25:みんなのアイドル百八愛三
「愛三なのよね!」
新入生の教養の講義の勉強。その教室で辛抱溜まらんと愛三の背後から抱き着いた鬼子は、そのまま胸を持ち上げた。プヨンポヨヨンと変幻自在に変形し、弾むHカップのおっぱいを見て男子はほぼ撃沈。ブラをしてはいるのだが、それでもHカップの暴威性が薄れるかというと、そんなわけもなく。
「……鬼子……ご主人様に近づかないでください」
「まずは忠誠応酬を誓うところからですよ」
「それとご主人様にメスブタと呼ばれているのは私たちだけですからね」
無垢で純情で可憐な巨乳美少女百八愛三が教師である鳥取部ツバサを「メスブタ」と罵るシチュエーション。それを想像して股間を押さえる男子一同。
「はー。愛三の巨乳は神。揉んでいるだけで幸せ」
「ところで何で鬼子は可愛い子が好きなので?」
「……ボソボソ(鬼だから)」
「っつっても……」
愛三が眼弑を外して彼女を見る。特に不審な点はない。というか仮に鬼だったら六波羅機関の討伐対象だろう。そう思っているとけたたましいアラームが鳴る。頼光のスマホだ。そのスマホというものを愛三は知らないのだが。パッと画面を確認して、それから雷光頼光を起動させる。そして学外に消えていった。
「えーと?」
「カーステラーが発生したので鎮圧に向かったんですよ。頼光の物理速度はかなりのモノなので、カーステラー案件では優先的に呼ばれます」
なるほど、といったところ。
「で、鬼子が鬼ってのは?」
「精神だけ鬼なのよね。フィールフィールドだけって言えばわかるかな?」
人間のハードに鬼のOSを入れているようなものだ。
「つまり思考が鬼と。それで人を襲うのか?」
「まぁそこは私が自制しているわけだけど」
「……していません」
「まず胸を揉むのをやめてください」
「愛三は胸揉まれるの嫌い?」
「いや、別に」
「乳首弄られるのは?」
「それはちょっと」
「あー。想像妊娠しないかなー。でその母乳を私が飲むのよね」
「……ご主人様の……母乳」
「ゴクリ」
マオとツバサも大概だった。
もちろん教室にいる男子生徒も黙ってはいない。
「ここは俺が妊娠させて……」
「待て。まずはあの巨乳でしごくところから」
「俺は百八さんの穴であればどこだろうと文句はない」
何やら恐ろしいことを言われているのは納得できた。
「そんなにおっぱい好きか?」
「「「「「大好きです!」」」」」
男子一同。ついでに鬼子まで含んで、そんな宣言。
「百八愛三ちゃん。いえ。ここは愛ちゃんと呼ばせてもらおう!」
一人の男子がグッと胸を反らして、その胸に握り拳からお親指だけ伸ばして、その親指を突きつける。
「某とお付き合いしてください!」
「却下で」
「なにゆえ!?」
言わんと分からんのか、と思ったが、まぁわからんのだろう。
「弱い人は嫌いです」
「強いぞ! 某は!」
「じゃあせめてツバサ相手に勝利したら吟味する」
「ご主人様。もちろん名誉を守れたらメスブタに御褒美はあるんですよね?」
「して欲しいことを言え。限りなく善処しよう」
「じゃあご主人様のアレで私のオミンコを突き刺してください」
今の愛三には無いのだが。とはいえそれは男女を反転させればいいだけだが。
「では行きますぞ! 鳥取部先生!」
で、決着。
ボッコボコに殴られた生徒が、教室前の廊下に打ち棄てられている。
「さて、授業を始めましょう」
「ところで先生。なんで十七歳で教職に? 飛び級でもしたの?」
「若返りました」
「……えーと……どうやって?」
「部外秘です」
実際に言うわけにもいかないだろう。
「愛三ちゃん。イラン交換しませんか?」
とりあえず男の時とは事情が違うのは察せて。イランのIDを交換したがるモブ男子には悪いのだが。
「イランって何?」
「SNSですぞ」
モブ男子の言っていることがよく分かっていない愛三だった。
「スマホ……持ってないので?」
「さいです」
「え!?」
そこで困惑の悲鳴を上げたのは鬼子だった。彼女にとっては驚くべきこと……らしい。
「愛三スマホ持ってないの?」
「持ってないといかんのか?」
「だってカーステラーが出たらどうするのよ?」
「どうと言われても……」
視界に入ったら殲滅。それ以外はどうでもいい。
「あー、はいはい。じゃあ今日はスマホ買いに行こうね」
「……ご主人様……拙も」
「私は教師職がありますのでついていけません。けれど電話番号とSNSのアカウントは教えてくださいね?」
そんなわけで、愛三のスマホを買いに行くことになった。今時の殺鬼人のスマホは近くでカーステラーが発生すると、それを知らせる機能があるので、彼らには必須のツールと言える。そもそも通信技術というものが愛三には意味不明なのだが。
「つまり遠くの人間と会話できる……と」
そういう基礎すら知らないのが愛三だったりする。
「百八さんのスマホの番号……」
「これはゲットしがいがあるでえ」
「ゲットできれば百八さんと通話できるんだろ?」
「それなんてヘブン?」
そうして騒めく講義室の空気はとりあえず無視して、愛三は講義が終わると外に出た。ついてきているのはマオと鬼子。頼光は鬼退治に行ったし、ツバサは教職がある。スマホとやらを買うだけなので、説明のいる付き添いがいれば困ることもない。
「……ご主人様の……スマホ」
マオはそれだけでドキドキしていた。
「はー。やっぱり愛三のおっぱいは落ち着く」
鬼子は愛三の胸を揉んでほんわかしていた。別に愛三はどうでもいいのだが、道行く人たちが腰をかがめて唸り出すのが不思議だった。Hカップの胸がそんなに気になるらしい。
「もしかして俺って結構可愛い?」
「結構ってレベルじゃないかなぁ」
「……ご主人様の……御尊貌は日本一です」
マオの絶賛は話半分に聞くとしても。




