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【第一話】「お疲れ様でした、世界が終わります。」

定時退社は幻想、終電帰宅が日常

そんな社畜人生を送っていたシステムエンジニア・鴇田拓海。 ある深夜、突如として世界に現れた“異形災害体”により、街が壊滅。逃げ場のない絶望の中、極限の過労によって拓海は異能を発現する

その力は、過重労働の果てに覚醒する業務異能。 政府によって社畜戦闘員に認定された彼は、国家直轄の特異部隊「特別過重労働対策班」の一員としてスカウトされる。 ブラックな日常が、今度は世界規模で始まる!


これは、働かされるだけだった俺たちが、今度は世界にほうれんそう【報告・連携・相談】する物語である。


──定時退社?有給休暇? なにそれ、都市伝説?


終電が当たり前の現実に、今日も俺は殺されそうになっていた。


深夜0時すぎ。 ビル街の一角にある雑居ビル、その7階──クラウン・ソフトウェア株式会社。地方の中小企業とは名ばかりの、従業員20人ほどのITブラック企業。


俺、鴇田ときた 拓海たくみ、28歳。入社6年目の中堅社員。職種はSE──システムエンジニア。だが、やってることは炎上プロジェクトの火消し要員。


この日も、プロジェクトの進捗は絶望的。スケジュールはすでに2週間遅れ。にも関わらず、クライアントからの仕様変更が当たり前のように飛んでくる。


「鴇田くん、また仕様変わったから、徹夜で直しておいて」 上司の田所課長が無慈悲に言い放つ。


「は? 納期明日なんですが……」 俺が食い下がっても、


「え? だから 今日中 って意味だよ?」 と、田所課長は笑った。


「じゃ、よろしく! 俺、先に帰るから! 明日の朝イチ、取引先への提出頼むねー」


ああ、帰っていく。普通の時間に。普通の顔で。 上司が帰った瞬間、オフィスの空気は数度下がった。


「また徹夜か……」 「このまま朝までバグ出なけりゃいいけど」 「出るよ、絶対」 と、同僚たちのため息交じりの声が響く。


俺は無言でPCに向かう。タスクが山積みのタスク管理ツールには、終わらない仕事が20件以上。 マウスを握る手に、ピリッとした痛み。腱鞘炎の初期症状。 目の奥が痛む。食事はコンビニのおにぎりと栄養ドリンクのみ。


……ああ、もう慣れた。


■  ■  ■


この仕事に就いたきっかけは、「安定してそう」という親の言葉だった。理系の大学を出て、なんとなくIT企業に就職して。最初はやる気もあった。


だが、現実は甘くなかった。納期に追われ、休日出勤は当たり前。三年目の時には、同期が全滅していた。唯一の同期だった山田も、ある朝メール一本残していなくなった。


『すまん、限界だった』


そのメールが届いたとき、俺はすぐに会社に報告したが、上司は言った。


「彼、辞めるならもっと早く言ってくれないと困るんだよねー。で、鴇田くん、その分のタスク頼める?」


そうして、俺の仕事は倍になった。


……今さら、驚かない。


■  ■  ■


午前2時37分。 社内チャットに、謎のメッセージが表示された。


【選定完了。対象者、鴇田 拓海──適性、極限労働値クリア。異能発現準備中】


「……は?」


その瞬間、室内の照明がすべて落ち、モニターに異常な文字列が走る。


【世界の終焉、起動】


次の瞬間、ビルが震えた。まるで爆弾でも落ちたかのような衝撃。机が揺れ、コーヒーが倒れ、非常灯が点灯する。


「な、何が起きた!?」 同僚が叫ぶ。


外を見た同僚が、さらに声を上げた。 「おいっ! 外、やばい!!」


俺も窓に駆け寄る。 すると──空が、割れていた。


真っ黒な亀裂が夜空を引き裂き、そこから 何か が降りてくる。人間の形をしているが、皮膚はなく、目が複数ある。


「──化け物?」


その 何か は、ビルを踏み潰し、叫び声を上げる。 電線が焼き切れ、街が炎に包まれ始めた。


非常階段から逃げ出す社員たち。俺も、思わず走り出した。


階段を駆け下り、外に出た瞬間、衝撃波が襲ってきた。


「ぐっ──!!」


吹き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられる。 骨がきしみ、肺が潰れそうになる。


だがその時、


【異能、発現──条件:過労・極限状態・職場ストレス100%超過】


脳内に、声が響いた。


【スキル開放──ブラックスキル《業務超越》】


次の瞬間、身体が燃えるように熱くなった。 立ち上がると、手足が軽い。視界が明瞭になり、音がスローモーションのように聞こえる。


気づくと、右手に武器が握られていた。 ──ホチキス。


いや、違う。これは、巨大化した“事務用ホチキス”。


異形の怪物がこちらに向かってくる。だが俺の身体は、勝手に動いた。


「ブラックスキル発動──《三百連打・報告連携相談》ッ!!」


ホチキスから放たれる弾丸のようなステープルが、怪物の皮膚を貫く。


「ふざけんなよ……オレたちが……どれだけ、働かされてきたと思ってんだ!!」


ホチキスの一撃で、怪物の頭部が吹き飛んだ。


ぐらり、と巨体が揺れて崩れ落ちる。


炎の中で立ち尽くす俺。 生き残った人間たちが俺を見ていた。


「今の、アイツが……?」 誰かが、ぽつりとつぶやいた。


その時だった。


「そこのあなた、異能者ですね?」


スーツ姿の女が近づいてくる。 首元には政府の紋章──内閣直轄・特異災害対策室の文字。


「……あの、あなたは?」 俺が尋ねると、彼女は名刺を差し出してきた。


「私、特異災害対策室所属の柏木と申します」


彼女は、俺に小さなバッジを差し出した。 黒地に白く刻まれた一言。


──社畜戦闘員認定


「これ、なんですか……?」 と俺が聞くと、柏木は即答した。


「あなたは、社畜として極限まで働いた。その結果、精神と肉体の限界を突破し、業務異能を得た存在です。いわば、特異戦闘職種──国家公認の“戦う労働者”です」


「戦う……労働者?」


柏木はうなずき、続けた。


「この国では今、突如現れた“異形災害体”への対抗策として、社畜適正者による部隊を立ち上げています。名を特別過重労働対策班。その選抜基準は一つ──過労死寸前まで働き抜いた経験です」


「それって……誇っていいのか、恥ずかしいのか……」 と俺がぼやくと、彼女は真顔で言った。


「あなたには戦っていただきます。世界のために──これまで通り、命を削って」


……つまり、俺は。 会社から、世界に転職しただけらしい。


ああ、なるほど。 もう、俺たちの働く場所はオフィスじゃない。


これからは──世界が、職場だ。


【第一話・完】


異能に目覚め、社畜戦闘員となった拓海。だが、待っていたのは政府組織内でのさらなる階級制度だった。 スーツの向こうに見える、知られざる社畜エリートたちの世界。新たな仲間、そして新たな敵…

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