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54:ムーブドコフィン


 頼光が鬼の軍勢をズタズタに切り裂いている最中。鬼子が厭離穢土オンリーエンドによって鬼を滅ぼしている最中。それら二人が悪寒を覚えた次の瞬間、光が奔った。


 何を、と思った二人。光が奔ったのは鬼ヵ城から。熱線のように光が奔り、それは城を裂いて、地面を裂いて、空気を裂いて収束する。レーザー兵器。あるいはビーム兵器か。それにしては砲撃のような攻撃ではなかったが。では何か、と頼光と鬼子が考えていると、ズズんと低く鈍い音がした。構造的に木造建築だろう鬼ヵ城の階下の壁をぶち抜いて、ソレは現れる。


「希望戦士ランダム……」


 真っ先につぶやいたのは頼光だった。


 希望戦士ランダム。


 それはロボットアニメの歴史において言及されないわけにはいかない傑作だ。だが白を基調としたトリコロールカラーではなく、現れたソレはどのロボットアニメとも似つかない灰色の装甲を持っている。頭部はシックに纏められツインアイカメラが付いており、オートバランサーは思ったより重心が上。だがそれが機械仕掛けであり、二足歩行をし、手にビームサーベルを握っている……という特徴だけを抽出すればアニメの中に出てくるロボットのイメージに適っている。人型巨大ロボットという意味ではアニメにおけるロマンの一種だ。


「今外国企業が開発している対カーステラー専用兵器、ムーブドコフィンですよ」


 声はロボットから聞こえた。元々音声機能はあったのだろう。どこかで聞いたようで、だがどこででも聞いたような声には頼光も鬼子も心当たりがない。だが、その慇懃無礼な口調については少しだけ心当たりがあった。


「藤原千方……?」


 声が似ているわけではない。ただ喋り方が慇懃無礼なだけ。だが鬼は近代兵器を運用することは絶対にない。中に乗っているのは間違いなく人である。と、そこまで考察して、だが藤原千方は六波羅機関で拘束されているはず。


「ああ、私です。私ですよ。猿飼部。温羅様」


 六波羅機関から抜け出して、頼光たちより先に鬼ヶ島へ侵入。そしてムーブドコフィンに搭乗して待ち受けた……というのは少しタイミング的に矛盾をはらむ。となればどういう理屈が通るだろう。そんな思案をしていた頼光に、ムーブドコフィン藤原千方はエネルギーの剣を振り下ろす。雷光頼光フタライコウによってそれを躱す頼光だが、背中に流れる冷汗は止められない。アレがエネルギー兵器である以上、刀によって鍔迫り合いを求めるのは酷だろう。そうすると避ける以外に選択肢が無くなる。それは鬼子も同じだろう。厭離穢土オンリーエンドで触れれば滅ぼせると言っても、その圧倒的超火力に、近づくだけでも一苦労だ。


 そう思っていると、全長二十メートルにも及ぼうかという巨体が鬼ヵ城から専用装備を取り出した。ムーブドコフィンの全長に適うだけのガトリング砲。頼光と鬼子の顔が引きつった。ガルルルル、と音を立てて銃身……というか砲身が回転する。打ち出される弾丸は三十二ミリの径を持つ。もはや一発でも受ければ人体など簡単に挽肉になる。


「待て待て待ちなさい! カーステラー対策の兵器じゃなかったのですか!?」


 ガトリング砲は普通に近代兵器。つまりカーステラーには通用しない、はずなのだが、ムーブドコフィンは普通に砲撃を使っている。


「だはー!」


 立て続けに放たれる砲撃に、さすがに死ぬわけにはいかない二人は逃げ惑う。藤原千方が狙ったのは頼光だ。一応牽制として鬼子にも攻撃はしているが、頼光への攻撃に比べれば若干おとなしい。というのも実際に鬼子を殺すわけにはいかないのだろう。藤原千方にとって鬼子は温羅そのものだ。本来であれば砲口を向けることさえおこがましい。だが現状鬼子が温羅と敵対しているという事実そのものが彼に警戒を走らせる。


「そもそもどうやって動かしているんです! ボクたちだって遠距離のものは動かせませんよ!」


 ガトリング砲を避けながら、その一発一発の威力に戦慄し、だが一応問うてみる。返ってきた答えは簡単だった。


「ああ、ムーブドコフィンに私のフィールフィールドを移植しましたので。今でいう肉体の本質は私にとってこのムーブドコフィンです。藤原千方の肉体をこのフィールフィールドから遠隔で動かしていたわけですね。精神と肉体のリンクはありますし、伝死レンジ的にも類感距離ではありましたから。式神の術式を用いれば、放棄した肉体を動かすのは苦労もありません」


 それで頼光の疑問が氷解する。こそこそ鬼ヶ島を出て工作をしていたのだろう藤原千方のリスクヘッジに納得する。そもそも肉体を移植していたので、人間としての肉体の方は使い捨ての式神も同様。伝死レンジが近い分だけ式神よりは扱いやすかっただろうが、それでも捨て身である以外は式神も同様の個体だったのだろう。


「頼光様。死んでください」


 ドガガガガッと砲撃が連続する。頼光はと言えば、その射線上には絶対に入らず砲撃を躱し続けている。それも鬼が無尽蔵に湧いて出るので、それらを切りながら。もはや薄氷の上でタップダンスを踊るかのごとき難行だが、失敗するわけにはいかない。踏み外した瞬間に死ぬ。なおのこと武士道防御が働いているので鬼にはガトリング砲が聞かない。わらわらとアブラムシのように湧いて出る鬼を切りながら、ガトリング砲を避ける避ける避ける。


「あー! くそです! 急急如律令! 野庭ノヴァ!」


 そこで頼光は自らが嫌悪していた後天呪詛を使う。千事略決アベノミクス。仏理呪術と呼ばれるそれだ。彼女を中心に巨大な爆発が起こり、鬼を纏めて千切り飛ばす。爆発を受けた鬼子が頼光に抗議した。


「私まで殺す気なのよね!」


「いいじゃないですか。死んでいないんですから」


 それはまぁそれで。


「急急如律令! 三田サンダー! 雷神ラージ!」


 雷を発生させる呪術を使い、その効果を雷神ラージによって巨大化させる。巨木でも一撃で消し炭になりそうな雷撃がムーブドコフィンを襲うが。


「感電対策はしていますよ」


 鼻歌でも歌うようにあっさりと藤原千方はそう言った。では、と今度は鬼を掴んで滅ぼしている鬼子が後天呪詛を使う。


「急急如律令。手本テュポン


 轟ッ! と暴風が吹いた。鬼子のホロウボースのいくらかを消費して現れた風は、風鬼が使う暴風よりもなお強力な風となってムーブドコフィンを襲う。その風によってムーブドコフィンのオートバランサーが機能しなくなり、倒れ伏す。これではガトリング砲もビームサーベルも使えないだろう。


「勝機……と思いましたか?」


 思った、というのは簡単だったが、もちろん藤原千方がそう皮肉るということは、それに対応する手段があって。ロボットアニメっぽく膨れ上がった肩パーツ。それがまるで開門するようにパカッと開くと、そこにはミサイルの弾頭が見えた。


「…………」


「…………」


 ヒキッと顔の筋肉が引きつった音を、頼光と鬼子は確かに聞いた。たとえるなら新希望戦記ランダムウイングのランダムヘビーアームズのアレ。移植されたフィールフィールドでムーブドコフィンを動かしている以上、人がコクピットに乗っているわけではないのだろうが。発射スイッチはどうやって推しているのだろう。そんな非生産的な考えを持った瞬間。


「ファイエル」


 ミサイルが頼光をポイントして発射される。


「ちょちょちょちょちょ! どこが対カーステラー兵器ですか! こんなの殺人兵器も同様ぉぉぉぉ!」


 そして爆発が鬼ヶ島を埋め尽くした。撃たれたミサイルは十三発。雨霰に撃つだけでも人体を挽肉に変えて余りある威力。それがすべて頼光をポイントして放たれた。ミサイルの速度はマッハを超える。回避するのはもはや人間業ではなく。


『呪いを扱う点において、呪術師と鬼の間にどれだけの距離がありますか?』


 温羅は愛三にそう聞いていた。


 爆音が鳴り響く。炎が燃え上がる。衝撃が起こり、光が暴れ、土煙がもうもうと上がる。さすがに近距離でミサイルはやりすぎた。そう反省する藤原千方の今の肉体……ムーブドコフィンに切りつける刀が一つ。


「まさか!」


 あの爆撃にも似た暴威の中。それでも死んでいなかった乙女が一人。


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