そして冒頭に戻る ーアベルー
ーあなたを愛する事はないー
やっと言いたいことを言ったはずなのになぜかすっきりしない。
彼女はずっと眉を顰めている。
タウンハウスではずっと笑顔で話していたくせに、私にはずっとこうだ。
私はいらいらと事を進める。
暗い室内でもわかるくらい白くなめらかな肌が露わになる。
息を呑んだ。
美しい肌に触れれば応える様に艶めかしく動く肢体。
なんともいえぬ色気があたりに漂った。
だらり、と力なくブリジットの腕が垂れた。
ハッと我にかえる。
ブリジットは気を失っていた。
窓の外を見ると夜明け前の様だった。
さすがにやりすぎた。
焦ってブリジットを見ると乱れた髪が顔にかかったまま目を閉じたまま動かない。
「ブリジット。」
返事はない。
顔を近づけるとスースーと規則正しい寝息が聞こえ、安堵する。
顔にかかっている髪をそっと撫でるように横に流した。
すっかり力が抜けた体にシーツを掛けると私も横になった。
顔が間近にある。
「ブリジット」
眠っている事確認するかの様に呼びかけると、少し顔が緩んだような気がした。
さらさらと蜂蜜色の髪を撫でつけて整える。
彼女のあどけない顔を見つめた。
「……ビジイ」
そっと呟くとブリジットの唇が少し動いた様な気がした。
起きた?
そこで我に返る。
「馬鹿馬鹿しい。」
愛称がなんだと言うんだ。
くだらない。
私は反対側に寝返りを打った。
ハッと飛び起きた。
窓の外を見ると空が白み始め室内もぼんやり明るくなり始めていた。
どうやら少し眠っただけらしい。
私は起き上がりトラウザーを履くと使用人にタオルを用意させた。
自分の吐き出したもので汚れている彼女を、そのままにしているのは気が引けた。
シーツを捲る。
瞠目した。
え?
これは?
いやまさか。
でも
「どうして……」
思わず声が漏れた。
どういうことだ?
横でもモゾモゾと動き出した気配がした。
私はぎこちなくブリジットへ顔を向ける。
「君は……まさか……」
唾を飲み込む。
ゴクリと音が鳴った。
「純潔だったのか……?」
明け方の薄ぼんやりとした部屋の中でみたブリジットの足は、純潔の証で汚れていた。
彼女はゆっくり起き上がるとこちらを見る。
「月のものですわ。昨夜申し上げようとしたのに、アベル様は随分急いていらしたようで。」
ブリジットはクスリ、と初対面のあの日のように笑った。
カッと顔が熱くなる。
私は乱暴にタオルをベッドに放ると、シャツを鷲掴みにして部屋を出ていった。
服を着ながら本邸に帰る。
どうして純潔だなんて思ったんだ。
さっきまでの自分が恥ずかしい。
くそ
やはりあの女は悪女だ。