今日はありがとう…私はもう少しがんばってみる……」
「ええ、わかった。でも、あまり無理をしてはダメよ?」
ルキアからの言葉に私はこくりと頷き、小さく手を振る。
空の色は青から橙へと変わり、肌を撫でる風も冷たくなってきました。
皆にもするべき事はあるだろうし、今日は先に寮へ帰って貰う事に。
ここまで付き合ってもらっただけでもありがたいし。これ以上は。
「あ?まって~、がんばるシルファのために~」
「…?、あ…あの……」
帰りかけたクロワがくるりと振り向き、駆け寄ると私の頭を抱きしめました。
ふわふわと温かい物に包まれる様な感覚、これは一体?
考えるよりも先にだんだん身体がぽかぽかと暖かくなり
身体の奥から力が沸き上がってきました。
これは治癒魔法とは異なる魔法?
「これが私の固有魔法みたいだよ~、大地から力を貰って人に分けてあげるの~」
納得。今朝、クロワが妙に元気だったのはこれが理由みたいですね。
人に力を分けるなんて、クロワらしい固有魔法です。きっと暖かい魔王と契約出来たのでしょう。
「魔力の回復まだ無理みたい、ごめんね?」
「ううん、ありがとう…これでまだがんばれそうだよ♪」
むしろ魔王の方が、彼女の温かく柔らかな気質に惹かれたのかもしれませんね。
「あ~、私もシルファを抱っこするーるー……」
ルキアとクロワに引き摺られ、コロネの声が遠くなって行きます。
コロネごめん。
いつか必ず、この日この時の恩返しはするから。今は……
………
……
…
三人が去り、実習場には私だけが残されました。
高い木々に囲まれ、外部から閉ざされた広い空間に私一人だけが。
私だけ。それに気付くと急に寂しさが込み上げて来たけれど。
今は寂しがっている場合ではありません。
出来る事は少しでもやらないと!
先生達のお陰で魔王との契約は成功し、私の魔力の上限が上がっている事は解っています。
それはつまり、私がまだまだ成長出来る事を意味します。
成長出来るのなら、成長するしかない。
成長するために何をする?特訓です!
今の私に使えるのは、女子ならば誰もが使える基本の魔法だけ。
だけど、基本の魔法でも繰り返し使い続ければ威力は上がっていくし、魔力だって上がる。
幸いな事にクロワのお陰で体力は回復しています。
これなら下校時刻まで頑張れるはず!
「まずは…『魔法の矢』から……」
一人小さく呟くと、右手の指二本を標的へと向けました。
『魔法の矢』に正しい構えは無いけれど、私はずっとこの構えです。
ボールを投げる様な構えや、手を交差させる子もいる。基本の魔法だからこそ、個性が出やすい魔法とも言えます。
「はぁ…ふぅ……、魔法の矢!」
気合い一閃、指先から魔雫の塊が放たれる。
魔雫の塊は飛翔する過程で鋭い形となり、的へ到達。
パンっと言う破裂音と共に的を穿ち、木片を撒き散らす。
もはや慣れ親しんだ魔法。
意識の集中からイメージの確立、そして魔法の発動。
全てを息をする様な感覚で行う事が出来る。
だからこそ、『魔法の矢』には魔法の基本が詰まっています。
意識、収集、形成、制御、放出
魔法を使う中で絶対に必要となる要素が詰まっている。
ちなみに『指弾きの灯り』には「維持」や「操作」等が。
女子ならば誰もが使える基本中の基本の魔法。
基本だからこそ今は繰り返し練習し、少しでも魔力の底上げをしたい。
「もう一回!」
一発、二発、三発。ひたすら『魔法の矢』を繰り返す。
私自身にもわかる、魔王との契約前よりも威力も速度も上がっている。
感覚的に見て2~3倍くらいかな?まだ上がるはず。以前より魔力消耗による疲労も少ないし、放つまでの時間も短くなっている。
「魔法の矢!」
これで十発目。まだ魔力にも気力にも余裕があります。
時間の方は…大丈夫。懐中時計の針は門限まで二時間程とある事を示しています。
二十発
三十発
………
……
…
「五十!」
自己最多を余裕で更新!
以前の私だったら三十発に行く前にふらふらになっていました。
これならまだ行けそうです、もう少しだけ頑張ってみよう。
私は五十一発目を放つため、右手を構えるのだけど……
「あれ?」
ふっと一瞬目の前が暗くなりました。
おかしいです。丸太の的もゆらゆらと揺れているし。
なんだか地面が揺れている様な。
違う、これは私の方が……
どうやら私の身体は、私が思う以上に限界に来ていたみたいですね。
もう立っている事が出来ない。
これではまたセレーネお姉さまに心配をかけてしまう。
お姉さまごめんなさい……
私の意識はそこで途切れてしまいました。
………
……
…
「あれ?あ、門限!」
「わ?」
実習場で意識が途切れてどれほどの時間が流れたのかわからないけれど
私の意識はなんとか戻る事が出来た様です。
だけど何かおかしいです、それに声が聞こえました。
私の良く知る声、セレーネお姉さまの声が聞こえた様な気が?
「シルファ…いきなり起きて大丈夫…?」
やはり声がしました。
間違いなくお姉さまのお声です。それもすぐ近く、具体的には耳元付近。
「お姉さま…!?」
振り向けば、やはりそこにお姉さまのお顔がありました。
ここまで読んでいただきありがとうございますですです。




