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36:オーガチャンネル


『こんばんオーガ! オーガチャンネルの尾賀オーガだぞ!』


 華麗に流れる映像エフェクト。その花吹雪の舞う中で、リスナーに笑顔でパフォーマンスをするバーチャルアバター。そのライブストリーミングによって得られる興奮もあるらしく。


『こんオー』


 既にこんオーなる挨拶が発明されていた。その彼女の配信をスマホを通して見ていた愛三は、ネット界隈にも少しだけ理解を深めている。以前のような「電話って何ですか?」みたいな彼はもういない。とはいえだ。いまだにスーチャの概念もよく分かっていないので、それはこれから覚えていけばいいのだが。


『今日はゲストをお呼びしています! ななな、なんとこちら! 今世間を騒がせている温羅さんでーす』


『どうも。余が鬼王温羅である。皆のもの。平伏するように』


 現れたのは愛らしいアバター。コラボレーション企画だとは言われていたが、それにしても温羅がライブストリーミングに手を出すとは。


『初めまして。尾賀オーガです。まさか鬼王温羅陛下が来るとは意外だよー』


『こちらのチャンネルはカーステラーにも優しいと聞く。そういう懐の深い理解者がいることは有難いな』


『そりゃカーステラーだって生きているんだから。応援するのは私たちの仕事だよー。それでー? 今日のコラボ理由は~?』


『六波羅機関の裏鬼門御三家を潰したい。それを為したものに余は呪いを授けよう。祝福という名の呪いだ』


『えー、本当に? その呪いを授かるとどうなるの?』


『老いも病もない世界に行きたいだろう? 余が叶えてしんぜよう』


 どういう動画だろう。そんなことを愛三は思う。今すぐどうのという話ではないが、これによって殺鬼人に対して反感を持つ人間が噴出する。ネットに浸かってさほどでもない愛三にもそれは分かる。だがそれによって得られる呪いが破格に過ぎるのだが。今更嘘でしたも通じないし、相手を鬼化するというのなら確かに願いを叶えているとは言えるが。


 可憐なアバターがヒョコヒョコと動いて、笑顔を見せる温羅。その笑顔がアバター越しであるので、実際の悪意がどれだけなのかは愛三にもよくわからない。だがわかっていることは温羅がどういう呪いを授けようと、それで幸せになる人はそういない。


『わかったー。裏鬼門御三家を潰そうぜ』


『そうだな。俺らもカーステラーの権利を守りたい』


『あと桃太郎もいるんだろ? そいつも呪う必要があるな』


 そんな感じでとんとん拍子で話が進んでいく。そこで何となく気付く。既に動画を見ているという関係性が伝死レンジを縮めているのだ。決して呪いが届かない距離ではない。この伝死レンジで人を殺すことはできないが、それでも少し意識の方向性を傾かせる程度は出来るかもしれない。そういう呪いには詳しくないので、愛三には多分としか言えないが。


 汚染系の呪い。伝死レンジを伝達して広がる呪いだが、それにもエネルギー量がいる。呪詛総度という観念で論じられるアレだ。だが温羅の膨大な呪詛であれば、それも可能ではあるのだろう。問題は汚染された人間がどういう行動に出るのか。


『あとは裏鬼門御三家を従えている人間の排除だな。彼奴が鬼の世を阻んでいると言ってもおかしくはない』


 余計なことをー。とは愛三の意見。だが動画を見ている人間は止まらない。


『つまりその人間を殺せば俺たちも鬼に?』


『不老不死?』


『まて、それは俺がやる』


 そんなわけで、愛三を特定する動きが流行り出し、ついでにそれはすぐバレた。


『百八愛三っていうらしい。顔はこれ』


 あっさりと愛三を特定した写真はバズり、そうして彼は庵宿区で狩られる立場に陥った。


「うーん」


 だが逆に、それは彼を特定した何者かがいるという話で。であれば。


「六波羅機関に温羅の内通者がいる?」


 という考えが自然に出るのは無理のない話。


 実際に愛三が知られているのは六波羅機関だろう。外に出ることもあったが、個人を特定されるのはこんなに早いと、そこを疑うのはむしろ自然だ。だがそもそも鬼を討伐する呪術師が温羅の側に着いたというのが、それはそれでおかしな話で。


「そもそも何を理由に?」


 百八愛三討つべし。そんな空気が形成されている。実際に殺せる類の覚悟を持っている人間がどれだけいるのかという話にはなるのだが。愛三としても「そうですか。じゃあ死にますね」とか言えるほど達観はしていない。


「ご主人様!」


 同じ動画を見たのだろう。飛び込むようにツバサが現れた。


「ご主人様が特定されています!」


 それは知っていて。


「六波羅機関の外には出ないでくださいね?」


 それもそれで窮屈なのだが。一応六波羅機関は結界を張っているので、一般人には認識されない。呪いで操られていても、六波羅機関を認識は出来ないだろう。


「後手後手に回ってるな」


 その自覚が愛三にもあった。


 六波羅機関の通路を歩きながら、そんなことを呟く。


「ご主人様。六波羅機関はご主人様の味方ですからね?」


「ツバサもか?」


「私はご主人様のメスブタですから」


 それもようとわからんのだが。


「とにかく私はご主人様に忠誠を尽くすメスブタなんです」


「忠誠を誓われることは純粋に嬉しいんだが」


 伝死レンジの問題を解決するいい手段ではあるだろう。


「そういう意味ではないんです」


 ではどういう意味か。


「ご主人様は、このまま女の子の姿で過ごすんですか?」


「まぁこっちのほうが需要は多いらしいし」


 せめて女子でいてくれ。そんな血の涙を流しそうな苦言を呈されると、彼としても頷かざるを得ず。さらに鬼子が女子でいてくれと懇願するので、そのリクエストを受け止めていた。


「百八さん!」


 ツバサと一緒に六波羅機関の共通棟を歩いていると、見知らぬ男子に声を掛けられる。


「回りくどい展開は止めよう! 某と付き合ってください!」


「却下で」


 なので愛三も一瞬で振る。


「某の何がダメなのですか!」


「男ってだけでもう」


 一応愛三の性自認は男だ。そもそも生まれた時に男だったのか女だったのかは彼自身も知らないのだが。先天呪詛で陰陽二兎インフィニットを持っていた愛三ではどちらもあり得る。鞍馬山での修行では男の方が効率が良かったので、そっちに流されていたのは自然ではあったのだが。


「某であればこの状況から百八さんを守れるぞ!」


「自衛手段は持っているので気にしなくていいぞ」


 実際に呪いであれなんであれ、彼を侵食できるものは少ない。


「良かったな貴様」


 で、サバトでもするのかという覆面を被った男子生徒の集団が、告白してきた男子の肩に手を添える。


「もしも百八ちゃんが貴様の告白を受け入れていたら殺すしか処分の方法がなくなるところだった。百八ちゃんは裏鬼門御三家と百合をする。これが世界のジャスティス」


 そんなわけで頭上の先端の尖った覆面をした生徒らが告白してきた男子を連れ去っていくのだった。


 南無八幡大菩薩。


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