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18:豚骨ラーメン


「ああ、美味い」


 とりあえず合格発表も確認したので、それ以上のことは起きず。バックパッカー並みに少ない荷物を背に抱えようとして。だが忠誠を誓った三人が「ご主人様に荷物を持たせるわけにはいかない」とばかりに進言して。ついでに誰が愛三の荷物を持つかで揉め。そうして議論が収まった後、愛三は豚骨ラーメンの店に案内されていた。初めて食べる豚骨ラーメンは、まるで魔法のような旨さで。口に入れた時の感動は、在りし日のラーメン初体験の記憶と等価の感激だった。


 ズルズルと麵をすすって、未知の味に感激する愛三をかしまし娘はニコニコと微笑みながら見守る。


「ああ、美味い。感激。シカの肉より美味い」


 まぁシカもシカで一応美味ではあるのだが。


「ところで鳥取部氏」


「どうぞツバサとお呼びください。メスブタでも構いませんよ?」


「あー。じゃあ。ツバサ」


「はい」


 ニコニコ微笑む彼女は見るだけでまぁ違和感はあって。


「……ズルいです。……ご主人様。……拙のこともマオと」


「ボクは頼光で構いませんので」


「オールライト。わかった。で、ツバサ」


「はい」


「今何歳?」


「十七ですよ!」


 確か八年前に逢った時は二十五歳だった。そこから加齢を反転させて減齢の時間逆行を付与して八年。そのまま呪いが機能したのは感慨深いが、別に戸籍が逆戻りしたわけでもない。減齢の呪いで八年逆行すれば二十五から八を引いて十七だが、戸籍上は二十五から八を足して。


「つまり三十三……」


「数えないでください!」


 涙目で抗議するツバサだった。


「いいじゃないですかー。十七で」


「ちなみにツバサは六波羅機関の教諭をやっていますよ」


 頼光がそう言ってくれる。さすがに肉体年齢が十七でも、生徒に逆戻りは出来ないらしい。当たり前だが。


「ということは学ぶこともあるわけだ」


「ご主人様は筆記はほんの少し秀でておりませんでしたね」


「散々だったって言っていいぞ」


 普通に愛三も自覚していたので、遠回しに機嫌を取られても悲しいだけだ。


「ホロウボースって知ってます?」


「いや。何のことやら」


 ズビビーとラーメンをすすりながら、まるで無知だと自己申告する愛三。


「というわけで、ご主人様には私が個人授業を行います。もちろん放課後で二人きり。二人に何も起きないわけもなく。きゃ!」


「何も起きんぞ」


 ツッコミは忘れない愛三だった。


「ところで、お前らって六波羅機関では強い方か?」


 眼弑めしい……ラウンドサングラス越しに三人を見て、根本的なことを愛三は聞く。


「……拙は……そもそも競い合いの外にいますので」


 たしかに。犬養部マオは攻撃を禁止する代わりに防御で絶対を得る。『殺害殺し(マーダーマーダー)』の呪術効果を考えれば妥当なところだろう。


「ボクもそう言えば負けたことはありませんね?」


 猿飼部頼光も記憶する限りでは黒星がないらしい。あの終天呪詛を鑑みれば、こちらも妥当。


「そもそも私は生徒とはあまり戦いませんので」


 鳥取部ツバサは教師職なので例外。


「ちなみに頼光の痣名は決まったのか?」


 彼女が習得した終天呪詛。それにはまだ名前を付けていなかった。六波羅機関に所属したのなら適当に呼ばれている名もあるだろうが。


「えーと……」


 煮え切らない反応をする頼光だった。


「何か恥ずかしい名を付けられたとか?」


「個人的な意見を言えば」


 トホホー、と項垂れる頼光。それで本人からの自供はないと判断して、愛三は犬養部に視線を振る。


「……フタライコウです」


「フタライコウ?」


「……雷光ライコウ頼光ライコウ。……二つのライコウで『雷光頼光フタライコウ』」


「マオ~!」


 あっさりと自供したマオに、ポカポカと拳を打ち付ける頼光。本人は不服らしく、雷光頼光フタライコウの名称に納得いっていないらしい。


「カッコいいと思うだけどな」


「え? そうですか? えへへ……?」


 愛三に褒められると嬉しいらしい。


「それより」


 ゴホンゴホンと咳払いをして頼光が言う。


「その眼鏡は一体? 以前はしていませんでしたよね?」


 愛三がかけているラウンドサングラス。真円のレンズで視界を隠している眼鏡をかけているのだが、そもそも視覚に問題はないだろうというのがかしまし娘の意見だった。


「ああ、邪眼が思ったより拡張してな」


「邪眼」


 中二病的なワードが出たが、嘲笑うことはかしまし娘はしない。


「あんまり人を呪うのも憚られるので眼弑で封印してんの」


眼弑めしい


 愛三の邪眼を含めて、呪術界では異能の視覚である魔眼持ちは珍しくはあるが全くいないわけではない。特に見るだけで死に至らしめるバロールの魔眼など、物騒な目も無いではない。そういう魔眼を封印するのが眼弑と呼ばれる呪具であり、それによって愛三は自らの呪いを封じているのだ。


「マズいんですか?」


「うーん。何と例えるべきか悩むんだが。他人の額に銃を突きつけて、トリガーに指を掛けたまま、殺すなよって言われている感じだな」


 そのままトリガーを引けば殺人事件になるが、人体能力にミスがある以上、いつまでもトリガーを引いて誤射する可能性は無いではない。つまりそのトリガーにかけた指が、そのまま愛三の瞳らしい。


「この邪眼で見た風景は、無条件で伝死レンジをゼロに出来んの」


「それは……」


 聞くだけで脅威ではある。それこそ愛三が眼弑を外して裸眼で風景を見れば、その映像に映った人間は呪い放題だといういうことだ。相手との伝死レンジを詰めるのは呪術戦における究極的なやりとりだ。その伝死レンジを見るだけで詰められるなら、それは無敵とさえいえる。相手の攻撃範囲外から、一方的に呪えると言っているようなものなのだから。


「なわけで、封印してんの」


 たしかにそれは封印刑にしなければならない特級案件だろう。


「さて、じゃあ、次なる東京観光に連れて行ってくれ」


 此処でかしまし娘を脅しても何にもならない。そう判断した愛三は次なるステージに思いを寄せる。庵宿区だけでも結構な楽しみはあるが、東京の観光は始まったばかり。まだまだ楽しめる要素はあるだろうと、そうかしまし娘に問いかける。


「……ではスカイツリーを」

「雷門でしょう」

「放送局とか如何ですか!」


 そんなわけで愛三とかしまし娘の交流は、以降も続くのだった。


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