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46:焦り


「「「さらわれた!?」」」


 最初に鬼子の報告を聞いて。冷静になれと言われるのも無理筋だと鬼子自身が悟ってはいても。


「どこにですか!」


 狼狽える、というのが明確なほどに頼光が聞く。


「多分……鬼ヶ島」


 他に言い様が無いのも事実で。


「鬼ヶ島……ですか」


 ツバサも難しそうな顔になる。難題ではあるだろう。異空間と呼ばれるそこに入るには、相応の手段が必要になる。半村領域へ侵入するには、鍵となる何かが必要だ。


「……っていうか……あなたがいて……後れを取ったんですか?」


「言っとくけど温羅の魄って大概なのよね」


 負けたことに忸怩たる思いはあっても、訪れた結果には何も言えない。愛三は永久呪詛があるから死にはしないだろう。だが自分であれば余裕で死ねる。


「となると、ご主人様を助け出す必要があるわけで」


 それは三人ともわかっている。だがじゃあどうするかとなれば議論にも不明性が加味される。そもそも鬼ヶ島に行く方法がわからない。ついでに空間に穴をあけるとなれば、それはもう強い呪詛が必要になる。


「過去の温羅の鬼ヶ島には行ったのよね。どうしたの?」


「……知りませんよ」


「「以下同文」」


 彼女らはあくまで裏鬼門御三家の血筋であって、家来の犬猿雉ではないのだ。


「というわけで、後は藤原千方を捕まえて吐かせるしかありませんね」


 結論としてそうなる。


 金鬼と風鬼は誅したが、いまだ水鬼と隠形鬼は姿を見せない。その二鬼が姿を見せれば、藤原千方も姿を現すだろう。そこを叩く。というか現状他にしようがない。


「……ご主人様……大丈夫かな」


「とはいえませんけど」


「死ななければ殺されてもいいとはとても言えませんしね」


 三人ともに愛三が殺されるはずがないとは確信している。だがそういう問題でもない。殺されなければ何をされてもいいなら、まず抹殺対象は鬼霊化夷となる。


「……もしもご主人様が酷いことされていたら」


「鏖殺しましょう。鬼ヶ島の鬼の何もかもを」


「ええ。ご主人様が何を言っても鏖殺しましょう」


 そんなわけで方針は決まった。


「…………」


 ご主人様が心配……というのはある。だが現状では何もできないのも事実で。仕方ないので頼光は修行に戻った。マオは六波羅機関で、何ができるか考えている。ツバサは学校側に説明をしていた。


「なのよねー」


 それら三人を見ながら、鬼子はホケーッとしていた。自らの妹……鬼奈が温羅として覚醒するのはもうしょうがない。だがそれを言えば自分もいつまで人間でいられるのか。


「でも死にたくはないんだよなー」


 それが鬼子の思うところだった。実際問題、温羅の完全復活を阻止するためには鬼子が死ぬのが一番いい。そうすれば温羅の魂は黄泉へと召され、不完全な魄だけが残る。そうとわかっても死ぬ気がない自分が疎ましい。どこかで思ってしまうのだ。いつか誰かが何とかしてくれるのではないかと。


「そう上手くいくはずがない……というのはその通り」


 だからわからない。果たして自分が今何をすべきか。鬼子が温羅と接触したから、愛三も温羅に連れ去られた。そして鬼ヶ島で何をしているのか。鬼子はワキワキと手を動かす。愛三のおっぱいを揉むときのソレだ。大体わかっている。あんな可憐な女の子がいて、温羅が手を出さないはずがない。尚のこと愛三の方でも温羅と子を成す気はないだろうから、相手をする時は女の子だろう。


「やってるな」


 そういう結論になる。


「はあ。触れれば終わるんだけどなぁ」


 仕方ないので修練場に足を運ぶ。手を開いたまま、架空の相手目掛けて武の舞を踊る。それは神楽にも似た肉体動作で。神秘的かつ、とても理想的。


 鬼子の先天呪詛。厭離穢土オンリーエンド


 触れたものを全て風化させる呪術。それは温羅も例外ではないはず。つまり自分には温羅を滅ぼす手段が与えられている。


「ッ!」


 ヒュン、と手を振る。それで仮想の温羅の影を捉えようとするが、鮮やかに躱されてしまう。この手が触れれば鬼子の勝ちではある。だが、その手が仮想とはいえ温羅に届かない。反撃すらも想定しているが、それも異常な感覚で。


「ふう」


 そこで温羅の想定を止める。この手で触れれば最も簡単であるのに、その触れるというのがとても難解。言ってしまえば鬼子であっても温羅の一撃を受ければ死ぬだろう。相手がこっちを殺すかは議論もあるが。


「私が。殺さなきゃ」


 他の誰でもない。自分が殺さなければならない。この世界に鬼を解き放った人間の責任として。そう思っていると、彼女のスマホが鳴り出す。それは鬼が現れた時のアラームで。つまりここの近くで鬼が非道を働いている。


「また無茶なことを」


 嘆息。ぶっちゃけ鬼子には祓う気はない。そういうのは誰かに任せればいいだろう。だがそれよりも脅威は身近にあって。


「「「「「――――――――」」」」」


 どこからか悲鳴が聞こえて、その悲鳴も呑み込まれる何かが六波羅機関を侵食していた。


「?」


 一体何が、と鬼子が怪訝としていると。水があふれた。修練場は締め切っていたので、窓から外は見えるが、外から水は少ししか入ってこない。まるで六波羅機関そのものが海に沈んだとでもいうかのように。あまりの水量に、鬼子も呪術の行使を躊躇う。ここでホロウボースを使い切っていいものか。だが結論はすぐに出た。今まるで洪水というより津波でも襲ってきたように六波羅機関を沈めている大量の水。これをどうにかするには鬼子が何とかするしかない。しなければ、そもそも人が死ぬ。


「ふう」


 一つ呼吸。そして扉を開ける。まるで暴力のように襲い来る水に触れて、そこから伝死レンジを接触にする。今もう鬼子の手に水が触れて、その接触距離の水が全ての水に繋がっている。であればそれを消すのは可能だ……という確信。


「カースオン」


 フツリ。


 まるでスイッチのオンをオフにするように。映像のコマ落としによって不自然に場面が転換されたかのように。いきなり六波羅機関を沈めていた水が消え失せた。


「あ……あー……」


 もちろん鬼子の厭離穢土オンリーエンドだ。触れた水を風化させて、すべて霧散させた。その代わりに得たのは眩暈だった。あまりに使いすぎたエギオンが、フィールフィールドの維持を不可能にし、結果として意識がふらつく。


「せめて倍六九を使えれば……」


 とはいえ相手もいなければ無理な相談なのだが。


 六波羅機関を襲ったのは間違いなく水鬼。かの鬼が暴虐的な水の量を調達して襲い来たのだろう。その本来の目的は裏鬼門御三家の排除。そしてあのかしまし娘も藤原千方に用がある。ある意味でウィンウィンの関係ではある。


「あとは……任せるのよね……」


 ふらつく思考で、それだけ言う。このまま死んだら意地でも千方と言わずかしまし娘と言わず温羅と言わず愛三と言わず呪ってやる。その覚悟だけを胸に秘めながら。


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