再び ーポールー
ああ!
頭を抱えたくなる気持ちを抑えて食堂を飛び出して行ったアベルを追った。
やはりビジイはもう食堂の外にいたらしい。
昨日アベルに事の顛末を聞いた。
アベルが全部悪いというわけではないが……
ただただデリカシーに欠けている話だった。
じゃあやっぱりアベルが悪いというべきなんだろうな。
ビジイがセドリック様に宛てた手紙。
あの手紙をアベルに渡したセドリック様の意図は勿論わかる。
ビジイを悪女と言い、離れに住まわせていたアベルに対する抗議の意味が強い。
しかしそれがアベルの手に渡っているのはビジイにとっては青天の霹靂だったろう。
(繊細なビジイには耐えられないだろうな。)
アベルはビジイが何故怒っているのかわからないようだったが、怒っているというよりは
恥ずかしいのだろうよ。
引っ叩かれたのは……まあ、八つ当たりみたいなものだ。
アベルにはそういう、王子様との夢物語を語っていたら張本人の王子様に聞かれてしまった乙女の気恥ずかしさなど理解できないだろうな。
そう思ったから簡潔に言った。
「セドリック様はきっとその手紙をビジイの許可を得てお前に見せた訳じゃあないんじゃないか。きっとビジイはお前が手紙を読んだ事に気付いたんだよ。普通は怒るだろ?勝手に第三者に手紙を見せていたら。」
アベルはハッとしたように顔色を変えた。
「お前が今からすることはセドリック様から渡された手紙を火にくべる事だ。手紙を見たことはたった今から誰にも言うな。墓まで持って行け。内容を知っていた事だけをビジイ謝罪するんだ。」
確かに自分が悪いと反省してくれたのは良かったが、謝罪は後日にして今日はもう帰れと言っても、ビジイに謝罪するまで帰らないと聞かなかった。
「何だか今謝罪しないともうブリジットに会えない気がする。」
うん……淑女ビジイならそんな気がするな……。
その後母上とデイビットにどうせお前が悪いに決まっている、帰れ、ビジイに近付くな、と言われていたが決して帰らなかった。
その光景がなかなかお気の毒で面白かったから私も弟の肩を持つ事にした。
しかし部屋から出てこないビジイを無理に呼ぶ事はしない。
父上に言って滞在は許可したが会えなければ帰るようにも言っていた。
そうしたら思いがけずビジイが朝食に来ると侍女から知らせを受ける。
無言でスッと席を立ったのは母上だ。
おそらくビジイの部屋で朝食を取らせる手筈を整えるんだろうな。
アベルには気付かれないように。
すると母上が出て行った扉の向こうが騒がしい気がした。
ハッとしたようにデイビットが立ち上がり出ていく。
まさか……
同じ事を思ったであろうアベルも立ち上がり、あっという間もなく扉を開け出ていった。
「ブリジット!」と叫びながら……。
父上も後を追いアベルの肩を無理矢理組んだ。
「まあまあまあ、アベル。一旦こっちにおいで。」
「あ、ちょっ……父上!」
その隙に私がビジイとアベルの間に滑り込む。
ビジイはじりじりと後ずさっていた。
「ビジイすまない。アベルが昨日何か粗相をしたようだね?謝りたいと言って昨日は泊まったんだ。」
私達は詳細は何も知らないよアピールをするとビジイの緊張が解けたように思えた。
後ずさりも止まる。
「ビジイ、とりあえずあなたの部屋に戻りましょうか。」
母上が言う。
そうだな、一旦それがいい。
「なっ……ブリジット待ってくれ!」
父上の肩組みホールドにもがきながらアベルがビジイに懇願する。
「アベル、とりあえず一旦……」
そう宥めようとした時だった。
もがいているアベルの胸元から何やらふわりと舞ったかと思うと床に落ちカサリと音を立てた。
うん?
丁度ビジイの前に落ちたそれは…………全身の血の気が引いた。
と、同時に私は素早く移動しそれを勢いよく拾い上げた。
お前は!
なんで手紙を持って来ているんだ!!
父上も母上もデイビットもキョトンとした顔でその光景を見ていた。
顔色が変わったのは私とアベルと、ビジイだ。
しまった。
私もキョトンとするべきだったのだ。
しかしもう遅い。
それどころか思わずビジイの顔色を窺ってしまった。
ビジイは私と目が合った瞬間美しい顔がくしゃくしゃになり今にも泣き出しそうになる。
「ブリジット!この手紙は!これは……!違うんだ!」
父上の緩んだ手から逃れたアベルがブリジットに近付く。
あ…!今近付いたら……
…いや…もういいか……
行け……
バチーーン!
思った通りの音が響いた。




