悔恨 ーアベルー
「セドリック様は天真爛漫で王子様みたいだけれど周りは振り回されてしまうのかもね。」
私達は執務室に戻ってきていた。
ブリジットが泣き疲れ眠った頃、ドリンコート侯爵家からセドリックとアリス嬢を迎えに来た。
アリス嬢は落ち着いた様子だったそうだ。
侯爵家当主の側近が来ていたらしく、話をした後は母上は2人のことは全てお任せすると言ったそうだ。
そうして2人は侯爵家の馬車に乗りスラビーズ領を後にした。
「ブリジットは厳罰なんて望んでないわ。今日はこれでいいのよ。」
話を聞き不満げな私に母上はそう言った。
「母上は全部知っていると言っていたな。今回の顛末もか?なぜセドリックの婚約者がブリジットを刺しに来るんだ。そもそもなぜ母上が知ってる?ゴスルジカ公爵家と連絡をとっているのか?」
母上はいっぱい聞くのね、と一通り笑うと話し出した。
「正確にはドリンコート侯爵夫人を通して何もかも聞いている、かしらね。ドリンコート侯爵夫人とセドリック様のお母様が姉妹なのは知っているでしょう。だからビジイが公爵家に嫁いだ経緯も知っているわ。もちろん……」
そこで意味ありげに切ると「ビジイの噂のこともね。」と言った。
噂……
「今回ビジイが刺されたのは完全に巻き込まれただけよ。言ったでしょう。セドリック様の天真爛漫に周りは振り回されるのねって。アリス嬢もその1人だったってことよ。」
だからといって、なぜ。
「もう単刀直入に言ってくれないか。」
なかなか真相に辿り着かずいらいらと返事する。
「まあ、そう焦らないのよ。全て繋がっているの。でもそうね、今聞いた話と憶測もあるけれども。」
そう前置きをすると話し始めた。
「まずアリス嬢を婚約者だと思っているのはセドリック様だけよ。ゴスルジカ公爵夫妻はお会いにはなったけど認めていないの。ゴスルジカ公爵家はセドリック様の頭を冷やす意図でわざわざドリンコート侯爵家におつかいに行かせたそうよ。でもセドリック様はアリス嬢を独断で同行させてしまった。」
ようやく婚約者になったと言っていたのはただのセドリックの思い込みか。
「婚約者と紹介されて当然ドリンコート侯爵家も驚いたわ。でもゴスルジカ公爵家が認めていない恋人を泊まらせる訳にいかず、宿を用意したの。その意味をセドリック様は深く考えなかった様だけど、恐らくアリス嬢は違った。」
その上昨日は自分は放っておかれた上に元妻のビジイに会いに行っていた、と言うわけか。
門衛から聞いたブリジットとアリス嬢の会話はよくわからなかったが、今なら理解できそうだ。
しかしそれが動機?よくわからないな。
「そもそもなぜ婚約を認められないんだ?男爵令嬢だからか?」
「ビジイの悪女の噂は、あなたは知っているわよね。」
逆に聞き返された。
しかし私の答えを待たずに母上が言った。
「その噂を流したのがアリス嬢よ。」
「なんだって?」
「その事をゴスルジカ公爵家は把握している。だから認める事はできない。でもアリス嬢は知られていないと思っている。だから、婚約者になれないのはビジイのせいだと思っている可能性が高い。と言うのが侯爵家と私の見解よ。」
だから、なぜそこでブリジットが出てくるんだ?
黙り込んだ私を見ると母上は「そうね。」と呟いた。
「ではビジイが公爵家に行くことになった所から話した方が良さそうね。」
そう言うと話し始めた。
ロイフラングでの話を。
「わかったでしょう。ビジイはタウンハウスに連れて帰るわ。いいわね。」
話し終えると母上はそう言った。
しかし私は頭を抱え俯いたまま動く事もできなかった。
返事を待たず、母上は私を置いて部屋を出て行く。
なんていうことだ。
私は契約婚で傷ついた彼女にまた契約婚をさせていたというのか。
挙句、彼女を悪女として扱った。
そんな私を彼女はどのような目で見ていたのだろう。
あの初夜の日だって。
理不尽な私の態度に何を思ったのだろう。
あの時彼女は黙っていた。
ようやく開こうとした口は私が塞いでしまった。
ずっと眉を顰めていたのは……
ーーーダン!!
私は拳を机に打ちつけていた。
ーこの国に来たばかりの13歳の女の子に契約なんてー
そうだ、知っていたじゃないか。
13歳だった。
たったの13歳だったんだ。




