第18話 不思議な道具屋さん-4
ライラと私、お互いの姿を確認して暫しの時間が流れていた。
時折、瞳が上がるも、重なってはすぐに下がる。
初な恋人同士の様な状況、だけどそこには甘い空気等欠片も無い。
あるのは形容し難い微妙で重たい空気。
この空気を変えようと、何度か会話を試みるが。
「あの……」
「あの……」
まただ。
「………」
「………」
なぜか話し出すタイミングが重なり言葉が止まってしまう。
先程からこれの繰り返し。
ううん違う。
本当は私もライラも何を言えば良いのかわからない。
お互い、相手になんて言葉をかければ良いのかわからない。
わからなければ言葉は繋がらず、会話にならない。
でも一つだけ分かる事がある、それはライラも私と同じ事を考えていると言う事。
『なぜ貴女がここに?』
私はライラがカーテンの向こうに居るとは思っていなかったし。
ライラも私がカーテンの向こうに居るとは思っていなかった…はず。
しかも、お互いに複雑な感情を抱いている者同士の遭遇。
二人共どう言葉を交わせば良いのか分からなくなってしまった。
それが今の状況。
コロネに助けを求めたくても、視界の範囲にコロネの姿は見えない。棚の向こうかその奥で装束を選ぶ事に夢中になっているのかもしれない。
こう言う時こそ彼女のにぎやかさが頼りなのに、姿が見えなくてはどうしようもない。
まったくもう!と心の中で愚痴るもコロネが悪く無いのはわかっている。
やはり、私自身でこの状況を切り抜けなくては。
強引にでも言葉を続けてみようかな?そうすればそれを切欠にライラとの仲を改善出来るかもしれない。
そうだ、ずっと先伸ばしにしていた事をどうにかするチャンス!
もしかしたら、この店を見つけたのもこの運命の巡り合わせを演出するための女神様の粋な計らい。
よし!私から何か言う!言うぞ、言わないと。
ああ、もう!言葉が思い浮かびません、頭の中の私が叫びながら髪を掻き毟る。
セレーネお姉さま、シルファは肝心な時にダメな子です……
自己嫌悪の後、心の中で溜息。
ん?ふと、意識が現実に戻った瞬間、ライラと視線が重なった。
あれ?なんだろう。
こう改めて見るとライラの瞳って綺麗かも?
最初の出会いから睨まれたりで、あまり良い思い出の無い瞳だけど……
ライラの瞳って青緑石の様に深い光を湛えていて綺麗。
ううん違う、最初の出会いは昇降口の前。あの時の彼女はどんな瞳を?
記憶を手繰る。校舎を見上げ立ち尽くす私、そこへライラの声が……
「あー、その…これを落したのは貴女かしら?」
そうそう、こんな風に。
それで、声のする方を見たらライラが居て、あの青緑石の瞳が私を見ていたんだ。
あれ?でも、あの時はもっと別の事を言われた様な?
「ひゃう?」
変な声が出てしまったが、気付けばライラが私を見ている。
むしろ睨んでいる、そうそうあの時もこんな風に。
そうじゃなくて!
声をかけて来たのは夢想の中のライラでは無くて現実の彼女。
何かを差し出しながら、焦れた瞳で私を睨んでいる。
そうだ。あの時の彼女もこんな風に焦れた瞳をしていたんだっけ。
だからそうじゃなくて!
私がぼんやりとしている間にライラの方から声を掛けてくれていた。
「え、えっと!?」
「だから、これを落したのは貴女かしら?」
差し出された手の中にあるのは細かな装飾の入った飾り細工の様な物。
多分、いや間違いないく装束から外れ落ちた『何か』だ。
「は、はい!私のです」
上擦る寸前の声になりながら慌てて返事を返す。
正確には私の物では無いから、質問された内容とはずれている答え。
それでも、早急に解決すべき問題の一つが解決したのは事実。
ライラに感謝し一安心したい所だけど、そうもいかない。
「よかった…でもどうしよう、取れちゃった……」
「はい?取れちゃった?」
見つかったのは良かったけれど、ここでまた新たな問題が。
この『何か』は装束から外れてしまった物、つまり買う前の装束を損傷してしまったと言う事になる。
もしかして弁償?いっそ買い取ってしまえば問題解決?どっちにしても装束は買う必要があるのだし。
でも、サイズが合わなかったらどうしよう?私にはその壁がある。丈はともかく胸周りを直すのは難しいから。
一つが解決したと思えば、また新たな問題が。
問題の追撃から抜け出す事の出来ない私に救いの声が聞こえてきた。
むしろ、おろおろする私をみかねたのかもしれない。
「タグですわね、それ」
「タグ?」
ライラの声だ。私の手の中にある『何か』を指で転がすと説明を続ける。
「ええ、商品を効率良く管理するための…名札の様なものでしょうかしら?」
タグについては初耳だけど、名札の様な物なら取れても大丈夫と言う事。
よく見ればタグと呼ばれた『何か』の淵には糸切れが付いている、多分これが切れて落ちてしまったのだろう。
つまり、ライラの言う通りなら全ての問題が解決した事になる。
「良かったぁ、じゃあ弁償とかしなくてもいいんだ」
「ふふ、この記号は多分サイズと縫い上げた日付と……大きい」
「大きい?」
突然ライラの動きが止まってしまった。『大きい』って、何が大きいのだろう?
首を傾げつつ彼女の視線を追いかけ、視線を下げてみた。すると。
そこにあったのは、白い肌と大きいと呼称された『それ』を包む布地。
同年代の平均からすると大きめの『それ』。持ち主は私。
「…あ」
私、着替えの途中でした!
記憶の彼方に置き去りにしたいたが、下着姿のままでライラと会話を続けていた。
普段ならば制服や衣服で隠されているはずの全てを晒した状態。
気付いてしまうと、感情は一気に込み上がって来るもので。
さらに自分が置かれていた状況までが感情に上乗せされれば、後に来るのは……
「ごめんなさい!」
羞恥の感情が一気に弾け、口から出たのはその一言のみ。
ライラを置き去りにする様に更衣室へと引っ込むと、勢いよくカーテンを閉じた。
見られたのは私だし、謝る必要は無かったのだけど。
自分の姿に気付いた瞬間、感情が入り乱れどうしようもなくなってしまった。
せっかく良い雰囲気に会話が進んでいたいたのに……
ライラには悪い事をしてしまった。それに、お礼もまだ言っていない。
カーテンの向こうにまだ人の気配はあるけれど、下着姿のままでカーテンを開くのは恥ずかしい。
悔いても仕方無いし、ひとまず装束を試着しよう。
サイズが合わなくても、それはそれで顔を出す理由にはなるし。
彼女も装束を捜しに来たのだろうし、すぐに帰ってしまうと言う事はないはず。
それに期待しながら、私は着替えを再開した。
ここまで読んでいただきありがとうございますです。




