手紙 ーアベルー
今日は一日上の空だった。
気を抜けばブリジットの事ばかり考えていた。
ごめんなさい
最後の言葉が胸を締め付ける。
私は結局謝ることをしなかった。
最後まで私は……。
(ああ、まただ。)
また湧いて来たおぼつかない気持ちに震えそうになる。
胸にポッカリ穴が空いた様な、なんとも空虚な気分だった。
(前までならこれも悪女の手練手管かと思っていたところだが。)
結局そんなものは存在しなかった。
はああっと特大のため息をついた。
気分を切り替えるために子爵領の雑務でもしようかと執務机に向かったものの結局上の空だ。
これじゃあいかんと、目の前の書類の山に手を伸ばしたつもりが、勢いよくとなりの書類の山を崩してしまった。
バサバサバサ
……ああ……
とてもじゃないが今片付ける気になれない。
もう自室に行こう。
そう思って立ちあがろうとしたその時だった。
おや?
崩れた書類の間から滲みの酷い字が見えた。
濡れた手紙?
思わず手を伸ばした。
記憶にないな。
裏をみれば、封が開いていなかった。
そうして封をしていたのはゴスルジカ公爵家の紋。
名前は滲んでいて読めないが、おそらく……
破く勢いで手紙を開ける。
自分の手で開けていると言うのに待ちきれなかった。
やはりそうだ。
これが『手紙』だ。
中はにじみもなく読める。
思った通りセドリックからの手紙だった。
内容は、男爵令嬢アリスと恋に落ちた事から始まり、ブリジットとの契約婚に至るまでの経緯と離婚までの顛末がしっかり書かれていた。
私は呆然としていた。
しかしもう読み終わったと言うのに手紙から目を離すことができない。
サイラスが嵐の日持って来た手紙だ。
きっとそれが、この『手紙』だったんだ。
(出会う前に知ることが出来ていた。)
目の前が真っ暗になった。
この手紙をきちんと読んでいれば、ブリジットと出会う前に総て知っていたのだ。
そうなっていれば彼女を悪女だなんて思わなかっただろう。
冷遇することもなかった。
そうしたら今頃きっと……
「クソッ!!」
浮かんだ言葉を打ち消す様に自分自身に毒づいた。
今更自分の卑怯さに絶望した。
私は今この瞬間まで、心のどこかで仕方ないと思っていた事に気が付いたのだ。
私は知らなかったのだと。
だから仕方がなかったのだと。
あまりにも情け無い。
自分で潰した未来。
この期に及んでそれが欲しくて泣きたくなった。
今頃きっと……
打ち消したはずの言葉が容赦無くまた浮かぶ。
きっと……笑顔のブリジットが私の隣にいた筈だったんだ。