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56:タイマン


「温羅」


「なんだ?」


 既に天守閣の最上階は崩壊している。そのままそこにいては焼かれると思った温羅は空中を踏んでいたが。その温羅を人差し指で指して、その指を下に向ける。


「堕ちろ」


 瞬間、足場を失ったかのように温羅が落下した。愛三の邪眼による効果。反転領域を展開しなくても、愛三の視界にいれば陰陽二兎インフィニットの適応内。さらにその温羅の落下を見続けながら、愛三も天守閣から空中に躍り出る。瓦の欠片を反物質化して、その場で対消滅反応を起こす。既に落下し続ける温羅に避けるタイミングはない。


「カメハメハ」


 轟ッッッ! と光が奔り、その射線軸に高熱プラズマが直走る。


「がああああああ!」


 焼ける高熱を、だが細胞だけで受けてどうにかといったところ。


「うーん。二発受けてまだ生きているとは」


 正確には呪いによる防御作用だろう。得意とする六系統は誰もが違っているが、それでも六系統そのものの基礎は一般的な呪術師でも不可能ではない。おそらくその呪術アベレージが温羅は異様に高い。収束系の肉体強化と、回帰系の自己修復が人間のレベルを超えている。それこそ九京ジュールという核兵器にも匹敵しかねないカメハメハを二度受けて、それでも死んでいないだけでどうかしている。愛三であれば陰陽二兎インフィニットなしで受ければ骨も残らないだろう。そんなものを撃ちこむなとツッコミは入るだろうが、そこまでツッコんでなお死んでいない温羅を見れば、果たしてどんな攻撃なら死に絶えるのか。


「そもそも鬼には生死反転は通じんしなぁ」


 人間であれば邪眼で見て生を死に反転させれば終わるのだが、鬼はそもそも呪術定義的に生きていない。死体がタップダンスを踊っているようなものだ。つまり生きていないものを死に追いやることはできない。元々鬼とはキと呼んで、死者を意味する言葉だ。


「ふぅ」


 タタンと空中を蹴って加速する。それも下に。その高熱が通った後を添い遂げて、地面に落下している温羅を踏みつける。


「まだやれるか?」


「当然」


 その愛三の足を握って、立ち直すと、温羅はバンドのライブでタオルを振る観客のように愛三を振り回した。そのまま投げ飛ばすが、その手が離れた瞬間、愛三の陰陽二兎インフィニットが発動して、投げ飛ばされた運動がそのまま反転する。そして投げられた威力のままに戻ってきた愛三の飛び蹴りが温羅の胸に突き刺さった。


「ガッ!」


「ヒュッ!」


 そうして吹っ飛んだ温羅に、愛三も追いかける。ギラリと光る温羅の瞳。その拳が膂力を貯め、吹っ飛ばされている温羅を追いかけてくる無防備な愛三に拳を振るう。


「金剛破砕」


 ミシメキィと音がした。単純な拳であれば、そもそも反射できるが鬼の拳はそれだけで物質を介した呪いだ。つまり鬼霊化夷の一挙手一投足はそのまま呪いの作用と言える。であれば拳と陰陽二兎インフィニットは互いに相克し、減算し合う関係にある。


「が……ぁあ!」


 そのままクロスさせて金剛破砕を防いだ両腕が骨ごと粉砕されて、愛三も吹っ飛ぶ。その運動エネルギーそのものが呪いなので反転させるには強度がいる。どちらにせよ腕の修復は必要だ。時間反転による疑似回帰。それによって無事息災へと変じる愛三。その愛三が叩きつけられた壁を見ながら、温羅の方も態勢を整えていた。


「はぁ。正直な話。余に此処迄食らいつくとは」


「俺も同じ感想だ。たかが鬼が俺より強いとはな」


 そんな二人の嘲り合いに、介入する人間が二人。


「ご主人様!」


「鬼奈!」


 一人は愛三を呼び、一人は温羅を呼んだ。もちろん頼光と鬼子だ。


「よう。来てたのか」


 まぁ知ってはいたのだが。


「ご主人様! 大丈夫ですか? お怪我は?」


「今のところないな」


 正確には修復したのだが、それは言わなくていいだろう。


「け、かかか! かかかかかっ!」


 そして温羅は笑った。実の姉……日本鬼子がこの場にいると知って。いや、正確には分かっていた。呪いを共有した者同士は惹かれ合う。呪いとは結局術者に帰ってくるもの。であれば鬼子と鬼奈は離れることはできないはずなのだ。


「急急如律令。怠慢タイマン


 ピッと指を差して、温羅は鬼子に呪術を掛ける。千事略決アベノミクス怠慢タイマン。その言葉通りに一対一を誓約する呪詛契約。ここで温羅と鬼子が一対一で戦おうという誓約だ。


「おい? 鬼子?」


 相手の打算を十二分察して、鬼子に早まるなと声を掛けようとした愛三だが。


「受けましょう。タイマン」


 あっさりと鬼子は受諾した。


「おい!?」


 さすがにツッコまざるを得ない愛三だったが、ニコリと鬼子は笑った。


「手は出さないでください」


 既にタイマンが成立している以上、ロープライスロープでもなければ介入は出来ないが。


「頼光。持ってるか? ロープライスロープ」


「あ、はい。どうぞです」


 腰の左に差した二本の刀。その内ロープライスロープを頼光は愛三に差し出した。


「無銘の方はどうだった?」


「扱いやすいです。軽いし折れないし応えるしで」


「神珍鉄製の刀だからな。メンテフリーっていうか、ほぼ国宝級だ」


 そんなものをあっさりと頼光に託す愛三がどうかしているのだが。


「それでご主人様。温羅はどのように」


「最悪、俺が調伏する」


「……………………可能ですか?」


「知らない」


 責任感が全くない言葉だったが、実際に絶対できるとは言えないのだからしょうがない。


「いくぞ。鬼子」


「カマン。鬼奈」


 二人の顔は同一。肉体は温羅の方が鍛え上げているだろう。だが鬼子には温羅の術式がある。どちらが先に殺すかの勝負だ。最悪、鬼子は相打ちすらも狙っているだろう。


 ドンッ、と温羅が地面を蹴る音がした。それを愛三が耳にした時には、既に鬼子の間合いに迫っていた温羅が拳を振るっていた。超音速……どころか亜光速にも達する加速が、そのまま熱波となって鬼子を襲う。それを鬼子は手の平で触れて、熱波を終わらせる。


 厭離穢土オンリーエンド


 あらゆる終わりのある事象は、厭離穢土オンリーエンドの前にはその存在を維持できない。熱波とていつかは凪ぐ。その結果だけを先取りして空気の震えを沈める。


「捨ぁ!」


 その術式の威力を十分に承知して、だが温羅は止まらない。身体を捻って回転蹴り。そこに鬼子は手の平を合わせたが、蹴りがピタリと止まる。


「ッ」


 戦慄する鬼子の腰に温羅の逆足の蹴りが入っていた。


「鬼子!」


 さすがに看過できない愛三だが、介入は難しい。タイマンの誓約をした鬼子と温羅に差し出口を叩けないのだ。それでも心配くらいはする。鬼ヶ城の壁に叩きつけられた鬼子は吐血しながらも温羅を睨んでいた。闘気は萎えず、萎みもしない。


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