君のため ーアベルー
「アベル様を許します。」
そういったブリジットの顔は晴れ晴れとしていた。
「ブリジット……」
許すと言われたはずなのに素直に喜べない。
この雰囲気で期待できるほど私は能天気ではない。
(ブリジット、君は何を言おうとしている?)
聞きたくない衝動に駆られる。
そんな私をジッと見つめるブリジットの眼差しは真摯だ。
ならば私も誠実であろう。
覚悟を決めてブリジットを見つめ返す。
すると何かを感じ取った様に、彼女は微笑んだ。
「アベル様。私は今まで逃げていた国に、ヒステマラ領に帰ろうと、そう思います。」
柔らかい表情に反してきっぱりと言い切った。
私は黙り込んでしまった。
そして次に彼女が言う言葉はわかっている。
「アベル様。」
しかしそれを止める言葉を私は知らない。
「私は婚姻解消を望みます。婚姻解消いたしましょう。」
穏やかな美しい笑みを浮かべて彼女は言った。
言外にそうでなければ前に進めないのだと匂わせて。
彼女に出会ってから私の世界は変わってしまった。
私はとても幼稚で恋を知らなかった。
自覚した時にはもう遅かった。
出会う前からやり直したいと何度も思った。
でもそんなのは夢物語だ。
現実は容赦なく、時間は前にしか進まない。
彼女がこの国に未練などあるはずもない。
そしてそうさせたのは他の誰でもない、私だ。
そんな自分が彼女にできる事は、少し震えている彼女の手を放し、背中を押す事だ。
「わかった。ブリジット。」
そう言うと大きく息を吸い込んだ。
「婚姻解消に同意する。」
この部屋にいる全員に聞こえるようにはっきりと言った。
後悔も未練も全て吐き出すように。




