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22:陰陽二兎《インフィニット》


 互いに術式を教え合う。そのように誓約を結んだ愛三と鬼子。呪詛契約でこそないが、お互いに知るべき情報であることも否定は難しく。


厭離穢土オンリーエンド?」


 先に明かしたのは鬼子の方だった。これは提案した側のリスクを加味してのことだ。


「術式そのものは単純。時間を加速させるだけ。ただその倍率がちょっとね」


 互いに壁の耳を警戒して、今は修練場に場所を移している。そこに置いてあった竹刀を手に取って、鬼子は呪術を行使する。まるで風化する現象を早回しで撮影したような。というか彼女の申告を信じるならまさにそのものである呪術が、握った竹刀を塵に返す。伝死レンジ内の対象の時間を加速させ、結果滅びの未来を先取りする。時間を加速させるだけなら、相手に加速装置を付与する結果になりかねない。そこまでフォローが行って、結論として終わりを先取る呪術なのだろう。


 威力としては申し分ない。実際にその威力を愛三は入試で見届けている。愛三の式神を触れた瞬間塵にした鬼子の呪術。説明されると納得できる程度には強力で。


 つまり鬼子に触れるとあらゆるものが終わってしまうのだ。後天呪詛にも似たような呪術はあるが、使える人間は限られる。無条件にそれを使えるとなれば、確かに最強の一角には座しているだろう。


「じゃあ、そっちは?」


 言うのは簡単なのだが。


陰陽二兎インフィニット。反転系の術式だ」


「反転……。陰を陽に? それとも陽を陰に?」


 確認する言葉で、彼女の反転系への理解がわかる。既に裏鬼門御三家は知っているが、他の人間には説明したことがそう言えば無かったような。


「どっちもあり」


「陰陽関係なく……ってことなのよね?」


 まさかと驚愕している鬼子の気持ちも分かりはする。証明するにはどうすればいいか。悩んだ末に愛三は眼弑を外した。邪眼が鬼子を捉える。


「?」


 そのままフワリと浮く鬼子。道場の天井はさほど高くない。その天井へ向かって鬼子が落下した。


「何をしたのよね?」


「重力の向きを下から上に反転させた。そのまま外に出れば、お前は宇宙まで落下する羽目になる」


「重力の反転。それは強そうね」


「で、その呪詛を反転させれば」


 今度は重力が下を向いて天上から床へ落下する。猫のようなしなやかさで、フワリと着地する鬼子だった。


「重力の上下反転……ふむ……なのよね」


「だけじゃないぞ」


「えーと」


 そこでふとした愛三の変化に、鬼子は違和感を覚える。顔の基本造形は変わっていないが、どこか愛らしくなって愛三はそこにある。というか、彼の胸元が異様に膨らんでいる。


「え? おっぱい?」


 さっきの今で見間違えるはずもない。まつ毛が長くて唇が色っぽく、身長は変わらないが胸とお尻が突き出ている。


「な……何が?」


陰陽二兎インフィニット。無制限反転呪術。つまり俺の肉体を男から女に反転させたわけだ」


 男女も陰陽属性を持っている。なので理論上は反転系による変化は可能である。しかも愛三の呪術は無制限なので、ホロウボースさえあれば男女のどちらにも反転が可能だ。


「ぺ……」


「ぺ?」


 凝視する鬼子が不思議で、その言葉に首を傾げる愛三。その愛三に鬼子は抱き着いた。


「ペロペロ~!」


 およそ名状しがたい興奮の果てに。愛三に抱き着いて、目を血走らせている鬼子。そこにあるのはまごうことなき性欲の高ぶり。童顔巨乳の愛三(女)を見て、ガチで鬼子は興奮していた。


「何このおっぱい! やわらかぁ。しかも大きいし。あ。顔を挟んでいい?」


「構わんが」


 女子になるとおっぱいが大きくなるのは愛三も理解していた。もちろん抗議が出ないはずもなく。


「ご主人様から離れなさい下郎!」


 こっちも負けず劣らず血走った目でロープライスロープを抜刀している頼光。彼女の刀であれば、鬼子の厭離穢土オンリーエンドも容易く破るだろう。一篇一律ユルキャンの威力であれば容易いはずだ。その隣で殺意をギラつかせているマオも同意見らしい。


「ご主人様! こんな奴にご主人様のおっぱいを揉ませることはありません!」


「……不愉快」


「とは言われても」


 彼には別にだった。


「はー。幸せなのよね……」


 プニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョプニョ。


 愛三の胸を揉みしだいて、愉悦に浸る鬼子。その彼女がいわゆる同性愛なのかという問題が提起されるのだが。


「あー、そのー、まー」


 同性愛ではないらしい。もっと根本的に彼女はヤバかった。術式を開示した時点で互いの取引は終了。それ以上のことは言わなくていい。だが、ここで終わってしまえば、鬼子は単なるレズビアンだ。別にそれを愛三は否定しないが、とはいえ。


「その。鬼なんです」


 なわけで鬼子がぶっちゃける。ちなみに愛三の胸を揉みつつ。


「相互開示の誓約! 愛三の胸は何カップ?」


「カップ?」


 そこから愛三にはわからない。


「私のパイオツスカウターではHくらいありそうなのよね。っていうか、さっきまで男だったからってノーブラはダメなのよね! この至高のおっぱいの形が崩れるじゃない!」


「ノーブラ?」


「犬養部マオ。猿飼部頼光。主君のブラについては何も進言してないの?」


「……いえ……その」


「女性になれると知らなかったもので」


「わかったのよね。今からブラを買いに行きましょう。あとそれから。六波羅機関では女子でいなさい。愛三。そうすれば嫉妬に狂った男子生徒も沈静化するのよね」


「なんで?」


「愛三がめっちゃ可愛いからなのよね!」


 実際に愛三は可愛かった。御尊貌は可憐であるし、胸もお尻も大きいし、そのくせ鍛えているからかウェストは細い。もはや男子であれば性欲を爆発させかねないエロさ。鬼子の進言も決して的外れではない。


「ちなみに私は鬼なので可愛い女の子が大好きなのよね」


「鬼て」


 カーステラーではあるのだろうが、今のところ愛三の危機感はピリつかない。鬼子に悪意が無いことは、彼の側も知っている。


「ほら、桃太郎でも一寸法師でも鬼は女子に襲い掛かるでしょ? 鬼は可愛い女の子が大好きなのよね。だから私も好きなのよね。ちなみに処女? 処女よね? 処女なのよね?」


「経験はないが」


「はー! 推せる! 可愛い! 女は愛嬌!」


 そこまでか、とは愛三も思うところで。そして全員で下着専門店に向かう。飯屋は色々回っていたが、愛三は女性の下着には疎い。バストのサイズを測るところからだった。


 ちなみにHカップ。


 バインボインの愛三に合う下着がそんなになく、興奮冷めやらぬ鬼子はとりあえずの下着を買いつつ、ブラとパンツのオーダーメイドを頼むのだった。


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