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57:温羅の完全復活


「ひゃッはぁ!」


 鬼ヶ城の一部。壁に叩きつけられた鬼子を追って、温羅も突っ込む。そのまま放った拳が鬼ヶ城の崩壊をさらに三手進める。まるで破城槌でも撃ちこんでいるかのように、温羅の拳は建物を崩壊させる。それをギリギリで避けている鬼子が異常なのだ。


 入試の日にも見たアクロバティックな動きでギリギリ避けている。軽業を意識しているのか。まるでピエロが大玉に乗ってバランスを取りながらジャグリングをするような。軽やかな薄氷の上でタップダンスを踊るようなギリギリを見切っている。


 だがそれにも限界はある。温羅の肉体を継承した鬼奈は無尽蔵のフィジカルを持つが、鬼子の方は肉体そのものは人間基準だ。鍛えているから何とかやっているだけで、限界は来る。だがそれでも、時間が経つごとに温羅の攻撃は通用しなくなっていっている。温羅の側にも警戒はあるのだろう。鬼子の厭離穢土オンリーエンドはただ一撃食らっただけで戦況をひっくり返す。その鬼子が温羅の攻撃を見切ってきており、対処されればそこに拳や蹴りを撃ちこむわけにはいかないのだ。


「ッ!」


 拳をフェイントに蹴りを放つ。だがそこに鬼子の手が待ち受けていた。とっさに蹴りを止めて身体を回転。そのまま逆足の蹴り……すらも対処され。さらに回転して裏拳を放つが、それも鬼子の逆の手が待ち受けていた。


「くぅ……」


 一発でも触れたら終わり。そうと知って、拳を撃ちこむわけにはいかないのだ。


「我ながら厄介だのう。厭離穢土オンリーエンド……」


「ではどうするのよね?」


 不敵に聞く鬼子。


「だがそれは鬼子も同じだろう?」


「何が?」


「相剋関係にない呪術は互いに成立する。ダブルスタンダードという奴だ。つまり余が鬼子に拳を撃ちこめば、余も厭離穢土オンリーエンドで死ぬが、鬼子も拳を受けて死ぬ。それとも余の拳を受けて死なぬ自信があるのかや?」


 温羅を殺すために命を捧げる覚悟があるか、と温羅は鬼子に問うている。


「じゃあそうしましょう……なのよね」


 だがあっさりと鬼子は受諾した。


「何にせよ温羅を殺さねば日本の夜明けも来ませんので」


「それは確かにな」


 温羅の目指すところはつまりレコンキスタ。日本を人から取り戻す。そのために二千年後まで転生してきたのだ。


「では本当にいいのだな? 余と相打ちになっても」


「構いませんのよね」


 鬼子は手の平を構えて、温羅に対処する。温羅は右腕に膂力を込めて、その一撃で終いとばかりに構える。踏み込みは温羅の方から。例えるなら流星。空気摩擦によって自分すらも熱して消える流星そのものの速度で温羅は加速した。その超高熱を纏った全身から右腕だけを突き出す。ボクシングで言うところの右ストレート。


 誤魔化しも何もない一撃。


 その右腕に触れて厭離穢土オンリーエンドを適応させれば鬼子は死ぬが温羅も死ぬ。ソレで決着だ。そのはずだった。真っ直ぐ拳を突き出している温羅によそ見はない。その拳の一撃を受け持つ鬼子は拳を受け止めて術式を適応させるだけでいい。ダブルスタンダードで温羅の拳は鬼子を討つが、鬼子の術式で温羅も討たれる。


 それでいい……はずだった。


 温羅の拳を受けて、それを手の平に接触。厭離穢土オンリーエンドを適応させる。さすがにその拳の威力まで消せないが、温羅の拳は風化される。それで終わりのはずだった。鬼子の想定が正しければ。だがそうはならなかった。鬼子の想定外。温羅にとっては想定内。温羅の放った拳は、その肩の付け根から千切られていた。結果鬼子が受けたのは温羅の本体から千切れた腕だけ。その腕も呪いによって加速している以上、同じ呪いでしか受けられない。


「ガッ!」


 その拳の直撃を受けて、吹っ飛ばされる鬼子。鬼子の術式によって風化されたのは温羅の右腕だけ。


「げ……ぇええぇぇぇッッ」


 そのあまりの威力に吹っ飛ばされて、二度目の鬼ヶ城の壁への激突を受けて、鬼子は吐血する。温羅の右腕は消滅させたが、それでめでたしとはいかない。右腕を失ったとはいえ温羅は健在で、鬼子は今にも死にかけている。


「奥義。露決闘拳ロケットパンチ


 そのように呟く温羅は本気なのか冗談なのか。だがこれで趨勢は決まった。温羅は鬼子を殺す。だがそれでも腕を切り離して放ったためか。その重量の問題で鬼子は死んでいない。その鬼子が剣の印を結ぶ。


「梵我反転……ッ」


 鬼子の最後の呪術。梵我反転。冠された名は。


自慰円頓ジ・エンド


 鬼子のフィールフィールドが広がる。その反転領域の全てを鬼子は呪う。術式である厭離穢土オンリーエンドが空間そのものに適応される。後は温羅を滅ぼせば終わるはずだったが。


「でき……ないよ……」


 血を吐きながら鬼子は涙を流す。


 既に勝敗は決していた。鬼子の反転領域内ではいくら温羅とはいえ終わる。だが本質的に鬼子は温羅を……鬼奈を殺せない。それだけは温羅の精神を持っていてもできることではない。


「ニナを殺すなんて……出来ないよ……」


 至極明快な論理。姉は妹を殺せない。そんな人として当たり前のことを、今更気づかされる愛三。そもそも何故愛三は温羅を殺すことを鬼子に委ねてしまったのか。情が湧くことは当然じゃないか。鬼子が自己否定をしなくていいように、愛三は温羅を殺さざるを得なかったのだから。


「そうだなぁ。殺せないよなぁ。お姉ちゃんに。余は」


 その温羅……鬼奈はそこで全ての理屈を理解して一歩一歩鬼子に向かって歩いていく。まだタイマンの誓約は続いている。これを破るにはロープライスロープを抜くしかない。だがそれがどうしても愛三には出来ない。鬼子の前で鬼奈を殺せというのか。


「バイバイ。お姉ちゃん」


 その一言で終わった。温羅は鬼子の胸に拳を埋めて、肋骨を粉砕し、心臓を握る。そうして果実をもぐように鬼子の心臓を握って、それを果実のように齧った。


「お姉ちゃんの術式は余が継承する。だから安心して死んでね? お・ね・え・ちゃ・ん?」


「が……は……」


 胃から逆流する血を吐き出して、そうして鬼子は死んだ。


「ああ、清々しい気分だ!」


 そうして鬼子の術式と、鬼奈のフィジカルを併せ持つ、この世に完璧な温羅が生まれた。あらゆる触れたものを終わらせる厭離穢土オンリーエンドと、それを可能とする超人の身体能力。これによって最強となった温羅は、もはや愛三さえも問題にしない。


「さて、じゃあやるか」


 圧倒的なプレッシャーを迸らせて、温羅は愛三と頼光にそう言う。加速するだけで亜光速になり、その手の平はあらゆるものを滅する。どこの誰が温羅に敵うというのだろうか。


 その温羅に対抗できる唯一の手段。あらゆる呪いをキャンセルする妖刀……ロープライスロープ。それで温羅の首を斬るしかない。


 だが殺していいものか。


 そこが愛三には懸念だった。端的に言って、鬼子を継承している温羅を殺していいのか。そこから愛三にはわからない。だがここで調伏しないと温羅は日本を制圧するだろう。レコンキスタが実際に証明される。であれば此処で殺すしかない。本当に? それだけで?


「よう。愛三」


 ほぼ縮地も同様だ。一瞬で愛三との間合いを詰めた温羅の手の平が襲う。それをギリギリでバックステップして避ける愛三。そのまま温羅の手の平に触れられていれば終わっていた。ここからはコンセントレーションの勝負だ。如何に温羅の手の平……厭離穢土オンリーエンドを回避して温羅の首を刎ねるかの問題でしかない。


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