第12話 始まる学園生活-6
突然の乱入者の登場に皆が動きを止め固まった。
ライラも妙なポーズのまま固まっているし。
でも…ライラさん、そのポーズは解いた方が良いと思いますよ?
ああ、ルキアはそんな目で見ないで、私だって状況がわからないから。
わかるのは、この乱入者の少女と出会うのは初めてと言う事だけ。
背は私より少し高いかな?それでライラよりはやや小さい?
サイドテールで左に纏めた髪は明るいブラウン。
私達、いや私をかな?注視する瞳は髪よりも濃い大地の色。
そんな少女が不敵な笑みを浮かべながら、私をじっと見ている。
横目でコロネ達に聞いても首を振るばかりだし。本当に彼女は誰なのだろう?
このままと言うのも落ちかないし、とりあえず名前を聞いてみよう。
それに彼女、何かうずうずしてるし。
「えっと、それで貴女は誰さんですか?」
恐る恐るに問い尋ねてみる。それを切欠に皆も硬直から回復した。
ライラもやっとポーズを解いたけど、今度は言葉が行き場を失い戸惑っている。
あう、ライラの話は後でちゃんと聞くからね?
「うん?落ちついたかな?落ちついたね!だからこその質問!
知りたくなるのは当然の事!私も貴女の事を知りたいし貴女も私の事を知りたい!
だから教えちゃうし、聞きもしちゃう!いいね?了解かな?了解だね!
私の名はニース・ワラバン!ルミナス魔法学園新聞部の部長だよ!
覚えたかな?覚えたね!」
キツツキの嘴よりも速いトークに思わず圧倒されてしまう。
それでも彼女の名がニースである事、そして……
「新聞…部…?」
新聞部の部長である事はわかった。
「ん?新聞知らない?まだまだ新しい文化だものね!説明する?説明ほしいよね!」
「いいえ大丈夫です!新聞の事は多少知ってます……」
「それは残念!」
それと賑やかな人である事も。
ここで知らないと言ったら、またニースさんのキツツキトークが始まりそう。
でも、言った通りに新聞の事は知っている。日々の事件や情報を集め纏め印刷し配布する物。
…とは言っても、私の故郷は辺境近くのど田舎一歩手前、そんな所に新聞なんて大層な物は無い!
一応は隣街から数日遅れで役場の方へ届いていたみたいだけど。
でも住民達にとって身近なのは、新聞よりも街中の掲示板情報や噂話。
「新聞はこれから大躍進する文化!
多くの民衆に細かく正確に伝えるに新聞ほど素晴らしい文化は無いと私は思う。
だから部として活動しつつ将来に備えるの!そんな訳で新聞部をよろしく!」
「は、はぁ…それでその新聞部の部長さんが私になんの用でしょうか…?」
ニースさんが新聞に情熱を傾けている事はわかった、でもなぜ私の元へ?
なんとなく理由はわかっているけれど、一応聞いてみたり。
「だから、シルファさんについて聞きたいの!
まずは黒の姫、あっセレーネさんね?二人の関係についてかな?
学園内で今一番熱い話題、その渦中の人に突撃取材って訳!
以上で説明はわかったかな?わかったね!ではどうぞ!」
一気に言うと、ニースさんは私の口元に棒の様な物を差し出した。
なにこれ?食べ物では無い様だけど。
私が首を傾げていると、ルキアが「音声記録用の魔導器よ」と教えてくれた。
なるほどメモを取る代わりにこれで記録すると言う事なんだ。便利だなぁ。
そうじゃない!今、何かとんでもない事を言われた気がする。
「あの、その…熱い話題って私が?なぜ?」
「もうわかってる癖に!あれれ?もしかしてわかってなかった?
わからないって顔してるね?そっかそっか、じゃあもう少し補足!
二日前、校舎前で黒の姫つまりセレーネと抱き合っていたでしょ?
それ絡みで学園内であれやこれやの噂が飛び交っている訳」
「あれやこれやって……」
確かにあの日、お姉さまと抱きあったけれど。それがなぜ学園の話題に?
わからない事が多すぎる。
頭の中で疑問が乱舞している、とりあえずいくつかの疑問を解決しないと。
「あの…そもそも黒の姫ってなんです?」
お姉さまと再会したあの日、お姉さまは生徒達から様々な呼び方をされていた。
『黒の姫』『漆黒の君』どれも私の知らないお姉さまの呼び方。
ニースさんが私に取材をする事にも、そしてライラの件にも関係がありそう。
「ん?セレーネから聞いてない?聞いてないって顔してるね?
人によっては恥ずかしい風習だし、それもあるか。
そうだね、有名だったり優れた魔法使いにつく特別な名前?
私達は字名って呼んでいるけれど、簡単に言うとあだ名の素敵版?
あれよあれ!崇拝する対象が欲しい訳!皆刺激に餓えてるし。
憧れるべき存在?わかる?わかった?もう少し説明いる?」
「い、今ので大体理解しました…多分」
つまり、お姉さまはこの学園の生徒達にとって憧れの存在。
お姉さま素敵です!やはりお姉さまはどこにあっても輝く存在なのですね。
と、心の中で賛美する私だけど、事実を知るにつけ状況を理解し始めた。
これってつまり、お姉さまと私の関係の危機的状況?
「シルファって学園の有名人さんと姉妹だったの?」
そんな私へ問いかける声、コロネだ。今の説明でお姉さまに興味を持ったようだ。
「え?あー…姉妹と言えば姉妹だけど、少し違うかな?」
「違うの?」
そうとも言えるし、そうでないとも言える。
でも、ニースさんからの質問と合わせどこまで話して良いのか……
だからもう少しニースさんに聞かないと。
「ニースさんもう一ついいですか?あの…お姉さまはどこまでお話していますか?」
「何々?今度はそう来たか、まあ二人だけの秘密もあるか。
生まれた場所と大体の生い立ち、それと趣味や日々の過ごし方かな?
ありきたりだけど、みんなそう言うのを知りたいからね。
でも、シルファさんと言う『特別』な存在については初耳ね!」
ニースさんはそう言うと私の事を鋭く指差さした。
思わず引いてしまったけれど、『特別』と言う言葉を強調するあたり私については本当に初耳の様だ。
やはりここで話さないとニースさんは引いてくれないだろうな。
それに気付けばいつの間にか、私に注目する視線も増えているし。
「では……」
暫し悩んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「えーと、私とお姉さまは特別と言うか一緒に居るのが当たり前?私がここに居てお姉さまがそこに居る……、物心ついた時からずっと一緒…そんな関係です」
言い終えるとニースさんの顔をじっと見、それから少し間を空けて息を吐いた。
ふぅ、妙に緊張した、一生分の体力を使いきった気分です。
そんな私にニースさんは何を感じたのか胸の前でぐっと拳を握りしめた。
「いいね!その意味深な言い方、凄くいい!もっとつっこんで行こうかと思っていたけれど。これは読者の心をくすぐるかもしれない!」
何か妙に興奮していますよ?最初から興奮気味ではあったけれど。
でも、あえて曖昧な言い方にしたのが良かったのかもしれない。
とりあえず、今ので満足してもらえたのかな?そうであってほしい。
「うん!今日はそれでいいよ。それに、そろそろ貴女を解放した方がよさそうだし」
「え?」
「いいお友達がいるねって事、これは今後が楽しみかもね?…ふふっ。
あ、そうそうこれどうぞ、またね♪」
何?と聞くよりも先にニースさんは紙切れを押し付け去って行った。
呆気にとられすぎて、もはや見送るしか出来ない。
嵐の様な人だった、話に割りこまれたのに怒る余裕もなかったし。
そう、皆との話の途中だったんだよね、待たせてしまった事を皆に謝らないと。
ライラの件もだ。一応ニースさんに話したけれど、ライラの事とは別だよね。
本日二度目の覚悟を決めると、ライラの方へと視線を向けた。
よかった、まだそこに居る。でも口に手を当て考え込んでいるみたいだけど、話しかけても大丈夫だよね?
大丈夫そうだ、私の視線に気付き顔を上げてくれた。
「あの…ライラさん、待たせてごめんね?さっきの話だけど」
「…今ので聞きたい事はわかったからいいですわ」
「え?…うん……」
ライラはそう告げるとくるりと踵を返し、そのまま教室を出て行ってしまった。
納得を得た表情はしていたけれど、今度は私の方がすっきりしない。
ニースさんに話した事にはぼやかした部分が多い。
でも、ライラとは包み隠さずの話がしたい。
そうするべきと心が告げるけれど、彼女との関係改善にはまだまだ時間がかかりそうだ。
「初日から大変ね、学園内巡りはまた明日にする?」
「さっきの紙切れ何?秘密のメモ?」
話しかけるタイミングを待っていたのか、ルキアそしてコロネが順に話しかけてきました。
クロワは…寝ていますね?待ちくたびれてしまったみたいです。
「うん、今日はなんだか疲れたし…ごめんね?さっきのは…これ食券?」
「いいのよ。あ、それ学園内食堂の券みたいね?」
皆に謝りつつ、ニースさんが押し付けてきた紙切れを開いてみました。
学園内食堂の食券です。
十枚綴りになっていて、券一枚で好きな飲み物一杯と交換出来るみたい。
取材受けた事へ謝礼なのかな?そうなると、これは今使うべきかもしれません。
「代わりにこれで何か飲もうか?」
「いいねー、ついでに学食の場所も覚えよう」
「ふぁ~?…みんなどこか行くの?私も行く~!」
提案にまずコロネが賛成し、楽しげな声に気付いたのかクロワが目を覚ました。
「学園内食堂の場所は…何箇所かあるみたいだけど、近い所でいいわね」
ルキアが生徒手帳で学園内食堂の場所を調べているのだけど
宙に半透明の地図が浮き上がっています。生徒手帳ってそんな機能もあるんだ。
今日はこのまま皆と友情を深めよう、きっと楽しい時間を過ごせるはず。
当初の予定とは変わってしまったけれど、これはこれであり
そんな気がしました……
ここまで読んでいただきありがとうなのです。




