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34:呪詛濃度


「え? 出来んの?」


 どういう理論に則っているのか。接触距離に触れた瞬間呪術を発動させる愛三は、その難易度を自覚しているとは言い難い。銃弾を受け止める呪術の発動速度。その間一髪にも等しい刹那を把握できるだけでも人間業ではない。


「呪詛濃度って知ってる?」


 知る由もない愛三は、問うた鬼子に首を振る。もちろん横に。


「えーと。ホロウボースそのものの出力を呪詛総度っていうんだけど」


 それはツバサから聞いていた気もした。


「その総度を構成する要素に濃度と量度が存在するのよね」


 読んで字のごとく。濃度は濃さを。量度は多さを。それぞれ証明する。基本的に憎怨ゾーンに入った呪術師の呪詛出力は総度という形で説明されるが、濃度と量度にもそれぞれ理論として存在する関係がある。


「基本的に総度って濃度と量度の掛け算で説明されるのよね。だから双方のどちらかが突出するよりかはアベレージを稼いだ方が呪術師としては高位と言えるのよね」


 加算して十である二つの数字でも一と九の掛け算より五と五の掛け算の方が結論としては大きくなる。なので濃度と量度は双方を高めることが六波羅機関では推奨されている。


 その内、呪術の成立速度を握っているのは濃度の方だ。呪術の成立に必要な呪詛総度の完了までの速度を濃度で補完すればするほど呪術の発動速度は上がる。基本的に濃度が呪術の発動速度を上げ、量度が継戦能力を上げると言われている。


「え? ていうかちょっと待って。愛三ってどこで育ったの?」


「鞍馬山」


「あー……」


 それだけで鬼子は狼狽えるように目を泳がせた。


「?」


「両度は鍛錬が、濃度は環境が、それぞれ上げるための要因って言われているのよね。あー。鞍馬山ね。そう言えば面接でも最強のカーステラーが鞍馬天狗とか言っていたのよね」


 実際にアレを最強と言わずして何と呼ぶ。


 ポヨヨンポヨヨンと愛三のHカップを揉んで、安穏としている鬼子は、結論だけで言えば愛三の異常さにも理解を示していた。胸を揉まれるのは別にいいのだが、それによって得られる快感がちょっと愛三を戸惑わせる。


「あー。いいなぁ愛三のおっぱい」


 とにかく愛三の呪詛総度は一般的に言って異次元であり、温羅すらも軽視できないレベルとして存在している。その温羅である鬼子が言っているのだから確かな情報だろう。二千年の伝説を背景に持つ鬼子のホロウボースが、それでも警戒する程度には愛三は常軌を逸している。


「後は、どこに鬼がいるかだが……」


 ポヨンポヨンと胸を揉まれながら、それはそれとして愛三は寮部屋に向かう。途中ですれ違う男子が変幻自在に揉みしだかれる愛三のおっぱいを見て股間を押さえる。例えるならそれは生肉を前にした獣の様で。あまりの官能に涎が垂れるほど。唾をゴクリと呑んで、そのHカップを凝視し、そしてトイレへと消えていく。


「愛鬼かぁ。アリなのよね」


 愛三と鬼子のカップリングも噂はされていた。鬼子が愛三を気に入っているのは既に周知の事実で、学年トップである鬼子と、実力を示してきた愛三が互いにリスペクトしているのも知られている。吉備マルコとの決闘のこともあり、愛三を軽視する類の意見は既に一掃されている。


「ところで温羅が何処にいるかは知らんのか?」


「鬼ヶ城なのよね」


「それは知っている」


 愛三が聞いているのは、その鬼ヶ城が何処に展開されているかだ。


「半村領域が何処にあるのかは流石に分かんないのよね」


 半村領域。


 そう呼ばれる空間が存在することは愛三も納得しているのだが。


「境目さえわかればどうにか出来るんだが」


「……あ、ご主人様」


 で、寮部屋に辿り着くと、マオがすれ違った。


「頼光はどうしてる?」


「……集中していますよ。……どうにも先の不手際がトラウマらしく」


「気にしなくていいのに」


「……そうもいきません。……拙たちはご主人様の傀儡ですので。……まず真っ先に泥にまみれるべきは拙たちになります」


「俺はお前らが無事息災であれば、究極的には別に鬼さえ討たなくていいんだが」


「……足を引っ張りたくないのです」


「その観念は有難いがな」


 これは言ってどうなるものでもない。


「ノックしてもしもーし」


 集中している頼光には悪いが、彼女に話があるので、それはそれで。


「ご主人様。どうかされましたか?」


 何をしているのかまでは知らないが、部屋で瞑想していた頼光に言葉だけ謝罪をして、それから要件を言う。


「ちょっとロープライスロープを貸してくれんか?」


「え? ええ。それは構いませんが」


 元々ロープライスロープは愛三の刀だ。所有権云々で言えば優先性は愛三にある。だが既に愛三は腰に帯剣している。こっちは単純に強く打たれた神珍鉄の刀だ。その強度と重量が規格外なので、より薄く鋭利に打たれることで紙より薄い刀身ながら一般的な日本刀と重さが変わらないという特徴を持つ。


「代わりにこっちを持ってろ」


 その自分の持っている刀を渡して、愛三はロープライスロープを腰に差す。


「こちらは?」


「神珍鉄性の刀。銘はないが、一応刀としては優秀だぞ。折れず錆びず朽ちずの刀。メンテフリーっていうのか? まぁそれはロープライスロープも同じなんだが」


「軽い……」


 刀としては十分な重量を持っているはずだが、頼光の感想はそういうものらしい。


「まぁロープライスロープと違って呪いは付与されていないが」


「むしろ好都合です。術式の展開をどうしようか悩んでいたので」


雷光頼光フタライコウか?」


「ええ。まぁ」


 特に追及もしていないので、愛三は頼光が何をしているのかも知らないのだが。


「無理をする必要は無いぞ。これはマオにもツバサにも言えるが」


「ご主人様にとってボクたちは役立たずですか……?」


「戦力としては数えてない」


「…………」


 とはいえ、温羅の討伐に裏鬼門御三家を関わらせないというのも無理な話なのだが。


「せめて死なないように……って思うのは俺の傲慢か?」


「ボクたちはご主人様のために死にたいのです」


 だから遠のけたいのだが。


「とはいえ温羅の討伐にねぇ」


「とりあえずご主人様の刀を受け取っておきます。おそらくですが、これも名刀なのですか?」


「言った通りだ。折れず錆びず朽ちず。メンテフリーの刀」


「ご主人様がロープライスロープを握るのは……」


「温羅の半村領域の外側を切るのに必要だからだな」


「半村領域……」


 それを理解できない時点で、既に頼光も認識的には遅れているのだが。


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