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27:未開人


「えーと」


 現在の社会ではスマホは必須。特に殺鬼人にとっては。その画面をタップして、滑るように画面が移動する様を見た愛三の困惑はちょっと類を見ない。


「おおー」


 特に基礎教養では後れを取っていないので、文字などは別に問題ない。のだが、それでも初めてスマホを触って、その高度な文明に触れた愛三の驚きは結構大きい。


「で、これが私のIDなのよね」


「……こっちが拙のです」


「ボクはこっちです」


 そんなわけで、愛三はスマホデビューをしていた。適当にアプリを入れて、そのままソシャゲがどうの、デジタルコンテンツがどうのと言われたが、そっちに関してはまた後で。


「動画とか見れるのか~……」


 既にネット契約は済ませているので、使い放題ではある。動画サイトにもアクセスして、そのまま華麗な世界を見やる。そもそもライブストリーマーなど知らない彼であるから、その未開人ぶりが伺える。


「……もちろん最初に入れるアプリは……カーステラーの通知ですね」


 マオがタタンとタップして、愛三のスマホにアプリを入れる。


「……半径はどうします?」


「半径?」


「……どれくらい離れているカーステラーに対応するか……ですけど」


 それは確かに在る。あまり遠くに離れているカーステラーの情報を貰っても対応が難しい。なのでサムライや呪術師は精々一キロ程度を目安としている。そもそも守られべき対象が死なない距離というのがその辺に集約するからだ。


「じゃあ一キロで」


 六波羅機関から一キロともなれば、それはもう安全圏内だが。だいたい日本帝国全土に、サムライや呪術師は配置され、カーステラーへの脅威に対処できるように警戒している。とはいえフォローが回っていないのが現実ではあるのだが。日本の領土に比べて、殺鬼人の数が足りていない。結果、どうしても切り捨てるべき対象というのは存在してしまう。


「ふむ。で、このスマホ……がこれから近くで起きるカーステラーを教えてくれると」


 そう言えば師匠のシャナはちょくちょく山を下りてはカーステラーの排除に専念していたように思うのだが。


「――緊急です」


 そんな感じでスマホを弄っていると、全員のスマホが警告を飛ばす。その意味を理解しているのは愛三以外の三人。とっさの緊急事態に、バチッと電流火花が散った。ほぼ同時に頼光が駆けだす。その速度は疾風より速く、一瞬で彼らの視界から消え去ってしまう。


「いつも頼光が対応してんのか?」


「……六波羅機関でも……文句なしに……最強ですからね」


 マオが訥々とそう語る。確かに雷光頼光フタライコウの威力を考えればまず間違いはないのだが。


「ふむ」


 殺鬼人用のアプリを見て、そのカーステラーの発生した方向と場所を確認。そうして先に付与しておいた猿飼部の背中から、愛三は胎蔵領域を間借りする。


 梵我反転の応用。苦楽王クラッキング


 今の彼なら一キロ程度は問題にならない。なおかつ彼の定義する胎蔵領域は限定的に広げられていた。糸状に伸びる胎蔵領域から意識を流入させ、プロキシサーバの応用で、彼の反転領域を猿飼部を起点に広げる。


陰陽二兎インフィニット。反転拘束」


 胎蔵領域に反応したカーステラーを、その認識能力で捉え、陰陽二兎インフィニットによって拘束する。


「あとは頼光に任せるか」


 そうして幻痛ファントムペインを一部受けながら、彼は不動縛呪を行使したカーステラーに何も思わない。すぐさま次なる緊急事態がスマホから発せられる。


「――緊急です」


 その意見に関して、愛三が思ったことは多くない。


「愛三?」


「……ご主人様?」


 二人の意見に耳を貸す謂れはない。既に愛三は駆けだしていた。スマホに指示された位置には憶えがない。東京を知らないので当たり前だが。だが方向だけ指示して貰って、あとは勘を頼りに駆けだす。愛三は宙を蹴っていた。竜や天狗は使う天翔を陰陽二兎インフィニットで再現したそれだ。自らの落下現象を反転させて宙を蹴る。その宙を蹴る反動をそのまま自分に適応させる。結果、彼は空を蹴っていた。


「うわぁぁああ!」


 現れていたのはベタな鬼。だがそれも当然だろう。鬼子が言うには今の東京には温羅が潜んでいる。かの鬼が支配する領域で部下である雑多な鬼が横行するのは必然。一足。二足。三足。順番に空を蹴って加速し、そのまま佩刀している剣が抜かれる。


 京八流の抜手。溜抜ためぬき


 最も古い居合が、鬼の首を断つ。呪いのありかを示唆する余裕はない。躊躇った時間の数だけ死者が増える。六波羅機関に所属する呪術師にとって、鬼とはまず考慮無しに切り捨てるもの。と言った場合、日本鬼子をどうするのかという議論も沸くはずなのだが。


「切り捨て御免」


 一拍遅れて鬼の首が落ちる。その結果にとりあえずの安心を覚え、襲われていた被襲撃者を見る。


 その被襲撃者は()()を構えて、愛三を見ていた。


 鬼から救った愛三を銃殺しようとする一般人。鬼霊化夷と違って、呪術師は武士道防御シバリーディフェンスを持っていないので、銃撃というのはある種の天敵だ。


 銃声が三度鳴る。撃たれた弾丸は、だが愛三を貫けない。彼の反転呪詛は、前後の属性だけを反転させる。結果、鏡に投射した光のように角度を付けて反射される。どこへなりとも逸れる弾丸を見て、銃撃者は唖然とする。まぁたしかに素で銃撃を防がれると同じ人間なのかを疑いたくはなるだろうが。


「何で俺を攻撃?」


「ひは!」


 さらに一発。だがやはり愛三には通じない。事情を聴く必要はあるが、それより先に事態は推移した。銃撃をした人物は自らのこめかみに銃口を当てて引き金を引く。


「ちょ……っと?」


 タァンッと音がして、脳を自分で撃ち抜いた被襲撃者が、そのまま物言わぬ死体になる。


 さて、どうしたものか。


 銃撃音も鳴ったので、周囲の人間も異常だということは伝わったらしく。警察への連絡は速やかに行われた。そこから少し遅れてマオと鬼子も現れる。


「ご主人様!」


「愛三!」


 警察への説明責任はあるのだが、呪術師が罪に問われることはそう無い。六波羅機関だというだけで免責になることさえあるのだ。今回に限って言えば、愛三に責任は無いのだが。そもそも銃撃してきたのは相手側で、その相手を鬼から助けたのが愛三だ。


「またか」


 そう警察が言ったことを、愛三は聞き流していなかった。


「また?」


 それはつまり、今回の一件が特例ではない、というわけで。


 聞けば、呪術師を襲う案件が増えているらしい。実際にそれで殉職した呪術師もチラホラ。呪術師に恨みを持つ類の突発的犯行……にしては案件が多い。まるで鬼に襲われている被襲撃者が、それによって呪術師を釣っているような。


 爆乳を持ち上げるように腕を組んで、タユンと揺れるおっぱいをそのままに思案する愛三。話だけ聞けば、鬼と襲われている人間が八百長でもしているかのような。とはいえ鬼の側に知性を求めるのは少し難しい。いないわけではない。幽霊には知性があるし、鬼にも話が通用する個体はいる。だがそれなら立ち回りがおかしい。そもそも呪術師にエサとして使われて、襲われているとされる人間のために命を賭けるものだろうか?


「うーん……あと鬼子はおっぱいを揉むのを止めろ」


「それは無理なのよね」


 無理なのか。それはそれでどうなんだ。


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