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悪女と後悔 ーアベルー

(流石にあれは酷かっただろうか。)


1人ぼんやりと考えていた。


いくら悪女とはいえ初夜にあの状態の彼女を放って帰って来たのはどうなのだと私は思い始めていた。


「気になることがあるのならきちんとお話しした方がよろしいのではないでしょうか。」


ふいに声をかけられハッと顔を上げた。

セバスが困ったようにこちらを見ていた。


「もう3日もそんな状態で、仕事も手についておりません。」


3日……もう3日も経っていたのか。


確かにセバスの言う通りだ。

このままじゃ埒があかない。

悪女といえどこちらが悪いのならしっかり謝るべきだ。


「そうだな。離れに行くことにする。」

「今からでしょうか。」

「ああ、今から行こう。」

「承知いたしました。」




離れに行き出迎えた使用人に聞けばブリジットは寝室にいるというので寝室に行きノックする。

ドアを開けたブリジットは私を見てあからさまに驚いた顔をしてみせた。


「月のものが来たと申し上げたと思いましたが」


言われてハッとした。

そうだ。今は夜だった。

だからセバスが今からかと聞いたのだ。

しかし止めなかったのは妻の部屋に夫が夜行くのは何ら問題ないからだ。

私は慌てた。


「いや……そうなんだが、そうではなく……」


情けないことにしどろもどろだ。

そんな私を訝しみながらもブリジットは部屋に入れてくれた。


寝室にテーブルセットなどなく座るところといえばベッドくらいだ。

無意識にベッドに目がいく。

するとブリジットが慌ててベッドの上の本を片付け出した。

彼女が手に持った本をみておやっと思う。


「私の学園時代の教科書じゃないか。」


懐かしい。


ブリジットの手から教科書を取ると、パラパラとめくる。

覚えのないアンダーラインが引いてあるところがある。


なるほど。


「文法がわからなかったのか。」


私はブリジットが持っているノートとペンをもらいベッドに広げた。



「セドリックが言っていたよ。喋り言葉では気にならないが、文章になるとたちまち意味がわからなくなる時があるとね。」


我が国の文学の歴史は深く、書き言葉の表現の多さが他国から来た人たちを惑わせている。

セドリックにそう言われ、興味を持ちロイフライングとサンスフォード国との言葉の違いを調べレポートまで書いたのだ。

そうしてわかったことをセドリックに教えると随分感謝されたな。


「同じ発音なのに綴りが違うこともありますか。」

「少なからずあるね。教科書が置いていた近くに辞書があったはずだが。」

「質問に対して肯定と否定がひっくり返っているように感じる時があるのです。」

「セドリックと同じところでつまづいてる。」


いつの間にか横に座ったブリジットに講義のように説明していた。

昔調べた事だとおもうと懐かしくて、つい夢中になっていた。


しまった、と思い彼女の方を見るが意外にもブリジットは嫌がる様子はない。

私が言った事を懸命にノートに書いている。

じっと横顔を見つめた。


ああ、手紙のブリジットだ。


何故かそんなことを思った。


この間は動いたような気がしただけだった唇は、今日はしかと言の葉を紡いでいた。


不思議な気持ちになって彼女の唇をそっと親指でなぞった。


「え」


彼女が驚いたようにこちらを見た。

唇から滑るように頬を撫でサイドの髪を撫でると指に絡みついたので梳くように横に流した。

甘い香りが鼻をかすめる。


まるで吸い寄せられたように、そっと唇を重ねた。


唇を喰み、吸うとリップ音がする。


頭に手を回し、さらさらとなめらかな髪の手触りを確かめる。




ぐ、と胸を押された。




ーーそこで夢から醒めた。




私は


何を?



私は弾けるように彼女の体を離れさせた。

彼女の顔は見れなかった。


「すまない。」


一言だけ言うと部屋を出た。

逃げる様に本邸に帰ると自室で頭を抱える。


一体私は何をした?


これも悪女の手練手管なのか?


ああ、だから彼女に会うのは嫌なんだ。


会えばなんともおぼつかない気持ちになり、たちまち自分らしくないことをしてしまう。


初対面の時だってそうだ。

いくら悪女だとはいえ、長旅を終えたばかりの彼女を離れに押し込めたのはやりすぎだった。


結婚式の時だって。

私の願い通り契約婚を綺麗に隠し家族とうまくやってくれた彼女に、往復の馬車では無言を貫いた。

いつもの私ならお礼くらい言ったはずだ。


初夜の時も、今だってそうだ。


やはり彼女とは関わるべきではない。


私はぎゅっと唇を引き結ぶとしっかりと決意を心に刻み込んだ。


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