第8話 まだ事件は終わっていないのですわ
応接間に関係者が集められました。
皆、連日の寝不足で辛そうですが、キーラが逮捕されたとなれば、集まらざるを得ません。彼女は手錠を掛けられたまま座らされ、晒し者のようになっていました。
ミアは、いつもと変わらぬ明るい笑顔のままで話し始めます。
「皆さん。色々とご心配があったかもしれませんが、おかげさまで真相が明らかになりました。今回のバンシー騒動、そしてイェイツさんの死を引き起こしたのは、このメイドのキーラさんです」
「そんな……キーラが、一体なぜ?」
誰もが信じられないと顔を見合わせる中で、最もショックを受けたご様子のターグ氏が口を挟みました。
フィン様が、蒼氷色の眼を走らせます。
「キーラさんは、最近この屋敷で働き始めたようだけど。僕はここに来るまでに、関係者の身上記録を確認して来たんだ。彼女の故郷では、イェイツ氏の土地取引によって生活が破綻した者達がいた。そこで起きたトラブルを、雇用関係にあったご両親が被せられてしまったんだ」
「いや、しかし! キーラはこんなことをするような娘ではないっ!」
「ふふ、ターグ氏はご存じだったのでは? あなたはイェイツ氏が起こしたことのせめてもの償いに、素性を知りながら彼女を雇用した。いや、それとも……まさか、あなたがやらせたのかな?」
フィン様の容赦ない追及に、キーラは顔を歪めて泣き始めました。手錠が、細い手首に痛々しく食い込んでいます。
「ううっ、違います、ターグさんは関係ありません。……私が勝手にやったことです」
「自供してくれてありがとう。君のご両親はその後仕事にも恵まれず、不幸な最期を遂げられたようだね。そのことをずっと恨んでいた、そうだね?」
ソラスティエ家は司法を担当する家柄。フィン様はご自身の伝手を使い、最近、屋敷に来た人物に焦点を当てて、情報を洗っていったのでしょう。
隣に立つ警察士が押収した包みから、証拠品を見せます。
品質の良くない黒髪のカツラ、汚れた灰色のローブ。メイク道具も一式。そこからフィン様は手袋をはめた手で、一本の笛を取り出しました。
「これは恐らく『死者の笛』だね。とある民族が、儀式や戦いで使用したらしい楽器だが、かなり特徴的な音がする。吹いてみても?」
許可を求められた警部は、不承不承ながらも頷きました。フィン様が笛を吹くと、異様な音が響き渡ります。
「ぎやあ"あ"ぁぁぁぁぁっっ!!」
それはあの晩、わたくしたちが聞いた魂を引き裂かれるような叫びと全く同じもの。
居合わせた全員が、身をすくませました。シボーン夫人から「こんな音の笛があり得るの?」との驚きの声を上げ、キーラはもはや耐えられないと顔を不自由な手で覆います。
そこでミアが、引き継ぎました。
「わたしね、考えたんだー。バンシーの目撃証言、嘘みたいにたくさんあったけど、フツーの妖精がこんなに目撃されることなんてありえないって。そしたらね、やけに鮮明な証言しをてる人がいたから、変だなって」
まさにその通りでした。『真っ赤な瞳』はバンシーの特徴ではありますが、よほど顔をはっきり見た場合にしかありえない証言。ましてや、キーラはバンシーの一番最初の目撃者でもあり、最後の目撃者でもある。
「そう考えたら、自室で脅えてたキーラさんがすっごく怪しかったんだよね。だって事件の夜、食堂にいなかった人だもん。……誰にも見られてなかった人、だよね?」
「とても大胆な手だよね。いつもは深夜に工作するのに、ディナーの時間に犯行を行うことで『訪れた専門家』たちに捕まるリスクを減らしたのだから」
壁に背を預けたネロが「何を偉そうに言ってんだか」と、冷やかに毒づきました。
バンシーの正体に気付いたのは、おそらく彼の方が早かったでしょう。キーラを聴取した時点で、うすうす察していたようですから。
ですが、獲物を取られたはずのネロは平然とふてぶてしく見守るだけです。
フィン様はそのまま締めくくろうとします。
「元々、イェイツ氏には心臓の持病があった。そこに1か月以上もの間、度重なるストレスを掛けられ悪化。トドメに屋敷内部で、不意打ち気味に鳴らされた絶叫音が引き金となり発作が起きた。これが真相というわけだよ」
「妖精姫候補として、きちんと犯人は捕まえたわ。キーラさんには気の毒だけど、したことについては償わなくっちゃね」
鮮やかな推理披露に一同は思わず感嘆の声を漏らし、甥のブライアン氏は罵倒を口走ります。
「実に恐ろしい女だ、然るべき罰を受けるのだな」
キーラが「まさか死んでしまうなんて思っていなかったんです」と泣きじゃくると、使用人ターグ氏も、両膝をつき後悔を露わに涙を流しました。
――ですが、ここで終わらせるわけにはいきません。
「お待ちなさい。まだ事件は終わっておりませんわ」
「なんだって?」
注目がわたくしに集まります。もちろん、あの忌々しいミアの翡翠の瞳も。
しかし、すかさずネロがわたくしのすぐ隣に立ちました。本当にデリカシーのない殿方。まるでそこが定位置みたいに振舞うのですね。わたくしの頬は緩み、会心の笑みを形作ります。
「朝の9時までお時間をくださるかしら。この事件に隠された真実をわたくしが暴いてみせますわ」
「エリーちゃん、何を言っているの? もう犯人はわかったじゃない」
「ええ、キーラさんが騒動のきっかけを作り、死の引き金を引いてしまったのは事実でしょう。ですが、それではまだ説明のつかないことがございます」
ミアは、信じられないといった表情で問いかけました。わずかな苛立ちの色。
「負けず嫌いだからって、邪魔をしたらダメだよ。エリーちゃん」
「あ~ら、そのお言葉。そっくりお返しいたしますわ! 横から掠め取ったおつもりでしょうが、詰めが甘いですわね」
わたくしの態度に、フィン様は「ほほう」と興味深そうに口の端を吊り上げました。
警察士たちが動揺する中、警部は自身の髭を撫でながら唸ります。
「ううむ、お嬢様。お気持ちは分かりますが、キーラさんの自供と物的証拠も揃っています。これ以上、捜査を長引かせるのは……」
「承知しておりますわ。ですから、あと数時間だけ。朝9時までお時間をいただきたいのです。今世紀最高の妖精姫候補、このエリーがすべてを明らかにしてみせますわっ!」
毅然とわたくしは言い切り、かくして時間制限付きの誇りを賭けた戦いが始まったのです。
~デスホイッスルについて~
これはあなた方の世界、つまり、地球史でも実際にあったものですわ。
アステカで出土され、儀式に使われたのではないか、と言われておりますわね
(まあ、賢明なる読者諸君はご存じでしょうけれど)
実際、女性の悲鳴。それも、大絶叫に近い音が出ますわね。こんなもの、どんな儀式に使ってたのかしら? でも、生贄文化があるところでは、何か大事な意味があったのかもしれませんわね?




