第13話 二人の時間.2
友人達と語らい過ごす昼の時間は飛ぶ様に流れて。
今はセレーネお姉さまと触れ合い過ごす夜の時間。
「そんな事があったのね、それであんな事に……」
「はい…お姉さま、取材とかでいきなり」
ここは学生寮三階にある私とお姉さまの部屋。
姿見の前、お姉さまに髪を梳かれながら今日の出来事を報告中。
二人で過ごす扉の向こうからは廊下を行き交う寮生達の足音や声が聞こえる。
聞こえる声は、どれも先日までと比べ軽やかで楽しげで。
入学式と言う最初のイベントを終え、やっと学園と寮の生活を楽しむゆとりが生まれたのかもしれない。
そんな私もお姉さまとの時間を楽しんでいる最中。
…とは言ってもつい先ほどまで、コロネやルキア達が入れ替わり立ち替わり遊びに来ていた。
と言うのも、ニースさんの取材でお姉さまに興味を持った子も居たみたいで。
お姉さまのルームメイトであるところの私が同級生なのを幸いとばかりに、お姉さまのお顔を見に来たようです。
お姉さまとなかなか二人きりになれず、せわしない時間ではあったけれど
顔見知りの友人が増えたのは素敵で嬉しい事かもしれない。
近いうち、私の方からも彼女達の部屋に行ってみよう。
一方で、やはりと言うか大勢尋ね来る子達の中にライラの姿は無かった。
いずれ気兼ね無く話せるようになるといいのだけど……
その為にも、なんとか彼女と話す機会をみつけないと。今後の課題かな?
そんな訳で、皆が部屋に戻り二人きりになれたのはつい先ほど。
就寝時刻は間も無くだけど、後少しだけこの一時を楽しみたい。
でも、髪に櫛が通る度に疲労や緊張が流れ落ちて行くようで、そのまま眠りに落ちてしまいそう。
うとうとしかける私に、お姉さまは寝てしまってもいいのよ?と微笑むけれど、私にとってお姉さまとの時間は重要!
だから眠らないように少しでも何か話さないと!幸いな事に今日は話題豊富、入学式にセルティス先生との出会い。そしてニースさんの襲来。
ニースさんの名前でふと疑問が浮かぶ。
「お姉さまって有名人だったのですか?」
友人達の来訪や取材を受ける切欠にもなった事を改めて聞いてみる。
「さぁ?どうなのかしら」
しかし返ってきたのは微妙な答えと反応。
姿見に映るお姉さは小さく首を傾げ、わからないと言った表情を浮かべるばかり
自分の事なのに他人事の反応。お姉さまらしいと言えばお姉さまらしい。
お姉さまは昔から私以外の他人に対し興味の薄い人だったし、仕方が無い。
でもそれが、他者から見ると神秘的に見えるらしい。先程もそんな感じだった。
「確かにニース先輩からは何度か取材を受けた事があったわ。
…私の事を知って何が楽しいのかわからないけれど……」
鏡の中のお姉さまはそう告げて、今度は逆方向に首を傾げた。
お姉さまは無関心だけど、何度も取材を受けていると言う事はやはり学園内で広く名が知られていると言う事なのかも?
でもニース『先輩』って。そうかニースさんはお姉さまより先輩だったんだ。
そうなると、お姉さまは上級生にも注目されていると言う事?
あ、だんだんと不安が胸の奥から湧き出してきたかも……
それは取材を終え、事実を知った事で沸き上がった不安。
お姉さまが手の届かぬ所へと行ってしまうかもしれない不安。
「シルファ大丈夫?顔が青いわよ?」
「はい?し、シルファは……」
お姉さまのお顔がすぐ目の前に。鏡の中で無く生のお姉さまのお顔。
紅玉の瞳が私をじっと見つめている。うかつ、顔に出ていたみたい。
全て私の思い込みかもしれない事はわかっている……
それでも一度もたげてしまった不安は引込んでくれない。
「…大丈夫よ……」
うつむく私の頭を声と温かくて柔らかい物が包み込んだ。
お姉さまの胸だ。私を包み込む様に抱き締めてくれている。
重く暗くなった心に陽光が差し込む。ほかほかと私を温めてくれる日差し。
お姉さまの鼓動が聞こえる。眠れない夜、いつも聞いていた鼓動。
「私はいつだってシルファの側にいる……」
「お姉さま……」
宣言にも似たお姉さまの言葉。
それだけで私は安心してしまうのにさらに髪に指が触れる。
髪の間を細い指が通り抜けて行く、何度も何度も。
お姉さまが私の頭を撫でてくれている
指で髪を梳く様に、それが心地良くもくすぐったい。
「離れて居た時間はあったけれど、私の心はずっとシルファと一緒よ……」
「あ…は、はい!シルファの心もお姉さまとずっとお姉さまと一緒です!」
お姉さまの言葉を聞くと同時に、私は胸の間から顔を上げ言葉を重ね合わせた。
何を悩んでいたのだろう、どんな事があっても私はお姉さまと共にある。
お姉さまが皆の前で言い放った事を嘘にしてはいけない。
「ん、その気持ちがあれば何も怖い物は無いわね?」
「はい、お姉さま…セレーネお姉さま」
怖くない、だからお姉さまの言葉そして自分の気持ちにこくりと頷いた。
「だから……」
「…あ」
そして顔を上げる私の唇にお姉さまの唇が触れた。
お姉さま、この流れでいきなりすぎます。
不意打ちの効果は覿面。熱は唇から顔、そして全身へ一気に駆け抜けて行く。
先までの暗く重い気持ちはその熱で蒸発し消え失せてしまう。
後に残るのは、熱で浮かされ上気する私。
そんな私にお姉さまは微笑み、こんな言葉を繋げてくるのだからたまらない。
「入学式のお祝い、まだだったものね?シルファおめでとう」
「え?はひ!お姉さまありがとうございます」
ああ、せっかくの祝福の言葉なのに噛んでしまった。でも仕方ないよね?
不意打ちからのこの流れ、気持ちの切り替えが上手くいく訳が無い。
それでもやはり、恥ずかしい物は恥ずかしい。
お姉さまは私の顔を見ながらクスクスと笑っているし。
もしかして、私また遊ばれていますか?
「入学式の間ずっと、シルファにおめでとうを言いたかったから。ほら、シルファ緊張して不安な様子だったし……」
「え、あんな距離から私を?」
嬉しいけれど、お姉さまは大勢の新入生の中から私の姿を見つけていた?
私は観覧席にお姉さまの姿を捜そうとしたけれど、私達の席からでは人の姿は豆粒ほどにしか見えなかった。それはお姉さまの席からも同じはず。
条件は一緒、それでもお姉さまは私の姿を見つけていた。
これはつまり、シルファの想いが足りなかったのでしょうか?
思い出し溜息する私にお姉さまはさらりと告げる。
「『位置確認』と『遠見』の魔法の合わせ技よ。皆、可愛い子をチェックしていたみたいだけど…私はシルファにしか興味無いし…?」
なるほど、複数の魔法を組み合わせて使用する事で私を。
納得しつつ、今さりげなく聞いてはいけない事実を知ってしまった気が。
上級生の先輩方、観覧席でそんな事を考えていらしたのですか?お姉さまは例外。
「そっか、魔法の合わせ技」
「シルファならすぐに出来る様になるわ……」
お姉さまはそう言って微笑むと私の髪の一房を指で掬い絡める。
くすぐったくも心地良い。
こうされているだけで幸福を感じてしまう私は、単純なのかもしれない。
うん、単純でもいい。
こんなにも満たされた時間、幸福を感じない方が勿体ない。
トントン
扉を叩くノックの音。
驚きに身がビクンと跳ね変な声が出そうになってしまう。
私は真っ赤になりながら口を押さえ、お姉さまも背筋を正し身繕いしてる。
見られていた訳ではないけれど、なんだか気まずい。
そんな私達におかまいなしに、続けて声が聞こえてきた。
「お嬢様の皆様、おやすみの時間です」
「居ますか?居るならお返事をお願いします」
家事妖精のアインとバウだ。気付けば就寝時刻をかなり過ぎている。
この時間をもっと楽しみたいけど、部屋の灯りを落とし眠らなければ……
「アイン、バウお疲れ様、私達は居るわ」
「お、同じく居ます」
私達が返事をすると、間を空けてアインとバウからおやすみなさいませの声が聞こえてくる。
間を空けるのがなんだか意味深、私の考えすぎかもしれないけれど。
「…続きはこっちで…ね?」
「はい、お姉さま♪」
仕方が無いわねと肩を竦めると、お姉さまは布団を開きながら私に手招きする。
今夜もお姉さまと一緒におやすみ。
でも、先程までの眠気は嘘の様に消え去っている。
お姉さまが私を喜ばせようとするから。
だからお姉さま、責任とってくださいね?
「シルファ…にこにこしてどうしたの…?」
「なんでもありません♪」
今日の夜はいつもより少しだけ長くなりそう、そんな予感。
あ、でも寝坊だけはしない様にしよう。明日から授業だもんね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




