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55:鬼の涙


「急急如律令。野庭ノヴァ


 さすがに刀では切れないとあきらめたのか。頼光は呪術に切り替えた。


 野庭ノヴァ


 爆発を起こす呪術だ。


「急急如律令。野庭ノヴァ雷神ラージ


 通称ビッグバン。


 後天呪詛を使うと言っても実際にはセンスがいる。いくら千事略決アベノミクスが使いたい放題といっても、すべてを平等に使えるわけではない。文系は数学や物理が苦手であるし、理系は古文や社会が苦手であるように、網羅されている千事略決アベノミクスの中にも得意な呪術と不得手の呪術が存在する。その中で、頼光は威力的な呪術に覚えがあった。


 雷神野庭ラージノヴァによって強力な爆発が地上で咲き、地面がガラス化する。もはやその威力だけで近代兵器すらも恐れる威力だ。人民的な鎖国をしている日本帝国が、その個人の威力において外国の軍事技術を上回るとされる懸念がここに証明されていた。


 ある一定以上を極めた呪術師は、そこにいるだけで戦略的な価値を持つ。


「ぐ……が……」


 暴威的な熱がムーブドコフィンの装甲にダメージを与え、衝撃が内部をぼろぼろにする。


「クソがぁぁぁぁぁ!」


 まだ動くムーブドコフィンの腕がビームサーベルを振り回す。だが電速で動く頼光を捉えられない。


「急急如律令。手本テュポン


 さらにダメ押しで鬼子が暴風を吹き散らす。それこそ数トンの重さを持つムーブドコフィンが姿勢を制御できないほどの暴風が顕現する。


「さて、フィールフィールドはどこにインストールされているのか」


 それさえわかれば藤原千方を殺せるのだが。


「貴様らは……」


 ビームサーベル。ガトリング砲。ミサイル。そのどれをも通じない呪術師に、行き場のない藤原千方の怒りが襲う。


「なぜ鬼が人を殺すことを容認できない!? 人とて人を殺しているだろう!? 鳥や豚に至っては年間何万頭殺しているのだ。これほどの命をもてあそぶ生命種が地球の主人を気取って! どの面下げて鬼を否定できる!」


「知りません」


 言葉こそ丁寧だったが、頼光は藤原千方の問いに答えていなかった。あるいは答えはそもそも藤原千方が言っていた。命をもてあそぶ地球の主人を気取っているのが人間だ。つまりその主人の脅威となる生命は排斥されて然るべき。人にとって代わる生命体は、その生存戦略において人から排斥されてしまうのも致し方ないことなのだ。


「それが答えか! 人の! ゴミの! この星のガン細胞の!」


「気に入らないなら殲滅してください。鬼の威力で、人を駆逐してください。その威力に人類が屈するときが来れば、その時は我々も素直に滅びましょう」


 鬼とは人が呪いによって変質する者。であれば人が滅びれば鬼も滅びることになるのだが。カーステラーにおいて鬼霊化夷とは呪いを四つに分類したもの。そのうち人がなった呪いを呪術学では鬼と呼ぶ。


「だから今世では残念なく死んでくだされば」


 その装甲に対して、チャキッと刀を向ける。


「お前らは必ず!」


「急急如律令。葛藤カット


 刀に合わせた切断呪術。


「急急如律令。成敗セイバー


 さらに光の斬撃。


「ふう」


 ズタズタに切り裂かれたムーブドコフィンを見て、そうして残心を解く頼光。相手が機械であれば部品を損失すれば動けないのは通り。そうしてすべての攻撃機能を失ったムーブドコフィンの残骸が、鬼ヶ城に打ち捨てられる。


「さて……」


 これで藤原千方は本格的に終了。あとはわらわら出てくる鬼を駆逐するだけで。


 既に鬼ヶ城では温羅と愛三が戦っているのだろう。さっきからちょくちょく異常ともいえる現象が天守閣から放たれている。熱波を伴った暴風が城を壊し、ビームライフルにも似たエネルギー攻撃が城から撃たれて海や曇天を裂いている。


 何をどうすればそうなる……というのはツッコミとして野暮なのだろう。


「異常ですねー」


「異常なのよね」


 およそ頼光の野庭ノヴァや鬼子の手本テュポンでもあれほどの威力は発揮しえない。ではなにか、と聞かれても二人には答えること能わず。


「ギアアアアアッ!」


 悲鳴を上げて、鬼が襲い掛かる。さすがに城の中にも鬼はいて、鬼ヶ島というくらいだから小鬼から大鬼まで色とりどりだ。


「マオたちは大丈夫でしょうかね?」


「まぁ心配すぎるのも野暮なのよね」


「それはしたり」


 実際にマオを傷つけるのは温羅でも無理だろう。世界と契約しているマオの誓約呪術は、それこそ地球でも破壊しない限り、その永続性が保証されている。まぁ言ってしまえば、不滅性で言えばご主人様の愛三とて常軌を逸しているので、心配は野暮かもしれないが。それでも鬼ヶ島から助け出すために裏鬼門御三家が必死に攻め入ったという事実が、もしかしたら彼には嬉しいのかもしれず。


「甘えていますね」


 わらわら出てくる鬼を切りつつ、頼光はそう言って苦笑した。


「人。人。人。食う」


 アギトを開いて襲い掛かる鬼。その首を切って沈黙させると、その背を踏んで襲い掛かる大鬼の肺を切り抜き心臓に刃を立てる。さらにもう一撃。


「急急如律令。灰谷ファイア


 轟炎が迸り、鬼を軽快に焼く。


 その隣では鬼子の厭離穢土オンリーエンドが鬼を滅ぼしていた。


「行きます? 天守閣……」


 ドゴォオウン! ズガアァアン! バオオォオン!


 もはや怪獣大戦争でも起こっているのか疑う威力の攻撃が天守閣を侵食しており、このままでは鬼ヶ城があと五分もあれば更地になるであろう威力で平らげられていく。もちろん交戦しているのは愛三と温羅。お互いに呪術界における最強の名をほしいままにしている二人。多分だが日本だからこれで済んでいるだけで、仮に外国に解き放てば、二人とも軍隊の一個師団くらいは片手で殲滅するだろう。


 あの戦場にあえて向かうのか。


 そう問うたつもりだが、それでも鬼子は足を止めない。


「私が殺さなくてはいけないのよね」


 それが鬼子のカルマだった。双子の妹である鬼奈を殺すのは自分。そう誓って厭離穢土オンリーエンドを磨いてきた。それは鬼奈もそうだろう。いずれ日本を支配する意気込みで温羅の魄を具現してきたのだろう。今それが叶おうとしている。このままでは仮に鬼の軍隊がいなくても、藤原千方のフォローが無くても、ただ温羅が温羅であるというだけで日本は地獄に沈む。


 それほどの鬼を相手に、真っ向から挑むつもりかと頼光は聞いたのだが、


「だから私が」


 やはり鬼子の意見は変わらない。


「さいですか」


 だったら勝手にしてくれ、と頼光の側も思う。彼女が進軍しているのは鬼子のように温羅を弑するためではない。仮に愛三が温羅に勝てなければ単純な四則演算の問題で頼光も温羅に勝てない。簡単な話だ。温羅を弑出来るのは愛三だけ。間違っても吉備マルコですらない。だから愛三の愛刀……ロープライスロープを届ける。酒吞童子の首さえ切れる童子切安綱があれば愛三にとっては百人力であろうから。


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