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49:頼光の雷光


 頼光の梵我反転。零留我鞍レールガン


 それは収束系である雷光頼光を空間そのものに呪いつける。結果領域内では無限大に加速でき、その速度は電速のさらに先の領域に足を踏み込む。結論、無尽蔵に限りなく近い加速を得る。その一歩の踏み込みで九間を踏み込み、水鬼の困惑している顔を首から斬り飛ばそうと襲う。既に反応できる速度ではない。弾丸より早く動く人間がこの世にいるとは水鬼も覚悟していなかったろう。これで決着。


「ッ」


 その一瞬にして決定的な決着が、だがつかなかった。水鬼に振るった刀が、間一髪で減速し、その刀は別の刀とぶつかり合う。反転領域のキャンセル。そしてそれを可能とする妖刀。その刀を頼光は誰より知っている。


「ロープライス……ロープ……ッ!」


 手にしているのは吉備マルコ。彼がロープライスロープを握って此処にいる。つまり散々悩ませていた六波羅機関の内通者は彼であり。


「どこで手に入れました! その刀を!」


 頭が沸騰しかねない激情で以て、頼光はそれを問う。


「どこで? どこでと来たか。アイツの死体から盗んだ……と言えば納得するか?」


 バチリ。反転領域こそ解除されたものの収束系の呪いそのものは何時でも具現できる。また走るような斬撃が水鬼より先に吉備マルコを襲う。百八愛三が死んだという挑発を真には受けていない。あいぞうには永久呪詛がある。だが鬼ヶ島に連れ去られて何の不条理も受けていないという楽観論は頼光も抱いていなかった。だがもし拷問でも殺害でも、愛三に血の一滴でも流させたのなら、それは殺すに値する。


 上段からの振抜。示現流における雲耀の一撃。頼光が最も得意とする一撃決殺の剣。だがそれすらも吉備マルコは受け止める。受けただけでも手首の骨が折れそうな一撃を、だが吉備マルコは受け流した。


「?」


 その後二度三度と斬撃を受けて、それをいなしてバックステップ。また間合いを開く。困惑はある。というか不思議なことだらけだ。頼光と剣によって互角を演じている。その吉備マルコの強さが不可思議なのだ。彼の術式は知らないが、あるいは強化するタイプだったのか。それにしてもそのバフ量は異常極まるが。


「ふぅ」


 呼気を吐く。そして一息呑み込んで、さらに加速。回り込んだ吉備マルコの側面から振るった剣。それを辛うじて吉備マルコが受け止める。同時に水鬼の高圧水流が頼光を襲う。ギリギリで回避して、さらに加速。無難に刀を中段に構える吉備マルコを切るのを後にして、水鬼へと向かう。だがその判断をした頼光が怖気を覚える一瞬。水鬼をかばうように吉備マルコが剣を振るう。受け止める。そのまま電気を流し込みたいところだが、ロープライスロープがそれをさせてくれない。改めてロープライスロープがどれだけ高度な妖刀なのかを頼光は味わっていた。切った呪いをキャンセルする妖刀ロープライスロープ。しかも錆びず朽ちずの剣だ。折ることさえもできないだろう。


「とすれば」


 どちらを先に殺すべきか。判断は状況次第だろう。少なくとも双方がフォローし合っているのは悟れるのだから。どちらかを殺そうとすれば、なおどちらかが穴を埋める。


 今ここは戦艦のデッキ。既にアイロニアンは全て出撃しているのか。戦艦のデッキには存在しない。そっちは六波羅機関の呪術師に任せるとして。こちらは強化された吉備マルコと水鬼を相手どらなければならない。だが初手の大洪水はもう起こせないだろう。出来るのならばとっくにしているはずだ。アレを無力化した鬼子の呪いが既に異常なのだが。


「お前たちが悪いんだぞ?」


 何が、という言葉は呑み込んだ。


「お前たちが俺様に恭順しなかったから愛三が死ぬことになった。つまり全ては貴様らのせいだということだ」


 その理論に肯定することは絶対にないのだが。それでも愛三をそのことに陥らせた責任を感じるという意味では何も間違っていない。もしも頼光が全能であればご主人様を傷付けることは無かったのに。


 あまりに持て余しそうな怒りに身を委ねて、頼光は全力でホロウボースを練る。それは雷光へと変じ、頼光にさらなる速度を与える。ガキンと受け止めた吉備マルコの防御こそ賞賛されるべきだろう。


 もはやその呪詛の純度は九割九分九厘にも届いて。ほぼ行使ロスの少ない呪いがそのまま吉備マルコへと襲い掛かる。


「今頃温羅に嬲られているかもなぁ! ザマァ見ろだ!」


 思考は冷静に。だが腹は煮えくり返る。もしも愛三が温羅に酷いことをされているというのなら、今すぐにでも助けに行きたい。だがそれもこの戦艦と水鬼をどうにかせねば助けにも行けない。もう一足上げる。その一撃を、だが相手も一足上げて受け止める。


「ハァッ!」


 一呼吸で十三の斬撃。その全てを受け止める吉備マルコ。差し込まれる水鬼の高圧水流。その水を刀で切って、さらに電気を流す。まさか真水ではないだろう。あっさりと水鬼の高圧水流はそこから触れて伝達された電撃を術者本人へと伝えた。


「ガッ!」


 その悲鳴が最後だった。意識が吉備マルコから水鬼へと移る。その瞬間に水鬼の首が胴から離れていた。ヒュンと刀が風を切って、そのまま残心が頼光を冷静にする。


「ほう。ほうほうほう。だがそれでは俺様には勝てんぞ」


「何を根拠に」


「俺様は温羅の祝福を受けている。人としての限界を超えているのだ。フィジカルでも呪術的にもな」


「仮にも桃太郎の血統を謳っているのに?」


 嘲るように……というか事実嘲って頼光はそう聞く。同時にグニャリと吉備マルコの表情が歪んだ。それは憎悪と赫怒の顔だった。およそ人が人を呪う時、こうまで人の顔とは歪んでしまうものなのか。


「お前らが……お前らが悪いんだろうが! 俺様を称えろ! 俺様に従え。そうでなければ死ね!」


「勝手を言いますね」


「なんなら俺様に恭順するなら、愛三を解放してもいいのだぞ?」


「ああ、いえ。それは普通に自分たちでやるので別にいいです」


「そう言うお前らの傲慢が! 愛三を殺しせしめたのだと自覚しろ!」


 パン。


 音が遅れて聞こえた。


「うるさい」


 全てが終わったあと、そうして頼光は残心を解いた。


「何をした?」


 違和感。それを覚えた吉備マルコが何をされたのか。そこからわからない。だが結果は出ている。既に終わったことだ。そして血を拭って、シャラリと鞘に剣を戻す頼光。そこから少しだけ遅れてピシュッと吉備マルコの首から血が噴出する。その血が流れたのは、吉備マルコの首を一周する全方位からで。


「あ?」


 それによって落ちた首が、何を見つめているのか。そのまま吉備マルコにはわからず。ゴロンと戦艦の甲板に首を落として。残った胴体がようやくオートバランサーを切ったのか。ドサッと倒れる。


「ふう」


 問題は隠形鬼だが、そっちはツバサが何とかするだろう。藤原千方を捉えたのなら、隠形鬼はそちらのフォローに回るだろうし。その想定する能力以外ではツバサにとっては脅威でもない。


「もうちょっとおっぱい小さくならないかなぁ」


 愛三がチラチラと見てくれるのは嬉しいのだが、戦いにおいては邪魔以外の何物でもない。重量もかなりあるので、重心とバランスの問題にも論じられる。とはいえ愛三に仕える身としては、エッチな身体の方が都合がいいのも事実で。


「ご主人様もエッチなことは好きでしょうか?」


 よく考えると愛三の女体は見たことあるが男体は無かったりする。一応空気を読んで女体でいてくれるのだろうが、別に気にしなくても……というのが頼光の本音だったりする。別に愛三が求めてくれるなら、頼光は何時でもいいのだ。それこそ昼でも人前でも。


「そこら辺については今度考えるとして」


 とりあえず今は鬼ヶ島の場所。


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