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【第二話】「ようこそ、社畜戦闘員研修センターへ」

定時退社は幻想、終電帰宅が日常

そんな社畜人生を送っていたシステムエンジニア・鴇田拓海。 ある深夜、突如として世界に現れた“異形災害体”により、街が壊滅。逃げ場のない絶望の中、極限の過労によって拓海は異能を発現する

その力は、過重労働の果てに覚醒する業務異能。 政府によって社畜戦闘員に認定された彼は、国家直轄の特異部隊「特別過重労働対策班」の一員としてスカウトされる。 ブラックな日常が、今度は世界規模で始まる!


これは、働かされるだけだった俺たちが、今度は世界にほうれんそう【報告・連携・相談】する物語である。

それは、政府機関の名を借りた、もうひとつのブラック企業だった。


 異形種との戦闘から数日。  病院での検査と事情聴取を終えた俺──鴇田拓海は、都内某所にある“特災課本部庁舎”に連れてこられた。


 そこには、軍人のようなスーツ姿の男女が何十人も行き交い、エレベーターでは各階ごとに「労働管理課」「精神崩壊後支援班」「定時遵守指導局」といった、聞き慣れない部署が並んでいた。


「ここが……社畜戦闘員の世界……」


 俺は一枚のIDカードを渡される。  【社畜戦闘員仮登録証──階級:E】


 Eランク──末端中の末端。

俺の社畜戦闘員としてのキャリアは、また下積みから始まるようだ。


「新入り、こっちだ!」


 声をかけてきたのは、赤縁メガネのショートカット女性。階級バッジは“C”。俺よりは格上らしい。


「私は草壁ひかり。社畜戦闘員研修センターの教育主任よ。今日から三日間、あんたには地獄を味わってもらうから」


「……え、いや、あの、いきなり?」


「黙れ新人! これは命令よ!」


 研修センターのドアが開くと同時に、怒号と警報が飛び交う空間が広がった。


『集合時刻三秒オーバー! E-27番、腕立て千回追加!』 『報告・連絡・相談の“連絡”が抜けていた! 社会人の風上にも置けん!』 『床に反射する上司の影に無礼な視線を送った疑いで、反省文百枚!』


「地獄だぁ……」


 ──ようこそ、社畜戦闘員研修センターへ。


 研修は、まさに“超過勤務訓練”とでも呼ぶべき過酷さだった。


 初日は座学。異形種の発生原理、災害レベルの定義、戦闘プロトコルと労務規定。睡眠時間は三時間、食事は栄養補助ジェル一袋。


 二日目、身体訓練と異能発現実習。  俺はまだ異能を完全に制御できていない。発動条件は“過労”──意図的に再現できるかは未知数だ。


「お前、異能を出せ! まだ出ないのか!?」 「昨日から寝てないんですけど!?」 「寝てないくらいで出るなら、みんな異能者だよ!」


 気づけば、周囲の同期たちが倒れ始めていた。


「E-13番、過労で意識喪失!」 「救護班、搬送急げ!」


 最終日、模擬戦闘。


 俺たち新人社畜戦闘員は、実戦さながらのシミュレーション訓練へ放り込まれた。対峙するのは、制御された異形体と上級戦闘員たち。


「お前らの任務は、“報連相”を徹底しながら戦闘を遂行することだ! 誤報は減給! 連絡漏れは降格! 報告遅延は即除隊だッ!」


まるで、戦場が会議室だった。


 俺はひたすら叫ぶ。 「後方に一体! 課長代理クラスの異形体確認! 対応希望します!」 「報告、了承。E-11、迂回して側面援護しろ!」


その時、俺の胸が再び熱くなった。


(また来る……!)


 脳裏に、あの深夜の怒号と照明のチラつきが蘇る。


 ──業務、再開。


 俺の異能が再び解放された。  “マルチタスク処理オーバーワーク・エンジン”──頭の中に複数の思考が走り、同時に戦闘と分析と指示が可能になる。


異能による指揮で、チームは見事に模擬戦を勝ち抜いた。


「……お前、やるじゃない」


 草壁主任がわずかに口元を緩める。


「今の発動、偶然じゃない。お前の中に、“戦う理由”ができたからだ」


 戦う理由──俺は、自分と同じような犠牲者を増やさないために戦いたいと思った。


「鴇田拓海、研修課程──合格だ。正式に、社畜戦闘員・Eランクに任命する」


そうして俺が初めて配属されたのは、戦闘員の中でも最低階層とされる“第二対処班”。


出迎えたのは、頭にタオルを巻いた小柄な青年。 「おう、あんたが新入り? 第二対処班、班長の弓削だ。気楽にいこうや。ウチは“最弱戦闘班”って陰で言われてるけど、まあ、それなりにやれてるよ」


「……よ、よろしくお願いします」


班のメンバーは五人。それぞれ階級はD〜Eと低く、クセの強い奴ばかりだった。


班長の弓削以外にも── ・筋トレ中毒で言葉が通じない男、丹波(E)・いつもお菓子を食べている無気力系少女、久慈(E)・元銀行員でやたらマニュアルにこだわる神経質男、斉田(D)・一見普通の好青年だが、時折目が笑ってない、謎多き男、壬生(D)


「ま、今日のところは歓迎会だ。……と言っても、会議室でカップ麺な」


そこは、静かで、なんだか少しだけ、職場というより仲間という空気があった。


けれど、この“第二対処班”が、数週間後に国家存亡の最前線に立たされることを、この時の俺はまだ知らなかった…。


【第二話・完】


訓練を終えた拓海が配属されたのは、最下層戦闘部隊“第二対処班”。 だが、彼らの初任務は、災害レベル“課長級”の異形体への対処だった!?

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