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悪女 ーアベルー

「ひどい雨風になってきましたね。」


そう言われて私は窓の外を見た。


「ああ、畑にあまり影響がなければいいのだが。」


そういうと我が家の執事のセバスチャンは少し呆れたような顔をこちらに向けた。


「なんだ?」

「いえ、ただそろそろ婚約者様もこちらの国内に入ってきている頃合いかと思いまして。」


言われてハッとした。

確かに嵐の範囲によれば足止めを喰らっている可能性がある。


「まあそれがアベル様なんでございましょうが、婚約者様がこのお屋敷にいらした際にはもう少しに気にかけてあげてくださいませ。」

「わかっている。」


だが今迄研究一本でやって来たのだ。いきなり女性を気遣えと言われてもなかなか変われるものではない。

ついついセバスへの返事も不機嫌なものになってしまった。


彼女とは手紙でのやり取りを交流を深めた。


そうしていよいよこちらに住み婚約期間の半年後結婚することになり、もうこちらにむかっているのだ。


私は自領の領邸に住んでいるが家族は王都のタウンハウスに住んでいる。

自領は王都に隣接しており、タウンハウスまでは馬で走れば1時間くらいだ。


領地の仕事は父上と長兄がやっておりたまに訪れる。

私は少しは手伝いつつもこちらで1人思い存分研究だけをさせてもらっていたのだ。

しかしそんな気楽な生活も婚約者がくればもう終わり。

少し残念だが隣国からわざわざ来てくれるのだ。

セドリックの言うように幸せに……というのは自信はないが私なりに大事にしてあげることができれば。


ぼんやり考えているとノックの音がした。


「サイラス様がいらっしゃっています。嵐でお困りでこちらに寄られたようで応接室にお通ししました。」


サイラスが?


サイラスもセドリック同様学園時代の友人だ。

私の領地に彼の領地は隣接しており、王都へのタウンハウスまでの道程に私の領地があり、たまにこうして寄るのだが今回は災難だったらしい。


私はメイドにサイラスの面倒を見るように言うと、彼に会う用意をした。








「いやあ!まいった!タウンハウスまでは行けると思ったんだがなあ!」

サイラスはタオルを持ち快活にそう言った。


「急変したね。私も驚いたよ。」

「ああそういえば、アベル。屋敷の前で郵便配達人が雨でパニックになりながら私に手紙を押し付けてきたよ。ここが最後の配達先だと言ってね。」


そう言うとその時のことを思い出したのかクククと笑う。


「手紙に雨は大敵だ、そう笑ってやるな。」

「ハハ!すまない!その手紙はそこに執務机に置いておいたぞ!」


そういうとわたしの執務机をしげしげと見た。


「しかしいつ見てもすごい紙の山だな。ちゃんと把握できているのか?」

「もちろん!」


私は即答する。


まだ何か言いたそうに口を開こうとしたところで部屋をノックされ、メイドがお茶を運んできたので私達はひとまず座った。




「ところで結婚相手決まったんだって?よかったじゃないか。」


お茶を飲みながら思い出したようにサイラスが言う。


「ああ、心配をかけたがセドリックのおかげでなんとかね。」

隠しても仕方がないからと前置きをしてから、セドリックの元妻だという事を言った。


「え!セドリックの元妻だって?!」


こちらが驚くほどびっくりされた。

確かに驚くかもしれないが友人の元妻を娶るという話は別にめずらしい話というわけではない。


「セドリックは素晴らしい女性だと言っていたし、確かに手紙で交流していたが素直な女性のように感じたが。」


なぜか説得するような口調になってしまう。


「素晴らしい女性だと?セドリックが?」

「ああ、そうだが……」

「いや、そうか、セドリックはそう思っていたんだったな……」


そういうとここにいないセドリックに向けてだろう。憐れみの表情を浮かべた。


「一体なんだというのだ?単刀直入にはっきり言ってくれないか?」

思わせぶりなことばかり言うサイラスに痺れを切らした。


するとサイラスはハッとした様な顔をして「そうだな、すまない。」と謝罪した。


「そうだな…、ここまで言って何も言わないなんてな。」


少し逡巡する様な顔をしていたが、覚悟を決めたようにジッと私を見ると言った。



「セドリックの元妻、ブリジット=バールトンはとんでもない悪女だ」




予想外の言葉に目を見開いた。


「あどけない清純そうな顔をして実は浪費家で、男にもだらしがない。なのにセドリックは彼女に夢中だった。しかし彼女はセドリックの愛の囁きも必死の懇願も無視し、セドリックの前で男に声をかける悪女っぷり。しかし欲しいものがある時だけはセドリックに擦り寄っていくらしい。」


あんぐりと口を開けてしまいそうになった。

サイラスは言いにくそうにしていたのが嘘の様に話し出す。


「私も噂だけでいってるんじゃあない。私が家の事業の関係でたまに隣国に行っているのは知っているだろう。その噂を聞き、セドリック達が下位貴族のパーティに出ると聞いて私も急遽頼み込んでそのパーティにでたんだよ。その時に私も見たんだ。セドリックがブリジット=バールトンに必死に話しかけるも彼女はセドリックの方を見もしない。しばらくすると飽きたように休憩室の方へ引っ込んだんだ。そうしてその後を数人の男が追っていった。お楽しみだったんじゃないのかな。」


絶句してしまう。


そんな私を気の毒そうに見ると慰めるようにサイラスが言葉を重ねた。


「しかし君は彼女に溺れているわけじゃない。契約みたいな結婚なんだからうまくコントロールして我慢できなければ離婚すればいい。王宮に勤めるときは結婚は必須だが勤めてから離婚するのは禁止されていないんだから。」


そこでノックの音がした。

サイラスの部屋が用意できたらしい。


彼は部屋を出て行った。


私は部屋で1人座っていたが、ゆっくりと立ち上がると執務椅子に座り書類の山を探る。

バサバサーと音を立てて山の一つが崩れた。

しかしそのおかげというべきか探していたものが見つかった。

ブリジット=バールトンからの手紙だ。


自領の不作を憂う手紙が届き、私が2、3アドバイスをすれば丁寧な感謝の手紙が届いた。

素直に喜び感謝してくれている様に感じた。

次の手紙には、自分の知らない話は興味深い。会って話せたらきっと楽しいでしょうねと書かれていた。

13歳らしい無邪気な手紙だと思った。


セドリックは学園でご令嬢達の憧れの的だった。

太陽の様に華やかで天真爛漫できまぐれな彼にご令嬢達は振り回されっぱなしだった。

だが決して彼が振り回されることなどなかった。


その彼を振り回す女性。


噂を聞いただけでは私も信じなかっただろう。

しかしサイラスは見たと言っていた。


しばらく考えを巡らせた。

しかしいつまでも考えたって仕方がない。


彼女が来たら確かめればいいだけの話だ。


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